アルバムガイド 日本のヴァイオリニスト−壷井彰久篇

学生時代に結成したというプログレッシブロックバンドKBBから音楽活動をスタートした壷井氏ですが、現在ではその インストプログレッシブロックバンド「KBB」だけでなくギター鬼怒無月氏とのDuo「ERA」、邦楽とのコラボレートユニット「AUSIA」 などロックにとどまらない様々なバンド、ユニットに参加、ここ近年の活躍は目覚しくまさに日本を代表するロックヴァイオリ二ストと いってもよいのではないでしょうか。これだけエレクトリックヴァイオリンを弾きこなせる人は 世界でもなかなかいないんじゃないかと思います。
お薦めはというと、まずはやはり本人のリーダーバンドであるKBB、それからメロディセンスとテクニックを堪能できるERAあたりの新作から入るのが よいかと思います。
5枚のアルバムを追加しました。(2016/1/16)


KBB/Lost and Found(2000年)

Ausiaに参加するエレクトリックヴァイオリン奏者壷井彰久氏をリーダーとする日本では数少ないヴァイオリンをメインとする プログレッシブロックバンドのファーストアルバム。ヴァイオリン兼ギター、key、b,drというインストのみの編成でジャケットのイメージどおりのドラマチックで 美しい音楽を聴かせる。壷井氏のヴァイオリンは柔らかいエフェクトのかかった音色がメイン。楽曲の方を具体的に見ると1曲目、2曲目などのロック色の濃いストレートで スピーディなものと3曲目、5曲目のようなドラマチックな楽曲に大別されるがどちらも魅力的だ。テクニックで聴かせるところもあるがメロディ自体もわかりやすく美しい。 またヴァイオリンもテクニカルではあるが所謂クラシック臭さはなく、ロックとしての熱さに溢れていて、これこそロックヴァイオリンと思わせてくれる。 アルバム全体でみると後の作品群に比べて荒削りな印象もあるが、まずはその原石の魅力を味わってほしい。

KBB/Four Corner's Sky(2003年)

日本が誇るヴァイオリンロックバンド4年ぶりの2作目。1作目が比較的ストレートなシンフォニックヴァイオリンロックという ある意味単一的な印象だったのに対し、今作では曲ごとにシンフォニックであったりジャズロックだったり、アイリッシュ調だったりとより 多彩な曲調、アイディアが取り込まれている。またライナーに今回は前回に比較しより一発採りに近い録音をしたと書かれていたが、 確かに前作にあったある種のべたっとした単調さが消え、広がりや乗りを強く感じさせる仕上がりになった気がする。前作もすばらしかったが、 今作はすべての面で前作を上回っていると言っていいだろう。毎回褒めて申し訳ないが傑作。ちなみに新加入のkeyはクレージーケンバンドの人です。

KBB/LIVE2004(2005年)

海外のプログレフェスなどにも出演し人気を博すヴァイオリンフロントのインストロックバンドKBBの2004年11月の ライブを収録した初めてのライブ盤。2ndアルバムから4曲、1stから2曲に未発表曲1曲という構成。ライブではスタジオ以上に アグレッシブなノリとプレイが聴けるだけに期待が高かったのだが、一聴した印象としてはどうもライブならではの臨場感に 欠けるという印象が強い。確かに演奏は素晴らしいのだが、演奏のうまさが逆にスタジオアルバムとの差別化という点では マイナスになったという感じ。インタープレイ系の曲はともかくアレンジの固まった曲について特にそういう印象が強い。 低音が強いため少々こもった感じの音質もエッジのたった雰囲気が出ないという点でマイナスか。とはいうものの「滅びの川」の泣きの ヴァイオリンソロなどはやはり絶品だし、「熱砂の記憶」などの激しいプレイもかっこいいし、もちろん買って損はないです。

KBB/Proof of Concept(2007年)

ヴァイオリンメインのインストプログレバンドKBBの4年ぶり3作目のスタジオ作(ライブ盤こみで4枚目)。 ヴァイオリンとキーボードがシンフォニックかつダイナミックに絡みあうその音楽性の基本は変わらないものの、今作では前作以上に曲調に幅が出た印象。 前作まではシンフォニックでメロディアスな長尺曲が並んでいたのが、今作では1曲目、3曲目などのインタープレイを中心としたジャズロックタイプの 長尺曲と4分前後のコンパクトなナンバーという構成で、短い曲はニューエイジ風のメロディアスな曲やカントリー風の軽快なナンバーと個性的で アルバムのアクセントとなっている。また全体的にアコースティック楽器の使用頻度が増し、特に前作まではメロディアスなパート程度だった アコースティックヴァイオリンがロック色の強いナンバーでも使われるようになった。個人的には壷井氏の泣きメロにおけるエレクトリックヴァイオリンの 音色が好きだったので残念な部分もあるが、表現の幅という点では正解なのかもしれない。アルバム全体としては、前作の「Discount Spiral」や 「白虹」などのようなキャッチーな泣きメロが減ったところが残念だが、1曲目などに代表されるように演奏やアレンジのクオリティ、ダイナミズムは 増し、結果聴き応えのあるアルバムに仕上がっている。


