アルバムガイド GWENDAL篇

フランスはブルターニュで結成された異色のプログレトラッドバンド。フランスなのにアイリッシュというところが不思議。ジャズやロックに、時々の最新の技術を導入しての独自の音楽性は見事。その時代時代で変幻自在の音楽を作り上げます。めったにCD屋でもお目にかかりませんがもしお目にとまれば是非。
今回は「4」「WAR-RAOG」を追加しました。(2005/9/25更新)
記述に一部誤りがありましたので訂正、改稿しました。(2007/3/9更新)

GWENDAL/JOE CAN'T REEL(1975年)

ブルターニュ芸術学院で1位だったというフルート他担当のYouenn LeberreとギターのJean-Marie Renardを中心に結成された フランスの異色プログレッシブトラッドの2nd。編成はアコギ、フィドル、フルート/サックス、ベース、パーカッションで アイリッシュトラッドにフォーク、ジャズなどの要素を導入。1曲目はいきなりランニングベースから入ったり、曲によっては途中でアドリブソロが入ったりする。 ただ後のエレクトリックフュージョン路線に比べると、まだ楽曲自体はトラッドチューンをそのまま扱っている場合が多く、 オリジナル曲も基本トラッド調。(途中にクラシカルなフレーズを入れたりとかなりひねくれているが) ギターもフォーク調でベースもまだおとなしめ。9曲目だけはSAXが大暴れし次作へとつながっていく。

GWENDAL/A vos desirs (RAINY DAY)(1976年)

フランスのプログレッシブトラッドバンドの3rd。前作までは既存のトラッドをバンドフォーマットで演奏していた感のある彼ら。 今回のアルバムはというと、A面こそ、聞き覚えのあるアイリッシュトラッドのメジャー曲をメドレーで演奏、 編成がギター、フィドル、フルート/サックス、ベースに今回から本格的にドラムが参加したバンド編成であることをのぞけばきわめて オーソドックスな内容だが、一方のB面ではオリジナルの大曲が1曲。そのトラッドとジャズ、ロックを混ぜた異色の大曲で SAXやヴァイオリンが活躍して独自の世界が繰り広げられている。

GWENDAL/Les mouettes s'battent (4)(1979年)

前作に引き続きアイリッシュとジャズ、ロックなどを織り交ぜた路線を突き詰めた4作目。このアルバムから大幅にエレクトリックギターを 導入。前作のB面の大曲のテイストを分けたような曲が並び、どこかで聴いたアイリッシュチューンがレゲエのリズムで演奏されたり、 ジミヘンのようなヘビーで大仰なギターをイントロに演奏される変態さ加減は圧巻。ちょっと悪乗りが過ぎるきらいもするが、 これはこれで一つの頂点。プログレッシブロックファンの間で人気があるのもうなずける。あくまでもアイリッシュチューンを題材に サックス等の導入でジャズ、ロック、エスニック色を出す路線は本作で完結し、次作以降はメンバーを変えて新しい方向性を 模索していくことになる。

GWENDAL/EN CONCERT(1981年)

GWENDALの5枚目にして初のライブアルバム。彼らはヨーロッパで人気のあるグループということでこのライブはスペインはマドリッドで 録音されている。このアルバムの前作「4」でよりロックよりのアプローチを取るようになった彼らだが、このアルバムではその路線をさらに フュージョンよりにした演奏が聞ける。新加入のギターリストFrancis Ovideは、フレンチジャズロック系のアルバムで著名な人で、そのクリアトーン ギターとエレクトリックベースの存在が、初期作の、ある種土臭い感じもするエレクトリックジャズトラッドからフュージョントラッドといった感じの変化を象徴している。リズムもタイトでスピーディになった。1stから参加の Bruno Barreのエレクトリックヴァイオリンが粘っこいソロをつむぐ2曲目や4曲目などは強力。変拍子などの導入の一方、3,4,7曲目では聴いたことの ある著名なアイリッシュチューンも多数アレンジされ曲間に取り込まれている。

GWENDAL/LOCOMO(1983年)

