アルバムガイド Eileen Ivers篇

ニューヨークでアイルランド出身の両親のもとで生まれた彼女は、アイルランド出身のフィドラーMartin Mulvihillからアイリッシュフィドルを学んだあとMick MoloneyのバンドThe Green Fields of Americaに参加、80年代なかばには女性ばかりのアイリッシュバンドCherish the Ladiesの創設メンバーになるとともに1987年にJohn WhelanとのDuoを発表、1994年にはセルフタイトルのソロアルバムを発表し本格的にソロ活動をするとともに、Riverdanceの初代フィドラーとして世界的に注目を集める。以後は青色のエレクトリックヴァイオリンを操り、自らのバンドではアイリッシュとロックや黒人音楽、カリブ音楽などを融合させた独自の音楽性をもったアルバムを次々と発表、現在にいたるまで活躍している。
彼女の音楽性は伝統的なアイリッシュミュージックの技法をベースとしながら、黒人音楽やカリブ音楽などワールドミュージックの要素を導入。エレクトリックヴァイオリンを駆使し、エフェクトやアドリブも入れた独自のスタイルを作り上げている。JohnとのDuo作やセルフタイトル作はシンセなどでの味付けはあるもののまだ伝統音楽のスタイルの範疇での演奏だが、「Wild Blue」以降はリズム隊を入れて完全にフュージョン的なスタイルとなった。伝統的なスタイルのほうが好みなら初期作を、フュージョン的なスタイルが好きな方はぜひ「Wild Blue」から聴いてみてください。

全面改稿しました(2015/11/11)

John Whelan・Eileen Ivers/Fresh Takes(1987年)

ボタンアコーディオン奏者John WhelanとのDuo名義作。二人以外にギターとシンセが参加しているが、のちのソロ作たちのようなアレンジしまくりのバンド作から比べると極めてオーソドックスなトラッド作。フィドル、アコーディオン、ギターに薄くかかるシンセというシンプルな編成でのトラッドスタイルそのものの楽曲が中心だが、冒頭のCastle Kelly’sなどアレンジに工夫をこらしたものも挟み込まれていて飽きさせない。本作での彼女のフィドルはエレクトリックではなくアコースティックで、いかにもフィドル然としていてアドリブなどもない王道アイリッシュのスタイル。一部の曲のアレンジやシンセの導入にのちの彼女の方向性が見いだせるが基本はオーソドックスなアイリッシュアルバムであり、だからこそいわゆる正統派のアイリッシュミュージックが好きな方には一番楽しめる作品だと思う。

Eileen Ivers/Eileen Ivers(1994年)

リバーダンスの初代フィドラーとして名をはせた彼女の最初のソロアルバム。割合、素直にジグやリールなどをメドレー形式で演奏していてまだ次作以降で聞かれるような彼女独自の世界にはいたってないが、1曲目のセットやラスト曲のセットではギター、ベース、コンガなどのパーカッションがバックを固めていて、1セットのメドレーの中でも次々とバックのリズムやアレンジが変化していくあたりはすでにコンテンポラリーな方向性に進み始めている。ただ、まだ既存のアイリッシュチューンの色合いも強く、楽曲としてもカナダのブレトン地方のチューンだったり、クラシック曲である「バッヘルベルのカノン」のスローアレンジだったり、エア曲のフィドルソロだったりと選曲面に散漫さも感じられ、とりあえずやりたいことをやってみた、そんな中途半端さも感じる作品。Natalie MacMasterもゲスト参加していて2人のツインフィドルが聞ける。

Eileen Ivers/WILD BLUE(1996年)

アメリカでのアイリッシュの一大イベント「リバーダンス」のソロフィドラーとして一躍名を馳せた彼女のセカンドソロアルバム。楽曲は既存のリールやジグをアレンジしたものだが、ジャズやアフリカ音楽などの要素も吸収した計算されたアレンジ、バックのリズム隊と一体になった驚異的な演奏がメドレーとは感じさせず1セットごとが1つの楽曲に感じられる。またアルバム全体のバランスもよくアルバム全体としての流れも見事で、アルバム全体が一つの組曲であるかのようなトータル感のあるアルバムに仕上がった。フィドルの音色は激しくも美しい土臭さの感じないもので、とにかくスピーディーで情熱的な演奏はまさに驚異的。楽曲も透明感のあるマイナー系メロディーが中心でそのアルバムジャケットの美しさと併せて極めて完成度の高いアルバムとなっている。

Eileen Ivers/CROSSING THE BRIDGE(1999年)

オリジナルアルバムとしては3作目となるこのアルバムでは、前作を受けてより多様な音楽性を盛り込んだ作品となった。よりストレートにエレクトリック楽器を使用、ワールドミュージック的要素も導入し、アイリッシュという枠に収まらない快作となった。一曲目は、前作を受け継ぎながらストレートなドラミング、エレクトリックベースのバッキングに彼女自身のヴァイオリンもエフェクトを多用もあり、よりロック的ダイナミズムを増している。その他2曲目ではアフリカンコーラスの導入、4曲目はアルディメオラを迎えてのスパニッシュナンバー、5曲目はヒップホップ的アプローチ、9曲目はサンバとアイリッシュの融合。あまりにも幅広い音楽要素の導入でアルバム全体のまとまりは悪いが、まずはその才能に脱帽。

Eileen Ivers&Immigrannnt Soul
/Eileen Ivers&Immigrannnt Soul(2002年)

前作でラテン、カリブ系のワールドミュージックの要素を取り込んだ彼女が続いて発表した本作は、バンド編成名義の作品となった。特に前作から一部楽曲で導入されたアフロ色、カリブ色がより全面に出て、トラッドでありながら南国の雰囲気が漂う独自の音楽性を確立している。特にアルバムの半分をボーカルナンバーが占めているの今作の特徴で、1曲目からアグレッシブなフィドルをバックに、ブルースブラザーズバンドに在籍していたという野太い男性ボーカルが熱い歌声を聞かせてくれる。とは言ってもそれだけでなく、アルバムの最後ではアメリカ移民時代のことを歌った詩の朗読から始まるエアーが荘厳な雰囲気で、アルバムに余韻を持たせている。ということでオリジナリティの高い作品だが、アイリッシュという観点からすると随分遠いところまで来てしまった感もあり、好き嫌いをわける作品ともいえそうだ。

Eileen Ivers/An Nollaig: An Irish Christmas(2007年)

気がつけば前作から久々の作品となる本作はクリスマスをテーマにした企画物。ということでクリスマスをテーマにした唄ものが中心ではあるのだが、インスト面も充実。最近の2作ではエレクトリック化、コンテンポラリー化しすぎていた感があった彼女だが、久々に1st〜Wild Blueの頃の路線に戻り、アコースティックながらギターやパーカッションによる軽快なリズムに隊の上でアドリブも交えたノリノリの彼女ならではの演奏を聴かせている。アイリッシュの定番ダンスチューン「Christimas Eve」や「Apple in The Winter」が取り上げられているほか、有名Reel「Morning Dew」が歌物の一部という扱いで大胆にアレンジされて演奏されているのが面白い。好き嫌いは分かれるかもしれないが。個人的には「Wild Blue」は大好きなので久々に同様のサウンドが聴けたのはうれしい。ただ残念なことに本作を最後に久しくソロアルバムの話は聞こえてこない。



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