アルバムガイド ロックヴァイオリン篇3−ヨーロッパほか編
やはり70年代プログレッシブロックばかりですみません。イタリアはPFMはじめヴァイオリンの入ったバンドが多いのは やはりお国柄でしょうか。ドイツはクラシックの影響が濃いバンドが多いため、ヴァイオリン入りのバンドは結構多いのですが、あまりテクニック的に評価できるバンドは 見当たらないような気がしますが、さてどうでしょうか。
久しぶりに6枚のアルバムを追加しました(2016.2.3)
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Arti e Mestieri/Tilt(1974年)

超人的な手数のドラミングで知られるフリオキリコ率いるイタリアのジャズロックバンドArt e Mestieriの1st。メンバーはキリコのドラムを中心にb、g、Key、violin、Sax兼Vibraphonの6人編成。とにかく終始せわしなくバタバタバタバタと畳みかけるキリコのドラムに引っ張られるかのようにすべての楽器がユニゾンでメロディを奏で盛り上がっていくような音楽性。その一方でメロトロンが多用されていたり、ふと抒情的なボーカルが入るパートなどには妙にKing Crimsonを思わせるようなところもある。リズム的にはジャズロックなのだが、ジャズロックというには妙にメロディアスだったりするあたりが彼らの個性か。ヴァイオリンはそんな編成の中であくまでユニゾンに参加する上物の一つというところで、そこまで際立った活躍をしているわけではないが、彼らの音楽が持つ独特の柔らかい印象はヴァイオリンの参加によるところもあると思われる。



Arti e Mestieri/Giro Di Valzer Per Domani(1975年)

専任のボーカリストが新たに加入しての2ndアルバム。と言いながらボーカルが加入したからといって歌の部分が増えるわけではなく、逆に短いインスト曲がコロコロとメドレーで次々と繰り出される構成になった。音楽性そのものは相変わらずキリコの超絶手数のドラムに引っ張られてバンド一丸で疾走する感じだが、決してシリアスになりすぎない暖かいメロディと曲展開は彼らならでは。前作ではメロトロンの使用が目立ったのに対し本作ではほとんど聞かれず、それにあわせて前作にあった抒情的なボーカルパートがなくなり、よりジャズロック色が強くなったあたりが若干異なる点か。ヴァイオリンとサックスのユニゾンが、柔らかい質感を音楽に付与しているあたりは相変わらずで、ヴァイオリン単体として目立つところは少ないのだが、ではヴァイオリンがいないとどうかというと、この独特の柔らかみが薄れるという点では物足りないのではないだろうか。実際、メンバーが大きく変わりヴァイオリンの参加がなくなった3rdからは大きく作風が変わっていく。



Arti & Mestieri/Murales(2000年)

20年近くぶりに再結成されたArtiの復帰第1作。メンバーはヴァイオリンとサックスを除く、4人のオリジナルメンバーに、サックスの替わりにもう1人のキーボード奏者、そしてゲストのヴァイオリンにCorrado Trabuioという編成。オリジナルメンバーを中心とした再編ということで全盛期の超絶イタリアンジャズロックを期待して聴くと正直ちょっと残念な出来。音楽性としては80年代のフュージョンに近く、フリオキリコの参加も堅実で大人しいバッキングに徹していてあの鬼手数のドラムはほとんどない。よく言えばリラックスした演奏ということになるが、クリック音に合わせてスタジオで重ねましたと言わんばかりの平板で昂揚感のない演奏という感じ。またキーボードのチープな音色やいまさらのオーケストラヒットの使用など、デモテープかと思ってしまうところも。楽曲自体はそれなりに悪くないし、ゲストヴァイオリンはそれなりに好演しているのだが・・・。ということであまりお勧めできません。

Arti & Mestieri/ESTRAZIONI(2005年)

