アルバムガイド 日本のヴァイオリンニスト・プログレ篇

プログレかどうかという厳密な区分は難しいところですが、バンド編成で特にロック色が濃いところを選んでみました。 金子飛鳥さんや勝井祐二さん、壷井彰久さんのバンドもプログレと言えるものが結構多いですが、個々のページに掲載しています。 (Asturias関連作についてはこちらの別ページで紹介しています)

玉木宏樹&S.M.T/TIME PARADOX(1975年)

CM作曲家からスタートして現在では現代音楽作曲家として活動している玉木氏が70年代唯一残したヴァイオリンインストロックアルバム。70年代初頭とは思えない高密度なアルバムで、一曲目のロックバラードからスタートして、アラビア風、冗談音楽、シャコンヌ、タンゴのロック化など幅広い。そんな中1曲目のテーマがアルバム内で様々に変奏されて登場、アルバムとしての統一感を出している。バイオリン自体のスタイルはクラッシクの延長線にあるが、確かなテクニックに裏付けられてリード楽器としての地位をつとめあげている。ブラスのアレンジや音自体の古くささは否定できないが歴史的な価値も含めて一聴に値する。

CINEMA/The Seven Stories(1995年)

京都を中心に活動するプログレッシブロックバンドのファーストアルバム。ギターリストを中心に、key、b、dr、女性Vo、vilの6人編成で、日本的叙情を感じさせる耽美的な世界を作り上げる。いわゆるインストのバトルという作りではなく、声楽出身のボーカルが日本叙情唱歌を歌い上げるのを各楽器郡が静謐、荘厳に盛り上げるといった感じの構成。この女性ボーカルの声質がオリジナリティを出しているが気に入るかどうかで、このバンドの好き嫌いが別れるところ。ヴァイオリンはあとから加入したと思われ、楽曲の構成上、不可欠な存在ではない。あくまで雰囲気作りにストリングスを加えましたという感じになっているのが残念である。

OUTER LIMITS/The Silver Apples on the Moon(1987年)

このバンドはVo、key、dr、b、g、vilという6人編成で80年代から活躍する日本のプログレッシブロックバンド。その音楽性は、一方で第3期キングクリムゾンなどのブリティッシュプログレ、それに80年代ハードロックなどのポップな要素を混ぜた、壮大でドラマチックな極めて構築度の高いプログレッシブロックサウンド。このアルバムは彼らのNHK-FMのためのスタジオライブを収録したもので、ライブとは思えない完成度の高い演奏を聞かせている。ヴァイオリンも、エレクトリックながらクラシカルな音色を聞かせ、そのテクニカルなプレイでバンドの幻想的、叙情的な側面を担っている。ヴォーカルの弱さが気になるが、ライブアルバムということもあるので仕方のないところか。とにかく予想以上の好印象。ぜひスタジオアルバムも聴いてみたい。

美狂乱/美狂乱(1982年)

イギリスのプログレッシブロックバンドKing crmsonの影響の濃い日本のバンド美狂乱のデビューアルバム。3期クリムゾンのハードエッジな部分と「小さい秋」のような日本の唱歌のメロディを融合させた幽玄なサウンドは唯一無比。基本編成はギター兼ヴォーカル、ベース、ドラムのトリオだが、3曲で中西俊博がゲスト参加、出番こそ一瞬だが美しいバイオリンを聞かせてくれていてこのアルバムに欠かせぬ存在になっている。特に1曲目のハードなパートから静かで美しいパートへ移る部分ではヴァイオリンの旋律が効果的に挿入されていて印象的。また2曲目はやさしいワルツで、これもヴァイオリンがメインのメロディを担当していて悲しい音色が美しい。5曲目後半ではヒステリックなソロも披露している。最近出た新作でもヴァイオリンがフューチャーされているが美しさではこちらの方が上。

岸倫子/LINN-TETRA&LINNKO(2001年)