フランスで活動する異色のトラッドバンドの6枚目。創設メンバーでアコースティックギターのJean-Marie Renardが脱退した後の 1枚目であるこのアルバムでは前作ライブアルバムで聴かれた音楽性をさらに洗練させていくことになる。今までの土臭さやあくの強さは 陰を潜め、トラッドの要素にフュージョンやプログレッシブロックの要素を絶妙にブレンドし、一聴したところ牧歌的で聞き流せそうで ありながら、複雑なアレンジと絶妙なアンサンブルをさらっと聴かせる好アルバムとなった。今まではあくまで既存のチューンをベースに 扱っていたが今作ではすべてオリジナルで、アイリッシュとも違う不思議な浮遊感のある曲が並んでいる。それらの曲や演奏から 聴かれる、ジャケット同様の淡い色彩がこのアルバムの持ち味。 編成はdr、g、fl、violin、bにパイプで、新加入のベーシストRobert Le Gallは以後、Youenn Leberreとともにバンドを牽引していく。

GWENDAL/Danse la Musique(1985年)

前作を最後にギターのFrancis Ovideと1stからヴァイオリンを担当していたBruno Barreが脱退、ヴァイオリンにTERPANDRE、Zaoなど フランスのプログレ〜ジャズロック界で名を知られるPatrick Tillemanが参加。そして発表された7枚目のアルバムは、 初めてメンバーの写真をジャケットにしたもので、その音楽は前作をさらにポップにしたフュージョン路線、 AOR調のボーカル曲まで登場した。エレクトリックドラムにバグパイプの音色が乗る2曲目でまず驚かされるが、やはりそれ以上に 5曲目のヴォーカルナンバーが驚かされる。曲はポップなのに、間奏になるとトラッドなのがほほえましい。また極めてさわやかな フュージョンの8曲目も印象的。それ以外に、ギターの音色にディストーションが掛かったものが多いのも今回の特徴。 とはいえ全体の印象は最新の機器と録音でモダンな雰囲気だが根本的には今までと一緒で、その高度で豊かな音楽は見事。 7曲目などギターとフルートの夢見心地がたまらない。

GWENDAL/GLEN RIVER(1989年)

4年のタイムラグの後に発表された8枚目はバグパイプとエレクトリックギターが絡む力強いタイトル曲で幕を上げる。 デジタル機器多用のためモダンな雰囲気が漂うが、バグパイプの音色や、以前ほど楽曲を複雑に作りこまず、 トラッドのメロディを素直に活かした作曲、編曲のため、前作と比較するとトラッド色が強い印象。 メンバーは1stからバンドを率いてきたフルートのYouenn Leberreと「Locomo」から参加のRobert Le Gallにパーカッションとキーボード。 今作では、専任のヴァイオリンニストはおらずRobert Le Gallがベースと兼務している。 曲数が多く全体的にバラエティに富んだ内容だが、今回特に印象が強いのはやはりバグパイプによる楽曲で 1曲目以外でもディストーションギターの泣きのメロディが印象的な6曲目なども。個人的にはちょっと散漫な印象もするが、 集大成という言い方もできるか。ヴァイオリンはちょっと控えめだが。

GWENDAL/Pan ha diskan(GWENDAL)(1995年)

フランスのプログレッシブトラッドバンドGWENDALの 6年の間を持って発表された9枚目。バンドはYouenn Leberre(フルート他)、Robert Le Gall(ヴァイオリン、ベース他)を中心とした プロジェクトと化したようで、曲ごとにメンバーが変わり、時には2人以外のメンバーによるソロも収録されている。 音はデジタル機材使いまくりでずいぶんとすっきりした印象。楽曲は前作の路線の延長線上だが、前作ほどのインパクトはない。 曲によってはStone Ageのような雰囲気もあり、同人脈ではないかという噂もうなずける。全体的に地味な印象が強く、 ヴァイオリンもそれほど出番はないが、時にはっとするようなソロをとったりするので侮れない。ただしあくまで前作 「Glen River」を聞いてからでも遅くないかな。

GWENDAL/WAR-RAOG(2005年)

10年のブランクを置いて久々に発表された新作は、前作までのギターを中心としたエレクトリック色は影をひそめ、メロディ重視の イージーリスニング的な雰囲気さえ感じられるアコースティックで繊細な雰囲気のアルバム。もちろん、彼らならではのロックなチューンも 何曲かはあるものの、わりとシンプルなジグ、リールを多少の味付けを施して演奏していて素直に聴きやすい。また「Danse la Musique」以来の ボーカルナンバーを収録、ゲストの女性ボーカルの繊細な歌声が染みる物悲しく美しい小品が意外な聞き物になっている。メンバーから Robert Le Gallがはずれ、Youenn Leberre以外は全員新メンバーが参加して作られている。フルートのYouenn Leberreが完全に主導権を もっているため新加入のヴァイオリンニストの活躍場所は少なくその点は若干物足りないところもあるが聴きやすいし完成度も高いので一聴の価値はあり。

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