アルバムガイド ブルース・ロックヴァイオリニスト Don Sugarcane Harris篇

60年代末〜70年代に活躍したアメリカのロック・ブルースヴァイオリニスト。50年代にDon DeweyとのロックンロールデュオDon and Deweyでデビュー。 このDuoでは主にギターとボーカルを担当していたが、解散後ヴァイオリンをメイン楽器としてソロ活動を展開。60年代末のFrank Zappaのアルバムへの 参加やイギリスブルース界の大御所John Mayallのバンドへの参加、R&BのゴッドファーザーJohnny Otisとの交流を経てソロデビュー、 70年代にはMPSレーベルに秀作を残し、New Violin SummitではJean-Luc Pontyらと競演しました。しかし、ドラッグ癖によりシーンから遠ざかり、99年にロサンジェルスのアパートで亡くなりました。
さて彼のソロ作はボーカルメインの作品とヴァイオリンのみのインスト作に大別されます。ボーカル作とインスト作では若干雰囲気が違いますが、 どのアルバムでもその個性的なヴァイオリンを聴くことができます。 近年「Sugarcane got The Blues」「Cup full of Dream」や「New Violin Summit」がCD化されてAmazonなどで容易に入手できます。そのあたりから聞いてみたらいかがでしょうか。

「John Mayall/Back to The Roots」を追加しました(2011/4/19)
「Flashin' Time」を追加しました(2016/12/31)

Don Sugarcane Harris/Sugarcane(1970年)

R&Bの大立役者Johnny Otisのプロデュースによる彼の1stソロはHarrisのボーカルをメインとし、まさにブルース、R&Bという楽曲が並ぶアルバム。楽曲は、1曲を除き彼のオリジナルかJohnny Otis、当時15歳というその息子のShuggie Otisとの競作。アルバムの印象としては彼のソウルフルなボーカルがとにかくかっこいい。もちろん曲間ではヴァイオリンソロを取っているのだが、その音色はまるでハーモニカのようだ。ただホーンやストリングスなども導入され、Otis親子によってわりと細かくアレンジされている一方で、ソロに入るとあっさりフェイドアウトしてしまうなど、後年のインストを重視したバンド的な作りのアルバムたちと違い、ボーカルをメインとして、過度にプロデュースされている印象が強い。そういう点では、ヴァイオリンのダイナミックなソロを聴く分には若干物足りないが、彼のR&Bボーカルを素直に堪能するにはこのアルバムがいいだろう。掲載ジャケットは再発CDのもの。

Don Sugarcane Harris/Keep On Driving(1970年)

MPSレーベルでの初のアルバムとなる2ndはドイツのジャズギターリストVolker Kriegelとの競演作。 キーボードにJohn TaylorドラムにTom Oxleyという編成。この作品では、Harrisはボーカルを取らずヴァイオリンに専念。 またバックが非常にジャズ的な演奏をしているのが本作の特徴。 特に際立っているのが勝手なおかずをいれまくるTom Oxleyの変なドラムで、情報不足でどういう出自の人かはわからないが、 オーソドックスなブルースロック調の曲でもバックでタムをぼこぼこ鳴らしていてうるさいことこの上ない。 それ以外の曲でもドラムを始めギター、キーボードなどフリー感の強いバッキングをしており、Harrisの鋭いブルースヴァイオリンと良くも悪くも対照的で結果非常に不思議な世界となっている。3,5曲目ではバックは完全に4ビートジャズでギターもジャズギター全開、 Harrisのヴァイオリンもこれにあわせて強烈な炸裂っぷり。バックはどうあろうと彼のヴァイオリンのスタイルは変わらないわけだが、 彼のソロの中でも特にヨーロッパジャズ〜ジャズロック色の濃い個性の強い作品となっている。

Don Sugarcane Harris/FIDDLER ON THE ROCK(1971年)

MPSレーベルから出された通算3枚目のアルバムでドイツ録音作がCD化された。前作がインスト作だったのに対し、今回はインスト、ボーカルともに充実。まず1曲目からBeatlesの名曲Eleanor Rigbyを取り上げているのだが、原曲のイメージとかけ離れたR&B調のアレンジに、自身のソウルフルなボーカル、そして間奏になればドラムだけをバックにフィドルがうなりを上げソロを延々と取り続けるという物凄い展開。他の曲は割と渋めなブルース〜ロックで、前作のようなアバンギャルドさはない。全て彼のソウルフルなボーカルと味のあるフィドルプレイを全面に押し出していてどれもかっこいい。録音メンバーは、Harvey Mandel(g)、Larry Taylor(B)、Paul Lagos(dr)とJohn Mayallバンド〜Pure Food And Drug Act勢。また今回のCD化で、そのPure Foodのライブアルバム「Choice Cuts」から5曲追加されており、「Eleanor Rigby」のライブバージョンがスタジオ同様のアレンジで延々11分。美しい音色とは無縁だが、荒くれロックフィドルが聴きたい人は是非。