2000年に再結成したArtiが若手メンバーの大量加入で若返り、発表したのが本作。70年代に作曲された素材をベースに前作や往年の曲の再録などで構成されているのだが、一言でいうと傑作。前作が勢いに欠ける残念な出来だったのに対し、本作はバンド一丸となったエネルギーあふれる演奏が全編で展開されている。フリオキリコの超絶ドラムも往年に勝るとも劣らない見事なもの。楽曲は70年代に比べておおらかで力強い地中海色が増した印象で、暖かく聴き易い一方、一つ間違えるとださくなるかもしれない楽曲をキリコのドラムのスピード感とおかずの量で引き締めている。ヴァイオリンには前作にもゲスト参加していたCorrado Trabuioが正式参加。リードを取る楽器がギター、サックス、キーボード、ヴァイオリンと多く、曲展開的にもユニゾンが多いため本作においてもヴァイオリンはそれほど目立たないが、ソロを取る場面も何箇所か見られ叙情的な側面をになっておりやはり欠かせない存在になっている。



Quella Vecchia Locanda/Quella Vecchia Locanda(1972年)

2枚のアルバムを残す70年代イタリアのプログレッシブロックバンドの1st。メンバーはvo兼フルート、key、b、dr、gにヴァイオリンの6人編成で、イタリアならではのカウンタトゥーレっぽい歌いまわし、室内楽系クラシックの味付けがなされた、まさにこの時代のプログレッシブロックという印象の音楽性。ただフルートがJethro tull系の唾が飛ぶような荒々しいスタイルで、リズムがわりとバタバタしていてロック感が強く、それほどメロディについても叙情性がないので、そこまでクラシカルロックという印象はない。ヴァイオリンはエレクトリック、アコースティックとも使っているが、録音のせいもあってか角がたっていてヒステリカルな印象が強い。洗練されていない感じも含めいろいろな意味でイタリアンプログレらしい作品。



Quella Vecchia Locanda/Il Tempo Della Gioia(1974年)

ヴァイオリンとベースがメンバー交代して2年ぶりに発表された2nd。録音状態などもあって全体的に前作に比べて洗練された印象。前作の唾吹きフルートは抑え目になり、全体にバロック的室内楽感が強まり方向性が明確になっている。楽曲も叙情的でメロディアスな曲が増えており、そのあたりも統一感を生んでいる。後半、インスト中心にメランコリックに盛り上がる展開をみせる部分もあるがその部分でも前半の路線の延長線という感じで全体としての違和感はない。ヴァイオリンも前作にあったヒステリックさは影を潜め全体にストリングス的な使用のされ方が多くなされている。ということで前作に比べすっきりとした統一感があり完成度の高いアルバムだが、個人的には前作の雑多な感じも好きだったのでそのあたりは少々残念ではある。

AMON DUULU/TANZ DER LEMMINGE(1971年)

ドイツのサイケデリックロックバンドAmon DuulUによる2枚組の3rdアルバム。ヒッピーコミューンから登場した彼らはサイケデリック、ジャズ、民族音楽などを独自に融合した70年代前半ならではの混沌としたサウンドを築き上げた。このアルバムでも構築された前半とジャムセッション風の後編からなっている。決してテクニックがあるわけではなく、音楽的に洗練されたものでもないが、その独特の癖のある世界はなかなか奥深い。メンバーの一人Chris Karrerはギターとともにヴァイオリンも担当。決して上手いわけではないその音色がサイケデリック色を附加している。

PELL MELL/Rhapsody(1975年)

ドイツのプログレッシブロックバンドの3rdアルバム。このバンドはヴァイオリン兼キーボード兼ギターというThomas Schmittという人物をリーダーにvo、key2人にリズム隊の6人編成。クラシックをロックアレンジして演奏するいわゆるシンフォニックロックという音楽性で、このアルバムではリストの楽曲をモチーフに壮大な組曲を繰り広げている。ただ、ドタバタしたリズム隊、古くさいキーボードの音色、時代を感じさせる野暮ったいアレンジと正直なところ今一度はかなり高い。ヴァイオリンはクラシックそのままの奏法だが、アドリブは一切なし、また録音状態も今一でヴァイオリンの音色が響かず、また楽曲の中で浮き上がってしまっている。アコギをバックにした叙情的なボーカルナンバーなどは悪くないのだが。

Embryo/FATHER SON AND HOLLY GHOSTS(1972年)

