アルバムガイド ロックヴァイオリン−Flairck篇

オランダのアコースティックユニットFLAIRCK。編成はアコースティックながら叙情的な楽曲とロック的なスピーディでダイナミックな 演奏でプログレッシブロックファンに人気の高いバンドです(というわけで本当は「ロック」 ではないような気もしましたがこのコーナーで紹介しています。)ヴァイオリンはクラシック、ジプシー系ですが熱い演奏がとにかく素晴らしいです。またライブではメンバーが演奏しながら様々な楽器を持ち替えたり、 ユーモラスなパフォーマンスを行い観客を 楽しませていました。90年代前半には何回か来日公演も行っていたとのことで、見れなかったことがつくづく残念です。 一時期は、リーダーであるギターリストのErik Visserのソロプロジェクトとなってしまったようで、ヴァイオリンも 編成からはずれてしまいましたが、2012年には再度ヴァイオリンが加入したパーマネントなバンド編成で 活動し久しぶりの来日も果たしました。さらには2014年には全盛期のメンバーが再集結して来日、その編成でのライブ盤も発売されるなど現在でも現役で活躍しています。 ヴァイオリンの観点からこのバンドを楽しむなら入手しやすいライブ盤「ALIVE」や初期3作のコンピレーションから入ることをお奨めします。

4枚のCD&DVDを追加しました。(2016/1/16)


FLAIRCK/Variaties op een dame(1978年)

オランダのアコースティックグループFLAIRCKの1st。様々な楽器を駆使して絶妙のアンサンブルを聞かせる彼ら。当時のメンバーはギターのErik VisserにフルートなどのPeter Weeker、Erikの弟Hans Visserがアコースティックベースギター、そしてこのアルバムのみヴァイオリンでJudy Shomperが参加している。ErikとPeterの双頭体制ということで作曲は2人がそれぞれ担当しA面に小曲4曲、B面に大曲1曲と言う構成。A面の曲は穏やかな曲とアグレッシブな曲を交互に配してメリハリをつけている。特に彼らの代表曲であり後々まで演奏されるSofiaは躍動感あふれる素晴らしいでき。メロディアスでかつロック的な躍動感のあるリフの反復を中心に楽曲を築き上げていく独自のスタイルはこの時点で完成されている。B面の大曲は前半はクラシック然とした地味な雰囲気だが中盤からアップテンポになりポリリズム的なリズムにのって見事なアンサンブルを聞かせてくれる。

Flairck/Gevecht met de engel(1980年)

ヴァイオリンにSylvia Houtzgerに交代し黄金編成となっての2nd。1st同様にA面に小曲4曲、B面に大曲という構成だが、A面の小曲にはSOFIA同様の代表曲「Oost-West Express」やアイリッシュトラッドの代表曲「Butterfly」を変奏しアップテンポにアレンジした2曲目、そして美しい切ないメロディが光る4曲目「De Stoomwals」と粒ぞろい。B面は3部構成だが、いきなり東欧民俗音楽調のアグレッシブなオープニングから激しいアンサンブルを聞かせた後、2部では1転静謐なギターソロやゆったりした美しいメロディをつむぎ、3部では最初ゆったりすたーとしつつ最終的にはエキゾチックなアンサンブルへと回帰しシンフォニックに大団円を迎える。前作の要素を踏襲しつつ全てにおいて上回った初期の代表作。

Flairck/LIVE IN AMSTERDAM(1981年)

2nd発表後に行われたライブを収録した2枚組ライブアルバム。1曲を除き既発の2枚のアルバムから均等に選曲されていてアルバムと変わらない緻密で躍動感あるアンサンブルを聞かせてくれる。ライブのアグレッシブなノリは見事だが、ほぼ同じメンバーによる90年のライブ盤「ALIVE」と比べるとこちらの方がクラシカルでゆったりした曲が多い分、若干繊細な感じもする。ちなみにスタジオ盤未収録の大曲「The day you left」はインプロビゼーションを元にしているためスタジオレコーディングに向いていなかったとのこと。それにしても「ALIVE」同様曲間、曲中で観客の笑い声が聞こえたりして、おそらく大道芸的なことをやってるんだろうが音ではわからないのが残念。MCが長く収録されているのもこのアルバムの特徴だ。

Flairck/Circus(1981年)

