アルバムガイド アイリッシュフィドルお薦めアルバム選

このホームページをはじめるにあたって、アイリッシュをそんなに幅広く聞き込んでいた訳ではなかったので、 アイリッシュの名盤と言われるようなものについては市販のガイドブックにまかせておこうと考えていましたが、ここ数年 アイリッシュフィドルの勉強をしながら様々なアイリッシュフィドルのCDを聴き込んでみて、素晴らしいと思うものに多く出会いました。 そしてそれらのうちにはクラシックやロックを聴く人が聴いても魅力を感じるだろうアルバムが多くあるように感じました。 そこで個人的に一般の人にも聴いて欲しいアルバムを独断で選んで紹介してみようと思います。あくまで独断なので皆様、異論反論あるとは 思いますがご容赦を。(2005/7/25新設)

改めて自分のアイリッシュについての知識不足、音楽に関する語彙不足でちゃんと紹介できていないことを痛感しています。アイリッシュに関する 記事は掲載をやめようかとも思ったのですが、私の紹介文はともかくとして、ここに掲載しているアルバムはとにかく多くの人に聴いてみてほしいなあということで、ちょっとだけ 手を入れさせていただいて引き続き掲載することにしました。アイリッシュ好きの皆様ご容赦ください。(2016/1/16)

Kevin Burke/IF THE CAP FITS(1978年)

アイリッシュ界随一の名フィドラーKevin Burkeの2ndソロ。Peter Browne(Flute),、Michael O Domhnaill(g)、Paul Brady (Mandolin, Piano)、Jackie Daly(Accordion)、Donal Lunny (Bouzouki)というアイリッシュ界の錚々たるメンバーがクレジットされているが皆殆どちょい役程度の参加で、あくまでこのアルバムのメインとなるのはKevin Burkeによる「ソロ演奏」。完全なフィドルソロによる3曲やJackie Dalyのアコーディオンとのユニゾン曲2曲など伴奏楽器がない演奏がこのアルバムのほとんどを占めていて、伴奏にたよらずメロディ楽器だけでメロディとリズム、グルーブの両方を生み出すアイリッシュ音楽本来の魅力を存分に味わえる作品となっている。最近のソロ作「In Concert」でもフィドルソロを演奏しているが、そちらではメロディの変奏や独特の枯れた味わいの方が印象強く、それはそれで魅力的なのだが、このアルバムでの若々しく力強い切れのある演奏は本当に素晴らしい。あまりの素晴らしさにフィドルソロであることに気づかなかったりする。(多重録音の曲もあるが、その場合でも完全にユニゾンでアンサンブルはなし)フィドル1本でこれだけ豊かな音楽が作れることに感動できる名盤。

Kevin Burke/IN CONCERT(1999年)

Bothy Band、Patrick Streetなどの名バンドに参加したアイリッシュ界の名フィドラーKevin Burkeのソロライブアルバム。3曲でMartin Hayesとのツインフィドル、3曲でギターがバッキングしているが大半の曲はKevinの完全なソロ演奏であり、彼のフィドルの魅力を堪能することができる。彼のフィドルの音は参加するバンドやユニットによって質感が異なり、特に割りとゆったりとして繊細さも感じさせる音を聞かせている印象があるのだが、ここで聴かれるのは太く力強い音であり、フィドルの単音だけで見事に躍動感あふれるビートを刻んでいて有無を言わさぬ圧倒的な存在感を感じさせる。正直そのフィドルの音だけでノックアウトされてしまう。またそれだけでなくメロディのアドリブも見事で、ターンごとに変化していくメロディは飽きさせることがない。

Frankie Gavin/IRELAND(1997年)

De Dannanのリーダーでもある名フィドラーFrankie Gavinがギターとアコーディオンという編成でフランスのラジオ局で行った 公開録音をCD化したのがこのアルバム。とにかく力強く躍動感あふれるフィドルプレイは見事で前のめりになりながらも決して 乱れることのない力強く安定した演奏は本当に素晴らしい。1曲目のリールセットだけでノックアウトされてしまう。 De Dananでのプレイでも躍動感はあるものの、バンドとしてのまとまりを意識してかここまではじけてはいないと思う。 これだけ躍動感あふれるフィドルプレイは一体どうやったらできるのだろうか。Kevin BurkeやMartin Hayesがじっくり堪能する感じなのに対し、 こちらは四の五の言わず楽しもうという感じで会場の盛り上がりが目に浮かぶようでとにかく聞いているだけで楽しくなってしまう。 選曲もアイリッシュの有名どころが多く、入門編としてもお薦め。

Paddy Glackin/Glackin(1977年)