KBB/Age Of Pain(2013年)

解放感のあるメロディで幕を開ける6年ぶりの新作。前作が全体に力強さのあるジャズロックという作風だったのに対し冒頭のLarksをはじめトラッド感の強い、 親しみやすいメロディが多く繊細でメロディアスになった印象がある。そのあたりはEraやオオフジツボといった壷井氏のアコースティック系別ユニットでの活動が影響しているのかも。 一方で高橋氏のキーボードは前作よりもジャズ・フュージョン色が強くなっており、それがジャズロックとしての側面の幅を広げている。特に2曲目などは 繊細なジャズロックという感じの作風で新境地となっている。また録音については全体にスタジオライブのようなライブ感の強く、そのあたり繊細なパートはより繊細にアグレッシブなパートは よりアグレッシブにと、楽曲をより生き生きしたものに していて心地よい。そんな中ヴァイオリンは前作同様アコースティックを多用されており、熱いロックでありながら柔らかいというこのアルバムのトーンに寄与している。

壷井彰久・鬼怒無月Duo/ERA(2002年)

東京の最先端のロック、ジャズシーンで活躍するギターリストとヴァイオリンニスト2人だけによるデュオアルバム。ジプシー、トラッド風 の楽曲をメインに、叙情的な曲から、前衛的な曲まで演奏するのだが、どれも素晴らしい出来。特に1曲目や3曲目などではジプシーの ような激しい演奏を聞かせつつ、2曲目、4曲目などではエレクトリックバイオリンの幻想的な音色で叙情的な演奏を聞かせる、 そのメリハリはすばらしい。全てライブ録音で、これだけの楽曲をライブで完璧に演奏してしまう腕前にはとにかく驚嘆するし、 それ以上に楽曲もいい。これは愛聴盤になりそう。

Era/TOTEM(2004年)

ギターの鬼怒無月、ヴァイオリンの壷井彰久によるDuoによる2ndアルバム。1stがライブ録音でどちらかというとインタープレイを 重視しエスニックで混沌とした雰囲気が強かったのに対し、今作では、骨格のしっかりとした判りやすいメロディの楽曲が多く、 全体の印象としてはよりポップになったという印象。スピーディで切れのあるメロディがかっこいい1曲目や アメリカンロックノリの2曲目、前作を踏襲したエスニック路線の3曲目、そして叙情的なワルツの4曲目などどの曲も個性がはっきりしていて 聴きやすく前作を踏襲した上で万人に薦められる内容になった。ギターとヴァイオリンだけでこれだけ多彩な音楽を演奏し切れるんだということに とにかく脱帽してしまう。

ERA/THREE COLORS OF THE SKY(2006年)

KBBのロックヴァイオリンニスト壷井彰久とボンデージフルーツの鬼怒無月によるアコースティックデュオERAの2年ぶり3枚目のアルバム。 方向性は前作を踏襲しつつ、演奏面でよりアグレッシブになった印象・・・と思い壷井氏のホームページを見ると、たった2日間でオーバー ダブ無しの一発取りとのことで、確かにライブアルバムかと見まがうライブ感がある。いかにもERA節ともいえるスピーディな「Filled」 ドラマチックな「Lavender Hill」などのかっこいい曲と「First Greeting」のようなメロディアスで美しい曲というナンバーが大半を 占めるが、そんな中で、壊れたRAGという趣の奇妙な「Next in Line」や、陰鬱でねじれたワルツで始まり、途中からシタールが一気に インドな雰囲気をかもすかと思えば4ビートに展開するという、ねじくれまくったナンバー「Narcolepsy」という2曲がアクセントに なっている。毎度のことですが名盤です。


ERA/忘れられた舟(2010年)

鬼怒無月、壷井彰久によるユニットEraの4枚目のアルバム。基本的には前作までの方向性と変化はないが、ジャケットの印象どおり 全体にカラフルになった印象がある。壷井氏作の1、3などの親しみやすくメロディアスで開放的な楽曲はもちろん、鬼怒氏作の 2曲目なども彼ならではのトリッキーさはありながら今まで以上に明るくキャッチ―な印象が強く、そのあたりが前作まで以上に メインストリームよりの聴き易さにつながっていると思う。その一方でもちろん5曲目や9曲目のように和風メロだったりエキセントリックな カッティングだったりと癖のある楽曲も挟み全体としての緩急もありアルバムとしての構成もよい。また壷井氏のヴァイオリンは前作に 比べてもノリやフレーズがより柔軟になり引き出しが一段と増えた印象があり、それが全体の緩急やアルバムのクオリティの高さに結びついているように思う。 ちょっとイージーリスニングよりになった感もあるが、Duoという形式上どうしてもマンネリになりがちなところを、そうならない 2人の音楽性の高さにまずは感服の1枚。