Don Sugarcane Harris/SUGARCANE’S GOT THE BLUES(1971年)

通算4枚目となる今作は、New Violin Summitが録音されたのと同日のベルリンジャズフェスティバルでのライブ録音。 メンバーもNew Violin Summitと同様でWolfgang Dauner、Robert Wyatt、Neville Whitehead、Terje Rypidalとヨーロッパジャズ〜ジャズロック畑の名手たち。ライブ録音ということで全編熱い演奏。前作「Fiddler on The Rock」でのEleanor Rigbyのようなアップテンポブルースの1曲目からボーカル、ヴァイオリンともに炸裂してかっこいい。スローテンポで叙情的なメロディでスタート後、各メンバーのジャズ的な即興へと展開し15分近くに及ぶ2曲目では、クライスラーのフレーズまで飛び出し驚かされる。3曲目はHorace SilverのSong For My Fatherをインストでブルージーにプレイ。最後はやはりブルースボーカルからヴァイオリンソロへと続く白熱の展開。以上4曲とも素晴らしい。近年CD化され容易に入手できるようになったことが本当に喜ばしい。

Don Sugarcane Harris/CUP FULL OF DREAMS(1973年)

通算5枚目になるこのアルバムは2ndに続くインスト作。録音メンバーはPaul Lagos(dr)、Victor Conte(rhythm G)、 Randy Reshik(g)といったPure Food and Drug Act勢(Mystery Guestとクレジットされているのは同じくPure Food〜の Harvey Mandel)にHarrisが50年代にDon & Deweyで活動を共にしたDewey Terryがピアノで初参加。1曲目は2ndで聴かれたような 4ビートのリズムの上で激しく翻るヴァイオリンが印象的。それ以外の曲では2曲がスローテンポでHarrisのヴァイオリンも骨太ながら 叙情的な泣きの演奏を聞かせ、残り2曲ではとげとげしいくらいエッジのたった激しい演奏を聴かせる。 2ndと同じインスト作ではあるがバックがブルース系であり1曲目以外はリズムがシンプルなので、2ndのような癖はなく素直に ブルースロックなインスト作として楽しめる。地味な感じもするがブリティッシュロックにも通じる質感は素直にかっこいい。 ジャズっぽいのが苦手な人でHarrisのヴァイオリンを堪能したいならこのアルバムがいいでしょう。2011年についにCD化。

Don Sugarcane Harris/I’M ON YOUR CASE(1974年)

アメリカ録音通算6作目のこのアルバムは、前作から一転してボーカルメインのアルバムとなった。参加メンバーはギターがVictor ConteからJames Bradshawに変わった以外は前作同様だが、サックスやトランペットなども参加。それらのブラスを効果的に使ったアレンジに、曲によっては女性コーラスも参加したキャッチーでソウルフルな曲が並ぶ。全体的な曲想は明るめだが、3曲目の「Makes it kinda hard」はメランコリックなヴァイオリンと切々としたボーカルが聞かせるブルースナンバーでこのアルバムで一番の聴き所となっている。もちろん他の曲でも間奏では彼ならではのかっこいいヴァイオリンが聴ける。初の本人セルフプロデュース作でもある。

Don Sugarcane Harris/KEYZOP(1975年)

2年おいてのこのアルバムは、2nd以来久々にVolker Kriegelとの録音。他のメンバーは、盟友Dewey Terry、それに ヨーロッパジャズ界の腕利きベーシストGunter LenzとTodd Canedyが参加。2nd、5thと同様のインスト作品だが、 シンバル連打など手数の多い攻撃的なドラム、よく動くベースとリズム隊のアグレッシブさもあって、「Cup Full of Dreams」の モノトーンのブルースロックに比べてよりジャズロック色の濃いアルバムとなった。ただ、バック陣の演奏は2ndのような妙なアバンギャルドさはなく 、全体に快活な印象のアルバムとなっている。Harrisのヴァイオリンも音色こそ彼にしてはやわらかいが、リズム隊にあおられて 非常に切れのあるメリハリの利いたプレイを繰り出している。イギリスのTen Years Afterの曲に似たリフを持つラスト曲の キャッチーなノリのよい演奏はその中でも特にかっこいい。録音もクリアなのでもし見かけることがあればお勧め。



Don Sugarcane Harris/Flashin’ Time(1976年)