金子飛鳥ストリングスに参加する女性ヴァイオリンニストのソロアルバム。彼女がリーダーをつとめるプログレッシブロックバンドLinn-Tetraによる演奏と彼女のソロとを収めた変則的な構成。バンドでの演奏はエレクトリックヴァイオリンによる変拍子を多用した歯切れのいいジャズロックインスト。後半のソロはアコースティックギター、チェロなどをバックにしたアコースティックヴァイオリンによる美しいインスト3曲と、ギター、ヴァイオリンなどをバックにしたシンプルな編成をバックにしてのZabadak調の優しいボーカルナンバー3曲。自主制作のためプロデュースの甘さは感じられるが楽曲、演奏のクオリティは高い。ただセクションごとに完全に区切ってしまった曲順には一考の余地があるように思う。

岸倫仔/Linn-Tetra(2005年)

前作より4年のブランクをおいて発表された2作目。前作ではバンド編成、ソロと異なる編成での演奏が収録されていたが、今作はバンド名をアルバム名としてエレクトリックヴァイオリンによるインスト曲のみ収録、統一感のある内容となった。しかしその一方で楽曲が一本調子の感もある。1曲目こそ透明感のあるメロディとスピード感のある楽曲がかっこいいが、後にいくほどリフを繰返すだけのナンバーに食傷してくる。3曲目に聴かれるわかりやすいメロディも、聴きようによっては歌謡曲臭く感じられもし、そのあたりが趣味をわけるか。作曲センス、アレンジとももう少し工夫できるような気もするのだが。プログレッシブロックファンには評価が高いようだが、個人的には何か一つ足りない気がする。

CINDERELLA SEARCH/STORIES OF LUMINOUS GARDEN(2001年)

オリジナルの寓話、物語を歌い演劇的なステージを繰り広げる日本のプログレッシブロックバンドの2nd。ボーカルが仮装をして物語の主人公などを演じるというスタイルは初期ジェネシスの影響が強いが、楽曲、音楽性は、展開が多いものの、いわゆる70年代様式美プログレよりももっとモダンでUKなどの70年代後半のプログレや80年代J-Pop、フュージョン、それにアニメの主題歌を合わせた感じか。個人的には歌詞の世界とかボーカルの甘い歌声とかは苦手なのだが(まあ好みの問題なんですが)音楽性は確かなものだと思う。特に美ノ辺純子さんのエレクトリックバイオリンは正統派のプログレッシブロックバイオリンと言えるもので、テクニック、センスとも申し分ない見事なもの。これだけで聴く価値はあります。

Lars Hollmer’s Global home Project/SOLA(2002年)

おもちゃ箱をとっちらかしたような音楽を超絶技巧で聞かせるスウェーデンの変態プログレッシブロックバンドSammla Mamas Mannaの リーダーでアコーディオンなどをあやつるLars Hollmerが来日した際に、キーボード清水一登、ドラム吉田達也、ヴァイオリン 向島ゆり子、クラリネット大熊亘ら、このページでもおなじみの日本の凄腕ミュージシャンらと録音したのがこのアルバム。 楽曲はSammlaほかHollmerのバンドの曲の再演がほとんどだが、複雑な変拍子で飄々と切り返すSammlaならではの芸風はそのままに、 全体的にメロディアスで物悲しい雰囲気が漂う。特にアルバム中盤以降その雰囲気が強い。向島ゆり子のヴァイオリンは、 クラシックのような泣きやジャズ系のエッジの強さはないが、そのやわらかい感じがこのバンドの哀感に寄与するところは 大きい。特に6曲目の「Arp.Violin」はその白眉だろう。

FANTASMAGORIA/energetic live demo CD(2004年)

ヴァイオリンメインの新鋭プログレッシブロックバンドのデビューミニアルバム。全編にわたってヴァイオリンがリードを取ったオールインストでメロディよりもリフから発展させたようなダイナミックな楽曲が並ぶ。タイトルにもあるとおり、あくまでライブのデモ録音という感じで詰めの甘さはあるものの適度にエッジを立てつつ泣くエレクトリックヴァイオリンの音色、メリハリのついた展開のある楽曲はなかなか高水準で楽しめる。ただしリズム隊以外にギター2人にキーボードがいる割には音のバリエーションが少なく、全体的に変化が乏しい気がする。そのあたりは今後の展開次第か。あまりプログレッシブロックという言葉にとらわれず音楽性の幅を広げて欲しいところ。

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