VA/Heal up! Monsoon(2000年)

日本を代表するアコーディオン奏者cobaがプロデュースするオムニバスアルバム。4組のアーティストが参加しているが、 注目は3曲提供のバンドAusia。邦楽出身の一噌幸弘の笛、足立宗亮のギター、マンドリン、壷井彰久のヴァイオリンというトリオ編成でジャズ、 邦楽、クラシック、インド音楽をはじめとする様々な要素をミックスしたすばらしいアンサンブルを聴かせてくれる。3曲ともシンプルな編成ながら それぞれインド音楽っぽかったり、アイリッシュぽかったりと異なった路線の楽曲に仕上がっている。壷井氏のエレクトリックヴァイオリンは いわゆるエレクトリックの音色だが音、演奏とも癖がなく、そのためエキゾチックな要素が強い楽曲、編成の割にはすんなりと心地よく耳をとおっていく。 ぜひフルアルバムが聴きたいバンドである

NBAGI/ecdysis(2000年)

ベーシスト永田利樹氏をリーダーとし、Saxに林栄一、ギターに鬼怒無月、ドラムに芳垣安洋など曲者ミュージシャンのそろったこのバンドは、 エキゾチズムとチンドン屋のようなどこかとぼけた脱力感をかもすユーモラス雰囲気が魅力なジャズフュージョンバンドだ。メンバーは上記にパーカッショニスト、 それにヴァイオリンニストでKBBの壷井彰久氏が参加。そのユーモラスなサウンドの中で、SAXとのユニゾン、ソロで活躍。その軽妙な音楽性にやわらかい色合いを添えている。 バイオリンソロはおそらくアコースティックヴァイオリンにピックアップをつけていると思われるが柔らかく、かつアグレッシブなもの。かめばかむほど味わい深いバンドです。 ちなみにバンド名はパプア・ニューギニアの伝説の怪獣から取られたということ。

STRINGS ARGUMENTS/The Encounter(2003年)

京都のプログレッシブロックバンドSIX NORTHのメンバーと東京のプログレインストバンドKBBなどで活躍する壷井彰久氏らによるユニットSTRINGS ARGUMENTSの京都での デビューライブを収録したライブアルバム。楽曲はSIX NORTHのリーダー島秀行氏のペンによるものがほとんどだが、2つのバンドの 音楽性とは異なるストレートなジャズロック調のものが多く、スピード感のある熱いインストバトルが楽しめる。 特にこの時のライブではフュージョンギターリストの岡本博文氏がゲスト参加。SAの小田島伸樹氏と熱い掛け合いを聞かせてくれる。 ただし元々ライブ録音する予定ではなかったため音質の方はいまいち。またアルバムには未収だがライブでは Jean-Luc PontyのEnigmatic Oceanを演奏、ライブでのハイライトになっていた。

Ausia/KASAKASA(2003年)

超絶アコースティックユニットAusiaの待望の1stアルバム、当初のパーカッションも参加した 5人編成から、ギター2人、笛、ヴァイオリンの4人編成、そしてギター1人の脱退、ヴァイオリンが 太田恵資から壷井彰久へと交代してついに3人編成になってようやくアルバム発表となった。 その音はトラッド、インド音楽、邦楽、プログレッシブロックなどさまざまな要素の混在する 無比のもの。ギターの変幻自在のリズムの上で、能管とヴァイオリンがモード主体のエスニックな ソロを乗せ、キメを合わせまくる。やはり強烈に印象に残るのは邦楽出身の一曾幸弘氏の能管による高音域を走り回るプレイだろう。 壷井氏のヴァイオリンは、KBBなどとは打って変わってモード調のソロを弾きまくっている。

エレファント・トーク/夜のボタン(2003年)

KBBなどの壷井彰久が参加したポップス系ユニットの2作目。あおり文句の「音響系ポップス」という言葉に、実験的なサウンドを想像していたのだが、実際はそういった要素もあるもののシンプルに歌のメロディが素敵な内向系女性ボーカルバンドといった方がイメージにあうと思う。聞いた印象ではボーカルの声質もありAdiなどに非常に良く似ていて、2曲目などのアップテンポナンバーでの壷井氏のエレクトリックのソロも金子飛鳥を思わせる適度なディストーションと粘り気がかっこいい。5曲目でのヴァイオリンのループにドラムんベース的な打ち込みリズムがのる展開などもいい感じ。ポップス系でバイオリン参加ものとしては近年最高傑作では。とりあえずAdiのようなバンドが好きな人、ZABADAK、女性ボーカル系が好きな人、金子飛鳥はロックに限るという人は必聴でしょう。

