アルバムガイド コンテンポラリートラッド篇

アイリッシュをはじめ様々な民族音楽でヴァイオリンが使われています。ここではその中で エレクトリック楽器などを使ってポピュラー音楽との融合を試みているアーティストを中心に紹介しています。 伝統的なアイリッシュの名盤については「アイリッシュフィドルお薦めアルバム選」コーナーを参照ください。 (またEileen IversGWENDALは別ページで紹介しています。)

Ashley MacIsaac/hi how are you today?(1997年)

カナダはブルトン出身の異色の天才トラッドフィドラーAshleyのトラッドとパンクを掛け合わせたまさにミクスチャーなソロアルバム。彼の演奏するトラッドはスコティッシュで、いわゆるアイリッシュよりもさらに泥臭いものだが、その音楽性とストレートにロックするバックバンドは予想以上によく、絶妙の味を出している、中盤フィドルのソロがあるが、ほとんどの楽曲はそんなダイナミックな演奏で占められている。2曲目のみトラッドソングをダンスミュージック風にアレンジ、女性ボーカルによる曲となっており、これが極めて美しい楽曲に仕上がっている。実際この曲はカナダで大ヒットとなったとのことだ。ちなみに彼は最近では日本映画「ナビイの恋」にも出演、熱いフィドルを聞かせてくれている。

LEAHY/LEAHY(1996年)

カナダのアイリッシュバンドLEAHYのデビューアルバム。メンバーはフィドル3人、マンドリン、ギター、ピアノ、ベース、ドラムの8人編成だがソノメンバーは全員兄弟姉妹という大家族バンドだ。このアルバムでは伝統的なアイリッシュをロックフォーマットでやっている。音の方だがリズム隊はシンプルなバッキングに徹しており、バイオリンはアイリッシュの楽曲をやりながらも、クラッシックの教育もつんでいると思われる端正なものだ。バンドのカラーを決めているのは、高音を中心としたリリカルでリズミカルなピアノのバッキング。こういった要素が合わさってきわめて聴きやすく、美しいアルバムとなった。後半、カントリー調の曲やチャールダッシュなどが並び、それはそれで面白いのだが散漫に感じられるのが弱点。

Ashley MaCIsacc/Ashley MaCIsacc(2002年)

カナダはケイプブレナンのフィドラーAshleyの久々のロックアルバム。今回は前作のようなハードなパンクバンドを従えてではなく、 多彩なゲストを迎え、より自然な形でロック、ポピュラー音楽とアイリッシュの融合を試みている。ゲストに5人のボーカルが参加、 13曲中11曲がボーカルナンバーとボーカルの比重が高い。しかも6曲では本人がボーカルを取っていて、そんなにうまくはないが、 低音でリラックスした歌声はなかなか味わい深い。全体の雰囲気は、Eileen Iversの最新作に近いが、女性ボーカルを加えた曲では、 前作のSleepy Maggie同様の吐息系のみずみずしさが感じられる。フィドルについてはフレーズ、演奏にカントリー、ブルーグラスの臭いを 感じさせるのが今回の特徴か。テクニックは相変わらず抜群だ。全体的にアメリカンな感じが増している気がするが、トラッドとポピュラーの融合 という意味では期待以上のできだろう。

LEAHY/Lakefield(2001年)

知らないうちに出ていたカナダの大家族バンドLeahyの2nd。これは素直に素晴らしい。レコード会社をメジャーのVirginに移籍、 前作と同様のトラッドロック路線ながら、より華やかにヴァラエティに富んだ内容になっている。前作では、楽曲の大半は既存の トラッドチューンの再構成で占められていたが、今回はほぼ全てオリジナル。驚かされるのは12曲中6曲をボーカル曲が占めているという ことで、姉妹のコーラスを生かしたボーカルが堪能できる。レコード会社の意向なのか、Corrsなどに近いポップなロックが意外だが、 これはこれで悪くないというところ。その一方でインスト曲では、よりメロディアスな楽曲がアルバムを盛り上げている。 このバンドの魅力であるピアノの高音域でのリリカルなバッキングも健在。ラストのジプシー風の楽曲も圧巻。

LEAHY/In All Things(2004年)

カナダの大家族アイリッシュバンドの3枚目のアルバムは、前作「Lakefield」の路線を踏襲した作風のもの。フィドルがメロディアスに弾きまくるリールチューンをオープニングに、歌ものは前作同様のポップ路線、ところどころにエスニックな雰囲気のチューンを配するという具合。収録曲をブラインドテストしたらほとんどの人がこのアルバムか前作の曲かの区別がつかなさそう。3曲目のボーカルナンバーでのピチカートとキーボードのみのバッキングなど、ところどころに新しいアレンジがあったりして、そのあたりは興味深かったりもするが。とりあえずコマーシャルな意味では完成されているので、新たな驚きは少ないが前作が気に入った人はそれなりに満足できるでしょう。

NIGHTNOISE/THE WHITE HORSE SESSION(1997年)