このアルバムから「Del Masque」までフルートのPeter Weekerは不参加で、 Erik Visserの妹Anettがフルート類を担当、Erikと並び作曲を手がけていたPeterの不参加により Erikの嗜好がよりストレートに反映される結果となった。このアルバムでは10分強の曲全4曲という 構成になっていて、その中でも特に2,3曲目がそれぞれCircus1&2、3&4と組曲となっている。今回新たに鍵盤打楽器奏者が参加 したことによってよりアンサンブルに厚みが出て各曲ともよりシンフォニックで構築的になっている。 特に表題曲では、冒頭のいかにもサーカスと言ったコミカルでありながらどこか物悲しいメロディが 全編にわたって変奏され20分以上の大曲へと築き上げられていて聴き応え十分。また1曲目ではカントリーテイストが新境地、4曲目ではタブラが活躍するあたりなど旺盛な探求精神と雑食性がみられる。

FLAIRCK/Flairck&Orchest(1982年)

CIRCUSの編成でオーケストラと競演した作品で、A面にはアンデルセンの童話をテーマにした20分に及ぶ大曲、B面では2ndアルバムのB面を締めていた大曲を収録している。A面の楽曲では女性ボーカルが全面的にゲスト参加。冒頭のメロディアスなテーマでは美しく、中盤では魔女役かと思われるようなコミカルな声で歌ったりと、物語にあわせて演じ分けているようだ。元々がオーケストラのために書かれたとあって全体的にゆったりとシンフォニックに楽曲は盛り上がっていく。ボーカルの声質もあり場面によってはシンフォニックロックバンドのRUNAISSANCEを思わせるところもある。一方のB面は元がアコースティック編成のための楽曲なので、ゆったりした展開ではいいが、速い展開の部分では運動性が落ちている感じがする。そういう点でFLARICK本来の魅力であるスピード感、ノリの良さはないので他のアルバムを聴いてからでも遅くはないのでは。

Moustaki&Flairck/Moustaki&Flairck(1982年)

前作「CIRCUS」の編成に、フランスの実力派シャンソンシンガーGeorges Moustakiを迎えてコラボレートしたのが このアルバムで作曲もMustakiとの競作が大半を占める。Mustakiは素朴で穏やかな歌声のシンガーであり、そのためもあって FLAIRCK側の演奏も繊細に穏やかに彼の歌のバックアップを行っている。そのため普段のアクロバティックで躍動感のある演奏も 一部では聞かれるもののメインは彼の穏やかな歌でありその歌世界との調和である。楽曲自体もゆったりした穏やかなものが多く アップテンポないかにもFLAIRCK的な雰囲気は6,8曲目くらい。というわけであくまでヨーロッパのおだやかなアコースティック 歌物アルバムとしてじっくり味わうべき作品。

FLAIRCK/BAL MASQUE(1984年)

このアルバムは仮面舞踏会をテーマにしたバレーの音楽として作られたもので、そのため今までの アルバムと赴きを変えオーケストラが参加してクラシカルに展開する異色の1枚。ビバルディの 四季の「夏」が演奏されていたりもするがこれは仮面舞踏会の途中のBGMとのこと。 アルバムのハイライト「TANGO」は、後々まで演奏され90年代のアルバム「CHAMBER」でも再演される 名曲だ。ただ他の楽曲に魅力的なメロディが少なく全体としていつものアコースティックで 小気味のよい雰囲気も感じられないのでこのアルバムを聴いただけで彼らの音楽を理解することは困難だろう。 ちなみに前作からAnnet VisserとHans Visserが抜け、フルート、チェロが新たに加入しての編成となっている。


Flairck/ENCORE(1985年)

Flairck3作目のライブ盤であり、「Flairck &Orchestra」に続く2作目のオーケストラとの共演ライブ盤。今回の目玉はA面全体を使った3rdアルバム「サーカス」の表題曲のオーケストラとの共演による再現、B面では1st1曲目であるAoifeと本作のみ収録のボーカルナンバーArabeskという2曲を収録。この時期のFlairckは「Flairck&Orchestra」の時からベースが交代した編成ということで全体の印象も前作と大変似た感じ。ヴァイオリンはオーケストラの影に隠れてしまいあまり存在感はない。演奏は達者だし迫力もある好ライブ盤ではあるが、彼らの魅力というのはあくまで小編成でのアコースティックプログレといった演奏なので、あくまで番外という位置づけか。ちなみにBoxセットに収録されたが今のところ単独ではCD化されていない。

FLAIRCK/Sleight of Hand(1987年)

前作からまたもやメンバーチェンジしPan FluteのPeter Weekerが復帰しての5人編成となって発表された この作品ではシンセや打ち込みなどの当時の最新技術がふんだんにとりこまれたエレクトリック、ロック色の 強いものとなった。さらにゲストにプログレッシブロックの名盤Tubullar Bellsで有名なMike Oldfieldのアルバムで ボーカルを取っていたMagie Reillyを迎えてのボーカルナンバーを4曲収録。そのサウンドはまさにMike Oldfieldの アルバムに収録されていてもおかしくない透明感のあるポップスで完成度は高いが所謂Flairckの作品としては 異色。残りのインストも曲はFlarickならではのアップテンポでメロディアスなナンバーが並ぶが、バックの どたばたとした打ち込みリズムが彼らのアコースティックな味を損ねてしまっているのは残念。最新技術を 駆使してみたかったのだろうが今聴くとそれが古臭さでしかなくなっているのはなんとももったいない。