Pochakaite Malko/LAYA(2004年)

東京で活動する変拍子多用のインストジャズロックバンドにヴァイオリンで壷井彰久氏が参加して発表された2ndアルバム。ヴァイオリンの入ってない前作を聴いて、変拍子がうねる不気味な楽曲群に正直これは怖くてしんどい音楽だなあ、と思ったので今回も恐る恐る聞いてみた。ところが変拍子主体の不気味な音楽というのは変わらないが、壷井さんのヴァイオリンが全面的にフューチャーされたことと民族音楽色が増したことでずいぶんと身軽になり聴きやすくなった印象である。キーボードもピアノが多用されていて案外クラシカルに感じられたりもしたりする(もちろん近代以降のだが)。また曲によってコミカルだったりするし、坪井さんの作った曲などは普通のかっこいいハードロックだったりもする。一般的な音楽ではないのも確かだが、完成度は高いし興味がある人はどうぞ。MAGMA、UNIVER ZEROなどのプログレッシブロックがいける人はお薦めです。


一噌幸弘グループ「しらせ」/ふ、ふ、ふ、●一噌幸弘・しらせLIVE(2006年)

能管の一噌氏をリーダーにAusiaでも共演しているヴァイオリンの壷井彰久、ギターに高木潤、タブラに吉見征樹というMasaraの2人と太鼓の茂戸藤浩司という5人編成でのグループ「しらせ」のライブアルバム。一噌氏のリーダー作ということで基本的にはAusiaと同様のパーカッションやギターのリズムの上で狂い舞う能管とヴァイオリンという音楽性。Ausiaのスタジオ作ではパーカッションパートは脱退し不在だったのに対し、本作ではタブラと太鼓という和印異なるパーカッションがバックアップしているのが大きな違いで、厚みのあるボトムが心地よい。また意外とメロディアスなレパートリーも演奏されていて、バロック風の楽曲もあったりする。壷井氏のヴァイオリンは相変わらずの達者ぶりで一噌氏の高速能管プレイと見事に渡り合っている。


ZAO/In Tokyo(2007年)

70年代に活躍したフランスのジャズロックバンドZAOが2000年に入って再結成し、来日した際のライブアルバム。 メンバーはキーボードのFrancois CahenとサックスのYochk'o Sefferというオリジナルメンバー2人に3rdから参加のベーシスト Gerard Prevost、後期GongのパーカッショニストFrancois Causse、新参加の女性ボーカル、そして日本ツアーのみの スペシャルゲストとして壷井彰久氏という編成。楽曲は1stから4thまで満遍ない選曲で、もともと1stのみだった女性ボーカルパートが、 本作では全曲になったことで、オリジナルではすっきりしたジャズロックだった曲も全体にエキセントリックでエキゾチックな雰囲気に なっている。壷井氏は全曲に参加しソロを弾いているが、東欧的な民族音楽色の濃い楽曲ではそのスケール感にはまりきっておらず 若干の違和感。一方、カーン主導のクラシカルなジャズロック的な楽曲では違和感はなく、彼ならではの流麗で激しいソロがかみ 合って熱い演奏になっている。そういったわけで、楽曲によって出来の差はあるものの、来日時だけのほぼ飛び込みゲストでここまで 演奏する腕はやはりさすがだ。


是巨人+壷井彰久/Doldrums(2011年)

ベースとドラムのDuoというハードコアなプログレユニットRuinsや、プログレッシブなチンドンバンドというべき音楽性のシカラムータなどで活躍する 剛腕ドラマー吉田達也、これまたノイジーなハードプログレバンドというべきAlterd Statesなどで活躍するベーシストナスノミツルに、 Bondage FruitsやEraなどこれまた様々なバンドで活躍するギターリスト鬼怒無月という強者3人によって、This HeatやGenle Giantといったプログレの中でもトリッキーな 変拍子リズムを駆使するバンドを目指して結成された是巨人。そこに鬼怒氏のEraでの同僚壷井彰久氏がゲスト参加して収録されたライブ盤が本作だ。 変拍子リフを一丸となって決めまくるという感じで、とにかく畳みかけ続ける演奏が圧巻。ヴァイオリンはそういった決めパートでのギターとのユニゾン、 そして曲間のヒステリックなソロだったり、幻惑的なフリーパートだったりと大活躍。初心者にはなかなか敷居の高いこのバンドのサウンドを、 テクニカルで聴き易いサウンドへと変換する触媒として見事に機能している。



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