MPSからの最終作であり、ソロ名義としても最後の作品となった本作は、前作「Keyzop」と同じGunter Lenz、Todd Canedy、Dewey Terryという編成。ということで全体の印象はKeyzopと同様で割と落ち着いた印象のタイトなジャズロック。楽曲的には2曲目の穏やかなバラードナンバー、3曲目の変化に富んだ快活なジャズロック、6曲目のストレートなブルースなどバラエティに富んでいてアルバムの完成度は高い。とはいえ全体的には今までの音楽性と大きく変わるところがなくそういう点ではマンネリという印象も。それもあってか本作をもってソロ作は最後となった。彼のその後の活動としては80年代のTupelo Chain Sexへの参加があるくらいで、99年に61歳で病没した。

John Mayall/USA Union(1970年)

イギリスブルース界のゴッドファーザーとして知られ、若かりし頃のEric Claptonがそのバンドに在籍していたというJohn Mayall。彼がオフでアメリカに滞在中に急遽レコーディングしなくてはならなくなり、アメリカのミュージシャンを集めて録音したのがこのアルバム。録音メンバーはDon "Sugarcane" Harris(violin)Larry Taylor(bass)Harvey Mandel(lead guitar)。John Mayallのボーカルはシャウトしたりするタイプではなくクールでジェントルな渋みのある感じ。ブルースハープも素晴らしい。ドラムレスということもあり派手さはないが、Harvey Mandelのカッティングのメリハリもよい。Harrisのヴァイオリンは全曲参加ではなく、またソロアルバムほどエッジをたてて弾きまくる感じではないが、ほどよくルーズに翻る様はこのアルバムのクールな感じにはあっている。

John Mayall/Back to The Roots(1971年)

Mayallが、これまで彼のバンドに参加したメンバーでメジャーになった人を集めてアルバムを作ろうということで制作された2枚組作。Harvy Mandel、Eric Crapton、Mick Taylor、Johnny Armondといった錚々たるメンバーに並んでDon Sugarcane Harrisも参加。18曲中半数の9曲で相変らず見事なブルースソロを取っている。ライナーノートによると多忙なミュージシャンをスタジオに集めることは難しくロンドンとロサンジェルスでテープをやりとりして録音されたという。harrisもアメリカ在住だったため、あとからオーバーダビングという形での参加となったということだが、そんなことは全く感じさせない息のあったプレイはすばらしい。アルバムとしてはUSA UNIONがリズムレスだったのに対し、リズム隊参加ということでより快活でノリのいいブルースロックが全編で聴ける。ちなみにCD化に伴い。再ミックスした曲が8曲(うち3曲にHarris参加)追加収録された。

Pure Food and Drug Act/Choice Cuts(1972年)

John Mayallバンドで共演したDon Sugarcane HarrisとHarvey Mandelを中心にPaul Lagos(dr)、Randy Resnick(rhythm G)、Victor Conte(b)という編成で結成されたPure Food and Drug Actの唯一のアルバム。Harrisの「Fiddler on The Rock」と同時期でメンバーも重なるため雰囲気は近い。1曲目のフォークギター弾き語りには違和感があるが、それ以外はHarrisをメインに立てほぼHarrisのライブ盤といっても通じる内容。実際「Elenar Rigby」は「Fiddler on The Rock」収録版とまったく同じアレンジ、また彼の1st収録の曲2曲も演奏している。そんなわけで8曲中冒頭曲やHarvey Mendel主導で彼のソロを大きくフューチャーした曲など3曲を除き5曲がそのまま「Fiddler on the Rock」CD盤にボーナストラックとして収録されたのでHarrisが好きなら「Fiddler〜」だけ持っていれば十分。ジャケットはCD再発のもの。

FRANK ZAPPA&MOTHERS OF INVENTION/BURNT WEENY SANDWICH(1969年)

アメリカ前衛ロックの巨匠FRANK ZAPPAがDon and DeweyのファンだったということからHarrisにアルバムへの参加を要望、 結果この時期のZappaのアルバム「Hot Rats」「いたち野郎」などにHarrisはゲスト参加し数曲でヴァイオリンを弾いているている。 その中でもZappaのリーダーバンドであるMothers of Inventionの第一期ラスト作であるこの作品では、 18分に及ぶ大曲でエレクトリックバイオリンによるヒステリックなソロを5分以上に及び繰り広げている。 Zappaの楽曲は、現代音楽風のユーモラスでひねくれたブラスジャズロックという風情だが、Harris登場とともにストレートなブルースロックの世界に一転、「Fiddlers on The Rock」などソロ作で聴かれるのと同じ激しくささくれるブルースロックヴァイオリンを繰り広げている。もしZappaファンでHarrisにも興味がある方はこの作品から入るといいかもしれない。



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