FLAIRCK/The Emigrant(1989年)

このアルバムは10枚目のアルバム「TEN」にシングル「Sofia」を加えて再発したもの。 前作「Sleight of Hand」で初期メンバーのPeter Weekerが復帰。再び、Erik Visserと 作曲を分け合う形で作られた作品。そのため雰囲気としては2ndなどに近い。ただ 初期のアルバムがメンバーのみによる演奏だったのに対し、今作ではストリングスがバックに つくことで初期テイストに若干シンフォニックな色付けをもたらしている。前作同様、 打ち込みも使われているが、前作のようにいかにもといった感じではなく自然に導入されていて 違和感がない。また全体的にマイナーのメロディが多いためシリアスな雰囲気が強い。 全体的に若干地味な印象もあるが、曲自体は魅力的なものが多い名作といえる。ちなみに追加収録の 「SOFIA」は1st収録曲を打ち込みのリズムサウンドの上で再演したディスコティックなナンバーで、 こういったポップさも悪くないがアルバムとしての一貫性をそこなっているのは残念。

FLAIRCK/ALIVE(1990年)

Emigrant発表後のステージをフルで収録した2枚組みライブアルバム。当時のベスト選曲で、彼らの乗りに乗った演奏を堪能することができる。全体的にアップテンポのアグレッシブな演奏が多く、スタジオでは大人しめの演奏だった「emigrant」などでもアレンジを変え、ギターの激しいカッティングに笛、ヴァイオリンがアップテンポに激しく畳み掛けてきて非常にかっこいい仕上がりとなっている。「LIVE IN AMSTERDAM」に比べても激しくたたみかえるような印象が強い。彼らの本領がライブであることを痛感させられる名作。相変わらず、誰がどの楽器を演奏しているのかわからんが次々と様々な音色が飛び出してあきさせない。とにかく演奏は完璧、選曲もすばらしいのでまず初心者はこのアルバムから聴いてみてください。(ジャケットは廉価盤です)

Flairck/The Parade(1992年)

オランダのアコースティックユニットフレアークの11枚目のアルバム。ボッシュの絵画をテーマにしたコンセプトアルバムでそのため1曲1曲は断片的な色合いが強くトータルで1つの作品というイメージになっている。このあたりから再度Erik Visserの志向がより前面に出てきて、今までのジプシーバンド的なバンドノリから、作品嗜好、芸術的色合いが強いプロジェクトへ変化していくが、このアルバムではまだバンドとしての側面とのバランスがとれていて多彩な演奏、アレンジを楽しむことができる。曲によってはストリングスの入ったシンフォニックなアレンジやドラムやエレキギターが導入されていたりするが、それも自然で違和感はない。個人的にはオープニングや、フルートとバイオリンのメロディが美しい13曲目などが気にっている。ちなみに長年ヴァイオリンをつとめたSylvia Houtzgerは前作で脱退。今作では別のヴァイオリン二ストが参加している。

FLAIRCK/KAMERS-CHAMBERS(1994年)

前作をもってフルートのPeter Visserも脱退。ヴァイオリンの代わりにチェロやアコーディオンが参加 するなど大幅にメンバーチェンジを行い、Erik Visserのプロジェクト化が進んでの12枚目。 オランダのプログレッシブロックバンドKayakのキーボードをゲストに シンセサイザーを導入、シンフォニックロックに通じるシリアスな曲調が多い一方、 バロック調の楽曲や、ダンサブルなボーカルナンバー、多重アカペラによる曲など多彩な演奏も聞かせる。 どうもコンセプトアルバムのようだが内容は不明。 「ALIVE」などで聴かれるアコースティックバンドとしての姿からは大部異なる姿になってきているが これはこれで楽しめる。ちなみに当時のライブ映像を海賊盤で見たが、「ALIVE」に通じるアクロバティックでノリの いい演奏を繰り広げていてこの時点でもエンターテイメントとしての側面をしっかり維持していたことが覗える。

FLAIRCK/de Gouden Geuw(1996年)