ドイツのサイケデリックジャズロックバンドEMBRYO。今回初めて聴いてみたが、このアルバムで聴かれる彼らの音楽性はいかにも時代を感じさせる、インド音楽など民族音楽の要素の色濃いジャムセッション色強いものだ。メンバーは元Amon DullUのドラム、パーカッション兼ボーカルChristian Burchardをリーダーに多数のミュージシャンが出入り。その中でもう一人の中心メンバーとして行動をともにしたのがSAX兼VIOLINとして参加のEdgar Hofmann。Saxとの兼務ということで決してテクニックのプレイではないが、その音楽性にあったサイケなヴァイオリンが時々顔をだして味をだしている。音は時代を感じさせるが演奏はなかなかのものだ。



Charles Kaczynski/Lumiere De La Nuit(1979年)

カナダのアバンギャルド音楽集団Conventumに参加していたヴァイオリニストの唯一のソロアルバム。ヴァイオリンを中心にギターやピアノなどほとんどの楽器を多重録音したもので、メロディ的にはトラッド風味もありつつも、きわめてクラシック色の強いシンフォニー的な作品になっている。楽器はすべてアコースティックで、基本ドラムレスでパーカッションが装飾的に入るくらい。男女コーラスの参加が宗教的な雰囲気を盛り上げるのに効果をあげている。ということで本作はプログレシッブロックの範疇で語られる作品ではあるのだがロック的な躍動感は皆無なのでそのあたりは注意。ヴァイオリンは当然のごとくクラシカルな音色でアンサンブルの中核として活躍。メロディアスで幻想的な演奏を繰り広げている。イージーリスニングに近いクラシカルな音楽を聴きたい方にお勧め。

UNIVERS ZERO/CEUX DU DEHORS(邦題:祝祭の時 1981年)

70年代末から80年代中盤に活動したベルギーの前衛ロックバンドの傑作3rdアルバム。basoon、violin、organ/piano、b、drという編成で、チェンバーロックと俗に呼ばれる彼らの音楽は、近現代クラシックをロックのリズム隊に載せて演奏したような印象だ。その楽曲はメロディよりも和声とアンサンブルを重視したもの。複雑な変拍子による切り返しによってスピード感を増して独特のすごみを持って迫ってくる。メインは管楽器奏者とキーボードが取っているためヴァイオリンは脇役に回っているが、このクラシカルで独特な色合いは、この線の細いバイオリンの色づけによるところが大きい。次作では彼が抜けたため、より硬質な感じに音色が変化した。

Univers Zero/LIVE(2006年)

70年代後半〜80年代前半にチェンバーロックの勇として活躍、一時解散 するも90年代後半に再結成し、近年では積極的にライブ活動も行っているベルギーのUnivers Zeroの初めてのライブアルバム。 リーダーDaniel Denisのドラムを中心にオーボエ、コルネット、ヴァイオリン、ベース、キーボードという編成で漆黒のゴシック サウンドを展開する。選曲は再結成後のアルバムからでアルバム同様の脅迫的な切り替えしで迫るアップテンポナンバーとスローテンポの 陰鬱なゴシックナンバーを聞かせるが、アップテンポナンバーよりミディアム〜スローなゴシックナンバーが選曲の中心。そのため ロック的なダイナミズムを求める向きには若干弱い感じもあるが、1曲目「Xenantaya」はそんな向きにも十分満足できる躍動感あふれる 演奏。テクニック的には完璧でスタジオアルバムかと見まがう整然とした演奏でかつスタジオ以上のノリは見事。ファンなら勿論買い。

DIE KNODEL/DIE NOODLE!(1995年)

このオーストリアのDie Knodelは、一風変わった音楽を演奏するバンドだ。メンバーはファゴット、ヴァイオリン2人、クラリネット、トランペット、ハープ、ベース、ギターの8人にOrganisationとクレジットされる人物が一人。この室内楽的編成により、フォークやポルカ、室内楽、ロック、ポップスなど様々な音楽をベースに不思議なアンサンブルを展開する。現代音楽的要素も入った、かなり屈折した音楽だが意外にもその印象は愛らしく聴きやすい。曲によっては女性ボーカルの曲もあるがこれまた不思議な雰囲気が漂う。ジャケットもコミカルで可愛らしい。前衛は苦手という人もぜひ一聴を。

