アルバムガイド ブルーグラスとブルース篇

Don Sugarcane Harris については別ページをご覧ください。

Kenny Baker/Plays Bill Monroe

Bill Monroe率いるBluegrass Boysですばらしいフィドルを聴かせていたKenny Bakerのソロアルバム。Bill Monroe自身も参加してのMonroe作品集でインストのみの作品がチョイスされている。Bluegrassというとシンプルなコードに乗ってボーカルがはもり、その後に各楽器のソロ回しが続くという印象があるが、このアルバムで聞かれる楽曲はシンプルながら多彩。ワルツ、ラグ、ブレイクダウンと緩やかな音からせわしない曲まで、どれも幌馬車や赤い大地といった西部劇の世界がイメージされるものだ。フィドルの音も土臭さ満点。だけれどもそれが全く嫌味にならないのはさすがである。

Mark O'Connor/elysian forest(1988年)

ブルーグラスの天才フィドラーとして74年にデビュー。70年代はバンジョー、ギターなども操るそのテクニックでブルーグラスフィールドで活躍したが80年代にはいると、よりコンテンポラリーな音楽を追究するようになった。このアルバムではヴァイオリン、ギター、シンセサイザーを操って、ストリングスも導入した大陸的なたおやかな美しい音楽を展開している。彼のヴァイオリンは、ブルーグラスを起点としながらもクラシックの要素も強く、その為ブルーグラス特有な泥臭さのない、柔らかさが感じられる。テクニック的には完璧。アメリカを代表するコンテンポラリーフィドラーだ。最近はよりクラシカルな音楽を追究している。

David Grisman Quintet/David Grisman Quintet(1977年)

アメリカブルーグラス界を代表するマンドリン奏者D・Grismanが独自の音楽を展開するために結成したグループのファーストアルバム。編成は二人のmandolin奏者に、acg、bそしてヴァイオリン奏者の5人。その音楽性はジャズ、ラグタイム、ブルーグラスといった音楽をベースにし、マンドリンをはじめとしたアコースティック楽器だけでスピーディーなリズム、そしてメロディアスでどこか寂しげなメロディを紬あげるその新たな音楽をドーグミュージックと自ら呼称した。メインを取るマンドリンのリズミカルで粒建ちのいいソロに対し、名手Darol Angerのジャズ、ブルーグラスの影響をうけたバイオリンはメロディアスで流麗な部分を担う。アメリカならではの哀愁を感じさせるアンサンブルは素晴らしい。

THE CHICAGO STRING BAND/THE CHICAGO STRING BAND(1966年)

エレクトリックギター登場以前のブルースの中心楽器はフィドルだった。そんな当時の音楽を66年に再現したのがこのアルバム。編成はフィドル、ギター、マンドリン、ブルースハープという編成で、リラックスしたオールドブルースを聴かせてくれる。そんなフィドル全盛のリアルタイムから演奏しているCarl Martinのフィドルによるブルースソロは、それなりにざらついた感じでブルースフィーリングを感じさせるが、やはりひょうひょうとした印象で、エレキギターの音色と比べると深み、緊張感は明らかにない。フィドルが廃れてしまったのも当然か、という感じがするもののまあ一つの持ち味として、のんびり聴くのも悪くない。実際は知らないものの、何となく古き良きアメリカが頭にイメージされてくるのである。

Clarence" Gatemouth" Brown/gate's on the heat(1973年)

ブルースギターリスト兼シンガーとして有名な彼は、ヴァイオリンの演奏能力も高く、時にブルースの曲でギターのように粘っこいヴァイオリンを聞かせてくれる。このアルバムではタイトルナンバーを始め3曲でその腕前を披露。そのタイトルのブルースナンバーでは全編ブルースギターのテクニックをそのままヴァイオリンに持ち込んだような力強い音色で切れのいいソロを延々披露してくれている。残りのうち1曲はカントリー調のナンバーで、そこではいかにもカントリーらしいダブルストップも使った早回しのソロを披露。何とも多彩な人である。個人的にはブルースバイオリンをこれだけ弾ける人は少ないだけに、もっとヴァイオリンを弾いてくれると嬉しいのだが。

Nickel Creek/Nickel Creek(2000年)

アメリカで人気のあるブルーグラス出身のグループで編成はマンドリン、ギター、フィドル。基本的にはブルーグラス、カントリーをベースとした音楽性ではあるが、よりポップでフォーキーなボーカルナンバーが中心。(ボーカルは3人で取り分けている)またインストについてはドーグミュージックっぽい雰囲気もする一方リールやジグなどのアイリッシュっぽい曲も演奏するなどアイリッシュの影響も感じられる。というわけでいかにもブルーグラスという乾いたトーンではないウェットで暖かいその音楽性は普通のロックファンやアイリッシュのファンなどにも幅広く受けいられそう。ちなみにフィドルは全体的に控えめでボーカルナンバーではバッキングが中心。インスト曲でもそんなに自己主張はせず落ち着いた音を聞かせている。

VA/FIDDLER'S FIELD(2000年)

中村とうよう編纂によるシリーズの1枚であるこのアルバムはアメリカンフィドルの歴史を概観できるコンピレーション。アイルランドからの移民によってアメリカ大陸に持ち込まれたフィドルがいかにアメリカ独自の音楽としてのウェスタンスイングやブルーグラスへと変化、発展していったか、入手困難な音源を多数集めて見事に俯瞰できるようにした好企画だ。「フィドルの本」の著者茂木健氏も内容に関与していて、同本のアメリカ部分のテーマに沿った内容になっている。ただしそのためもあってジャズヴァイオリンについての評価は低い。しかし、そんな彼らが唯一評価するジャズヴァイオリンニストStuff Smithのハニサックルローズは、選ばれるだけある見事な名演である。

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