邦題「黄金時代」。前々作を最後に主要メンバーだったフルートのPeter Weekersが脱退し、リーダーであるギターのErik Visserのプロジェクト化が進んだFLAIRCK。この作品では再度メンバーチェンジが行われ、アコーディオン、チェロ、パーカッション、フルート、ヴァイオリンに女性ボーカルという7人編成となっている。このアルバムはオランダの大航海時代をテーマにしたコンセプトアルバムということだが、ここで聴かれるのは完全にクラシックよりの音楽だ。このバンドの魅力は本来アコースティックな楽器を使っていてもポップなメロディ、スピード感、キメなどにあったのだが、残念ながらここではそういったものは感じられない。あくまでもバロック風の音楽。親しみやすいメロディの不在が特に痛い。もちろんクオリティ自体は高いのだが、とりあえず他のアルバムから聴くことをお奨めします。

FLAIRCK/Symphony for The Old World(2000年)

もともとリーダーのErik Vissserのソロプロジェクトとして企画された本作は、ヨーロッパ各地の民族音楽系のミュージシャンを集め、ヨーロッパ各地の民族音楽をベースにした4パートの組曲を演奏したライブを収録したもの。各パートは「西」「東」「北」「南」と名づけられ、それぞれアイリッシュ、東欧、北欧、スパニッシュをモチーフにしている。編成は前作「黄金時代」からErikほか、アコーディオン、フルート、ボーカルの3人、そして新たに、ボーカル、スパニッシュギター、チンバロン、イーリアンパイプなど5人が参加。ヴァイオリンはMirella Pirskanenというフィンランドの女性が、ハルダンゲルフェレという民族フィドルと兼務している。アルバム全体としてのスケール感は大きく、またコンセプトもあって民族音楽色が強い。そういった音が好きな人向きだと思うが、若干冗長な感じがしなくもない。


Flairck&Corpus/Circus Hieronymus Bosch (2002年)

1990年代後半にErik Visserのプロジェクトと化し、異種格闘技戦のような様々なコンセプトのライブを次々と行ってきたFlairckが、同郷の舞踏集団CORPUSと共演したライブDVD。異端の天才画家Hieronymus Boschの絵画世界を音と演劇で再現するというコンセプトをもとに、ボッシュの絵画のスライドと怪しげな舞踏と彼らの演奏が錯綜する幻惑的なステージ映像は類をみないオリジナリティの高いもの。楽曲は過去作のCircusやTen、The Paradeの収録曲をピックアップし新曲部分をはさみながら再構成したもので、メンバーは当時教鞭をとっていた音楽学校の生徒などからスカウトしているようで、弦楽器としてはチェロなどが参加しているが残念ながらヴァイオリンの参加はなし。いわゆる全盛期の個人技を堪能するタイプの演奏ではなくアンサンブル中心の演奏だが、舞踏集団とのコラボは見事でライブの完成度は高い。


Flairck & Basily/Global Orchestra(2011年)

Corpusとの共演以後、ソロでのライブ、一時期的なPeter Weeker、Annet Visser組との合流、世界中から若手メンバーを集めての新たなバンドの結成と紆余曲折がありながらアルバムの発売はついぞなかったFlarickが久々に発表した本作はジプシー楽団Basilyとの共演ライブ盤でCD単独とCDとDVDのセットで発売された。編成はジプシー楽団BasilyのメンバーにギターのErik、当時の新バンド組のフルートJeroen Goossens、同じくベースPablo Ortiz、同じくチンバロンMarius Preda。さらにそれ以外にインドネシアのジャズヴァイオリニストLuluk Purwanto, ハンガリーのパーカッショニスト Antal Steixnerという多国籍多人数編成。楽曲はDark EyesやMinor Swingなどジプシー楽団の定番曲にCircusなどFlairckの定番曲。演奏は熱く見事だがジプシーミュージックよりのためFlairck本来の魅力とはまた違ったものであるのも事実。ヴァイオリンはBasily側のいかにもジプシーヴァイオリンも悪くはないがインドネシアのヴァイオリニストLulukの飄々としたよれたヴァイオリンが味わい深い。


Flairck/Lady's Back(2014年)

Global Orchestraでの活動を挟みつつも新編成で新曲満載の来日ライブも行ったFlairck。すわこの編成で新作発表となるかと思いきや、まさかの80年代の全盛期を支えたヴァイオリニストSylvia Houtzger、さらにPeter Weekerまで参加しての全盛期メンバーによる再結成、そしてそのメンバーによる来日さらにはライブ盤の発表という予想外の展開となった。ということで、前作同様、CD単独フォーマットとCD+DVDという2種類のフォーマットでの発売となった本作、まさに全盛期メンバーによる全盛期ナンバーの再現ということで、衰えを知らない白熱したパフォーマンスとなっている。その一方であくまで旧作の再現となっていて、新鮮な驚きはない。これまで1作ごとにコンセプトを変え新たなチャレンジをしてきた彼らだけに、ちょっとその点が残念だったりもする。ちょっとErikのギタープレイが粗くなっていてそのあたりも気になる。



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