ドニゴールスタイルの名手Paddy Glackinの1stソロ。彼は、単独名義の作品よりRobbie Hannan(pipe)やPaddy Keenan(pipe)、Michael O Domhnaill(guitar)など、他楽器の名手との連名作が多く、それらの作品ではどちらかというと脇に周り勝ちなのだが、この1stソロ作は、ほとんどフィドルソロでの演奏になっており、若さもあってか洗練よりも力強さと勢いを重視したドニゴールスタイルならではの骨太な演奏を楽しむことができる。楽曲はReelやJigの定番曲でフィドル1本でのしっかりとした横ノリを堪能できる。一番の白眉は「Mr Crowly’s」と「Rosomon Reel」という2曲のアグレッシブなReelをメドレーにした演奏。ぐいぐいと横にゆれながら疾走する演奏はすばらしいの一言。単独名義では他に「in Full Spate」がありそちらも悪くないが、シンセの使い方が微妙だったりする。芯の通り方は本作の方が上か。

Martin Hayes & Dennis Cahill/The Lonesome Touch(1997年)

アイリッシュの中でもクレア地方のフィドルスタイルは、アタックをあまり強調せずできるだけ柔らかいタッチで演奏するなど、 スライゴーやドニゴールのスタイルとは異なる、繊細さを感じさせる独自の質感がある。 クレア出身のMartin Hayesのフィドルもそんな質感をもちつつ、それだけでない独自の大きく引っ張るようなゆらぎのあるリズム感が 特徴的で、それがクールでありながら躍動感を感じさせる彼の音楽を生み出しているように感じる。そんな彼がアメリカでジャズの演奏を ともにしていたというギターリストのDennis Cahillと組んで発表したアルバムがこれ。間を重視し点描されるギターの上に Hayesのフィドルが緩やかにのる音空間は本当に美しく、アイリッシュというジャンルを超えて魅力的なものだ。特にジグやリールが 淡々とメドレーされならが徐々に盛り上がる3曲目や、やはり静かに始まりながら最終的に激しく盛り上がる10曲目あたりが一番の聞きどころ。

Tola Custy & Cyril O'Donoghue/Setting Free(1994年)

Martin Hayes同様クレア出身でCaricoというバンドでも活動するフィドラーTola Custyとブズーキ(アイリッシュで 多用されるリズムもメロディも取れる4弦の弦楽器)奏者とのデュオ。Martin Hayes同様の端正な音色だが、リズムはスクエアで、 流れるようでありながら安定していてノリのある演奏が特徴。とにかく流麗につむがれるフィドルの音色、メロディが魅力的。 また扱われるチューンもクレアならではの暖かくやわらかなもので聴いていると本当に気持ちの良い気分になれる。 またMartin Hayesもそうだが、クレア出身のミュージシャンのつむぐメロディ、アドリブは、メジャーかマイナーか わからないようなモーダルなスケール感が強く、それが他の地方のスタイルのミュージシャンと異なる独特の浮遊感を 感じさせているような気がする。流麗にすぎるため躍動感を求めるアイリッシュファンにはちょっと微妙な印象の アルバムかもしれないが、聴きやすいのでアイリッシュ初心者には特におすすめだと思う。

Mary Custy & Eoin O'Neil/With a Lot of Help from Their Friends(1991年)

クレア出身のアイリッシュフィドラーである彼女の、ブズーキー奏者とのDuoによるデビュー作。彼女のフィドルの音は一聴すると キコキコといなたい感じがするが、そのスクエアで落ち着いたフィドルプレイは、タイトでかつ実に味わい深いノリを醸していて 非常に魅力的なものだ。半音上げチューニングもそんな彼女の世界にマッチして独特のやわらかい色付けを作品に与えている。 楽曲もクレアならではの良質なものが並び、どの楽曲も魅力的だ。ゲストもSharon Shanon他多数参加しアルバムの幅を広げるのに 貢献している。最近は入手しづらいようだが、是非探して欲しい作品。次作以降、音自体は洗練されていくが残念ながら このアルバムで感じられるような味わいはだんだん感じられなくなっていく。

Tommy Peoples/WAITING FOR A CALL(2003年)