ウインダムヒルレーベル所属のアイリッシュバンドによるライブアルバム。メンバーはp兼女性vo、g、フルート、フィドルの4人でアイリッシュの要素を取り入れながらも彼らオリジナルのドラマチックな楽曲を見事なアンサンブルで演奏する。本来、ロックやジャズ、等の要素をベースにオリジナルな音楽を繕うとした彼らだけに、その音楽性は高度で、全編アコースティック楽器だけだがその躍動感、スケール感は見事。アイリッシュの要素は、フルートやフィドルの演奏技術、楽曲に使われるスケールにかいま見られるが、泥臭さは皆無で、その透明感の強い音楽性は極上のヒーリングミュージックとなっている。

FAIRPORT CONVENTION/EXLATIVE DELIGHT(1986年)

70年代初頭より活動するイギリスを代表するトラッドロックバンド。彼らは80年代初頭に一度解散したが、中盤に再結成。このアルバムはその2枚目にあたる。新規メンバーの加入により、以前よりもロック色の増した彼らはこのアルバムではインストルメンタルのみで、アイリッシュチューンを見事にロック化している。時代もあって音色もクリアになり、しゃきしゃきとして切れのいいドラミングにのって、ソフトマシーンから新加入のエレクトリックフィドラーRic Sundersが、幻惑的なフィドルを弾きまくっている姿は爽快。時に変拍子もとりいれた彼らののりのりの演奏は、まったく見事である。

Nordes/ESOBARROS NAMARINOS(1999年)

スペインではガリシア地方がケルト音楽の中心地だが、恐らくその出身と思われるバンド。いわゆるトラッドとロック、ポップスをミックスして独自の音楽を展開している。ガリシアのケルト音楽は、同じケルトでもアイリッシュとは多少雰囲気が異なり、どちらかというとより跳躍的でリズミカル、どちらかというとブルターニュ地方のものに近い。ただイスラム圏に近いということもあってか、よりエスニックな感じがする。特にエスニック色の強い男女ボーカルをメインに、バグパイプやヴァイオリン、ギターそれにロック色の強いリズム隊がアンサンブルを展開している。楽曲の構成はドラマチックでかつ適度にポップさも持ち合わせている。癖はあるものの聞き応えは十分だ。

Natalie MacMaster/in My Hands(1999年)

カナダのブルトン島出身の女性フィドラー6作目。1曲目での打ち込みリズムに彼女自身のつぶやくようなボーカルで始まるポップなナンバーが印象的なアルバム。他にエレクトリックな編成で演奏されているのは、ダンサブルな打ち込みリズムがかっこいい7曲め、アメリカのミュージシャンと競演。ロック色の濃いダイナミックな8曲め。あとはアコースティック編成での素直な歌心あるトラッドアルバムになっている。ブルトン出身ということで、音はスコッチ系のトラッド、Ashreyなどと同じく、アイリッシュより擦過音の多いもので、ダイナミックな演奏、かわいらしいストラトペイでの小気味よい演奏、バラードでの美しい演奏どれも一級品である。

Mairin Fahy/Mairin(1999年)

リバーダンスのソロフィドル奏者としても活躍するアイルランド出身の女性フィドラーのソロアルバム。旦那であるギターリストの全面的な協力の下に、ジャケットにあるエレクトリックフィドルを駆使して、端正なエレクトリックトラッドアルバムを作り上げた。楽曲は伝統的なトラッド曲に彼女の兄弟であるパイプ奏者ジェラルドの作品、それに彼女と夫であるクリスとの共作だが、どの曲も伝統的なトラッド曲に忠実なため違和感は無い。フィドルの音色はエレクトリックということもあり、スピード感はあるが安定しおり癖のない美しい音色だ。良くも悪くもいわゆるトラッドの癖、土臭さを感じさせないので、アイリッシュ初心者への入門にいいアルバムだと思う。

Varttina/VIHIMA(1998年)

フィンランドのトラッドユニットの代表作。総勢9名によるその音楽はフィンランドのトラッドをベースにしながらもオリジナルナンバーを中心とし、アコーディオン、フィドル、ブズーキ、ベース、ドラムギターといった楽器をバックに3人の女性ボーカルが畳みかけるようなコーラスワークを聴かせる。その楽曲は、アイリッシュなどとはまた異なる北欧トラッドをベースとした変拍子を多用したリズミカルなもので、エスニックな音階もあり、飄々としながらもある種のすごみすら感じさせる。フィドル自体はアンサンブルの一楽器ということであまり目立つ部分はないものの、このバンドの高度でオリジナルな音楽性は一聴に値する。

Secret Garden/Dawn of A New Century(1999年)

ノルウェイの作曲家ラルフ・ラブランドとアイルランド出身のヴァイオリンニスト フィンヌーラ・シェリーによるニューエイジユニットの3作目、アイルランドの伝統音楽とクラシックをベースに、アイリッシュミュージックの多数のミュージシャンやオーケストラを迎え入れて叙情的なインストルメンタルを紬出す。このアルバムでは、ワールドミュージックの要素を取り入れ、より多彩にスケールアップした楽曲が並ぶ。またボーカルナンバーも多くこれは多数のゲスト女性ボーカリストにより情感を込めて歌われている。ちなみにヴァイオリンはクラシカルな曲だけでなく3曲目などのアイリッシュトラッド的楽曲においても終始クラシック的な優美な音色を聴かせている。(ジャケットは日本盤のものです。)