DEVIL DOLL/Eliogabalus(1990年)

スロヴェニアのプログレッシブロックバンドのセカンド。うーん、これは何と評したらよいやら。B級ホラーのような中世趣味に、大仰で下品なボーカル。ピアノとヴァイオリンのクラシカルなバッキング~オーケストレーション、気がつけばギター、ドラムが入りハードロックっぽくなっていたりするがギターソロとかはなく、あくまでボーカルメイン。そんな感じで1曲20分で全2曲。やっていることはなかなか凄いのだろうが、なにせ全体的にB級臭く、しかもどうもわざと狙っている節がある。バンドなのかプロジェクト名なのか、メンバー何人いるのか、知らなくてすいません。ヴァイオリンの登場シーンはそこそこ多いが、あくまでクラシカルな味付けに終始。まあ興味のある人は聴いてみてください。

DEUS EX MACINA/DE REPUBLICA(1994年)

イタリアで活躍する現役のプログレッシブロックバンドの3rd。ジャズロックのスピード感と変拍子の切り返し、地中海音楽の影響も強いエキセントリックで偏執的なボーカル、ギターのハードロック的な質感、そしてバイオリンの不安感を醸し出すエキゾチックな音色。何とも濃いイメージを醸し出すバンドである。というわけで、なかなか一般受けするとは思えないのだがそのオリジナリティと楽曲、演奏のさえは一聴に十分値するものだ。バイオリンは時にヒステリックに時に情熱的に近現代的なスケールにのって独特のソロを繰り広げ、このバンドに無くてはならない存在になっている。

Mago de Oz/LA LEYENDA DE LA MANCHA(1997年)

詳細は判らないがスペインのヴァイオリン入りヘビーメタルバンドによるドンキホーテをテーマにしたコンセプトアルバム。いわゆるヘビメタ王道の楽曲の中に何故かヴァイオリンがソロを取っている不思議なバンドだ。たとえば2曲目では典型的なヘビメタの楽曲からいきなり間奏に入るとヴァイオリンがハンガリー舞曲を弾き出す。だが本来の「ハンガリー舞曲」が重音を多用した楽曲であるのに、ここでの演奏は単音引きであるあたり、テクニック的には疑問の余地がある。また音色はマイクで拾ってはいるのだろうが完全に生音で一切加工されていないあたりも興味深い。何故か何曲か完全にトラッドの楽曲が入っており、意外とこちらがこのヴァイオリンニストの本職なのではという気もする。

Midian/SOULINSIDE(1994年)

イタリアのプログレッシブヘビーメタルと言うべき特異な音楽性のバンドがこのMidianだ。ギターやボーカルなど音楽性のベースは完全にヘビーメタルなのだが、アルバム冒頭から多用される変拍子の切り替えしと、複雑に構築された楽曲。そして要所要所で叙情的なヴァイオリンが登場し、クラシカルな雰囲気をかもし出す。ヴァイオリンの入り方も、Mago de Ozのような強引さはなくきわめてスムーズ、とその音楽はきわめて独自のスタイルを作りあげている。ヴァイオリンも非常にうまく3曲目のac-gとのデュオなど見事に聞かせてくれる。ただ全体の印象として、楽曲にもう少しキャッチーさがあればいいのだが、という感じがした。変拍子もあまり楽曲にプラスに働いてないような気がするのだがどうだろう。

Grauco Fernandes/Grauco Fernandes

ブラジルのヴァイオリンニストのソロアルバム。この人物はプログレッシブロックバンドにも参加しているようだが、ここで聴かれるのはエレクトリックバイオリンが端整な音色を聞かせるメロディアスなジャズロックインスト。G、key、dr、bをバックに、リバーブのかかった音色で情感豊かな美しいインストを聞かせる。楽曲はほとんどの部分がきっちりと作りこまれているようで、アドリブパートは少なく、激しいインタープレイといった感じではないが、楽曲のよさで気持ちよく聞ける。特に3曲目の「Soli」はエレクトリックヴァイオリンの音色が映える名曲。はったりのない豊かな音楽性は素晴らしい。

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