アイリッシュ界の大物フィドラーTommy Peoplesのこのアルバムは1980年代に録音された音源と2002年の最新の録音という大きく時代が異なる 音源を収録。しかし彼独特のタッチが一貫しているため普通に音源だけ聴いてもまったく違和感を感じさせない。 ブズーキ、ギターなどのシンプルな編成をバックに彼のきわめて土臭くノリのあるフィドルがうなるその音楽性はきわめて魅力的。 彼のフィドルは、ピッチが甘く感じられつつも、独特のうねるようなドライブ感ある音で有無をいわせぬノリを感じさせる。 70年代には同様のプレイを披露していたのだがその後90年代くらいのアルバムではわりと落ち着いた プレイを披露、していたが本作収録の新旧音源はすべて激しい演奏スタイルになっている。一聴した感じでは洗練さとは 無縁のプレイにとまどうかもしれないが、そこで繰り出される彼らならではの躍動感は癖になること うけあいです。聴いていればリール、ジグともその太い音色のフィドルがくりだすリズムに自然と体が 動いてしまうはず。個人的には彼の自作曲である表題曲からSpike Irelands Lassesのセットがベスト。 じっくり聴きこむことをお奨めします。

Paul O’Shaughnessy/Stay Another While(1999年)

初期アルタンにも在籍していたアイルランドはドニゴール出身のフィドラーの1stソロ。 何回かの来日もあり日本のアイリッシュファンには知名度のある彼だが、このアルバムは 割りと通好みという印象。というのも他の参加ミュージシャンはギターやマンドリンを弾くFrank Lane氏のみという シンプルな編成で、しかも何曲は完全フィドルソロ。チョイスされているチューンもあまり知られていないものが多く、 しかもメロディアスで情緒的なものより土臭い感じのチューンが多い。だが彼のエッジのたったノリのいいフィドルプレイと、 Jig、Reelにとどまらずair、Highland、Slip Jig、Waltzという多彩でセンスのいい選曲で聞き込むほどに味の出る アルバムになっている。彼のフィドルプレイはスラーが多いなめらかなプレイではなく、 ほぼ全返しに近いゴリゴリとしたもの。ただクラシック教育による正確なピッチ、 それからグイグイと押し出すようなビートの確かさもあり 非常に安定感があり聴きやすい。アイリッシュフィドルのノリを理解するには非常にいいアルバムだと思う。あ と8曲目のワルツは穏やかなメロが愛らしい名曲。

Pat O’Connor/The Green Mountain(2000年)

Mary、TolaなどのCusty一族などに代表されるクレアスタイルのフィドラーPat O'Connorの1st。ほとんどの曲がギターのQuentin CooperとのDuoかソロ。よれたような音色とスタイルでアイリッシュ初心者がぱっと聴くと酔っ払いが弾いているかのように聞こえるかもしれないが、ゆっくりのようで早い、早いようでゆっくりという絶妙なグルーブ感、いなたいようで絶妙にうたっているメロディ・・・と聴けば聴くほど発見と驚きがあるアルバム。特に5曲目に収録されているフィドルソロ”Carty's Pigeon(Dobbin’s Flowerly Vale )/ The Eel In The Sink”のセットなど本当に素晴らしい。曲によって半音上げ下げされるチューニングも独特のゆるい質感に寄与している。ほかにも数作のアルバムがあるが個人的にはこのアルバムがベスト。

Oisin Mac Diarmada/Ar An Bhfidil(2003年)

1999年のアイリッシュフィドルチャンピオンでTeadaなどで活躍する若い世代のフィドラーのソロアルバム。 クレア生まれながらスライゴ―スタイルとのことなのだが、冒頭にTap Roomなど高速で畳みかける演奏もあるものの、 全体にはバリバリと引き倒すというよりは、非常に落ち着いた感じの演奏が多く収録されている。Seamus Quinn(piano)、 John Blake (guitar)、Sean Mc Elwain(bouzouki)など多彩のゲストが参加しているが、完全ソロも多く収録されていて 正確なピッチながら若干いなたいような柔らかいタッチで室内楽のようにゆったりと紡がれる演奏が非常に魅力的で、 2曲目のバーンダンスや9曲目のリール、14曲目のポルカなど、どれもソロとは感じさせない豊かで安定したグルーブが 本当にすばらしい。

Dale Russ/Soul Food(2014年)

シアトル在住のアイリッシュフィドラーDale Russ氏の最新作。頻繁に来日してすばらしいフィドルプレイを聴かせてくれる彼だが、本作はそんなライブで定番のレパートリーを多数収録。ほぼ彼のソロ演奏で、バッキングがあるものについても自分で演奏し多重録音している。彼のフィドルは正確なピッチと滑らかで伸びやかなタッチでありながら、絶妙なスピード感で軽やかにしかし力強くグイグイと進むという感じで、安定感と独特のノリのバランスが本当にすばらしいところで成り立っている感じ。楽曲もセンスの良いリール、ジグのレパートリーにオキャロランなども多数収録されていてバランスもよい。本当にうまいフィドルプレイはフィドル1本だけで他に何もいらないんだということを改めて実感させられる名盤。



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