Eliza Carthy&The Kings of Calicutt/same(1997年)

ブリティッシュトラッドのベテランシンガーを父母に持ちシンガー兼フィドラー兼マンドリン奏者として活躍中のElizaがKings of calicuttというバンドと共演したアルバム。King〜の編成はdr,bにメロディオン、ハンマーダルシマー(箱の中に張られた弦を撥で叩いて演奏する民族楽器)。タイトなリズム隊をバックにダンスチューンとボーカルナンバーが渾然とメドレーで演奏される。ダンスチューンをリズム隊バックにメドレーで演奏するのは昨今のコンテンポラリートラッドによくあるパターンだが、メロディオンやハンマーダルシマーといった変わった編成による暖かみのある音と、多様な楽曲の組み合わせが独自のカラーとなっている。またブリティッシュトラッドということでメロディラインにアイリッシュとは異なる独特の質感がする。

Swap/SIC(1999年)

正確にはaの上に丸がつくこのバンドは、スウェーデンとイギリスの混成バンド。編成はフィドル2人にアコーディオン、ギターで、スウェーデンやイギリスなどのトラッドの要素を取り込んだオリジナル曲を演奏する。編成はアコースティックで、牧歌的な雰囲気のダンスチューンかと思いきや、よく聴くと複雑なリズムを取り入れ緻密な編曲がなされるその曲たちは、様々な音楽の要素が顔を出し、時にドラマチック、高度な音楽性を感じさせる。また女性ボーカルがリードを取る曲もあるが、それはスウェーデントラッドをベースにしていて、ヴァルティナなどに聞かれる北欧的なダークなものをはらんだ独特なもの。ちなみにフィドルの一人は「ヴィオラ・ダモーレ」という共鳴弦を多数張ったフィドル系古楽器を演奏している。

WOLFSTONE/SEVEN(1999年)

ボーカル兼G,b,dr,keyにフィドルとバグパイプという6人編成スコットランド出身のケルティックロックバンドのタイトル通り7枚目のアルバム。トラッドをロックアレンジしたというよりは、ロックにトラッドの要素を導入したという雰囲気で、イントロを聞いた分では普通のロックの曲に聞こえて、メロディが始まるとリールだったりするところが面白い。ボーカルナンバーなどは完全にポップスだったりもする。クリアトーン中心のギター、ピアノ中心のキーボードというアコースティックな雰囲気も魅力的だ。フィドルは特に個性的ではなく少々地味な感じもするが、逆にバンド全体としてのバランスとしては、これくらいの方がいいのかもしれない。

Catriona Macdonald/BOLD(2000年)

イギリス北部のシェトランド諸島出身の女性フィドラーのソロアルバム。バックはピアノ、ダブルベース、 ドラムというバンド編成で曲によってオルガンやアコーディオン、ギターも参加している。 彼女はトラッド以外にもクラシックの教育も受けているということで、フィドルの音色は繊細で優美、 バックがピアノということもあって全体的に上品な雰囲気がただよう。楽曲はシェトランドのトラッド に彼女やピアニストのオリジナル曲で、それらがメドレー形式で演奏されるが、曲によってはバロック風 のメロディも登場したりと、多彩な要素を導入した巧みなアレンジであきさせない。全体のアルバムの イメージはEireen IversのWild Blueに近い感じだが、より学究的な印象だ。

Yann-Fanch Perroches・Fanch Landreau/Daou ha daou(1999年)

ブルターニュのトラッドダンスバンドとして知られるSkolvanに参加していた(現在は2人とも脱退)アコーディオン奏者Yann-Fanch Perrochesとフィドル奏者Fanch LandreauのDuo作品。全編純粋にアコーディオンとヴァイオリンだけでトラッド曲とトラッド調オリジナル曲を演奏しているのだが、そのシンプルな編成にかかわらず、多彩な曲調、ノリのよい演奏とアンサンブルの妙がその編成の薄さをまったく感じさせない。穏やかな曲調から、ダンサブルに展開し、お互いの刻みをバックに巧みなソロを取り合う1曲目などはこのユニットの味を象徴している。その洗練されたスタイルはアコースティック編成でトラッドでありながら、ある種モダンな印象すら受ける。ブルターニュのトラッドは、アイリッシュなどと同じケルト系ではあるが、雰囲気は相当に違い、アイリッシュのある種直線的なノリに比べゆったりと横にゆれる感じが強い。メロディもやわらかくフランスということと編成もありミュゼット風でもあったりする。通して聴くとさすがに後半だれてくる感はあるが、それでも素晴らしいので興味のある方は一聴を。 ちなみにパソコンに入れると楽譜が見れます。

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