アルバムガイド ロックヴァイオリン−Papa John Creach篇

1917年生まれのヴァイオリニストPapa John Creachは、10代よりヴァイオリンを始め、当初はクラシックからスタートしたものの、 シカゴのクラブで演奏をすることになりジャズやブルースなど様々なスタイルを身につけるようになった。40年代にロスに移住後も様々な ローカルバンドをわたり歩きキャリアを積んでいった彼は、60年代にドラマーのJoey Covingtonと知り合うことでHot Tuna、Jefferson Airplaneに参加することとなり、 一気にロックの世界に名を知られるようになる。Airplane時代に1stソロを発表。Airplaneの後継バンドJefferson Starshipにも参加するが、 2ndのRed Octpus発表後、ソロに専念するために脱退。70年代には合計7枚のソロアルバムを発表した。80年代はSan Francisco All-Starsや The Dinosaursなどに参加したほか俳優としても活躍、90年代初頭には再編Jefferson Starshipへの参加や久々のソロアルバムの録音などがあったが、 94年に心臓疾患で病没した。
彼のヴァイオリンの入り口はクラシックということのようだが、実際のプレイスタイルはいかにもフィドルという感じのもの。ジャズの訓練もしているようだが、 いわゆるジャズヴァイオリン的なタッチではなく、ブルースやカントリー的な土臭いフィドルらしい演奏スタイルになっている。同じブルース系のフィドラーとしてはDon Sugarcane Harrisがいるが、 彼のようなジャズロック的な感じではなく、あくまでアメリカンロックやカントリー、ファンクなどアメリカンな音楽性が彼の持ち味だろう。
彼の音楽性を知りたければやはりソロアルバムを聞くのがいいかと思います。「Filthy! 」「Playing My Fiddle for You」「The Cat and the Fiddle」あたりが まずはお勧め。Airplane関連ではJefferson airplane「Thirty Seconds Over Winterland」がライブということでCreachのフューチャー度も高くお勧めです。

(新設しました2018/5/13)


Papa John Creach/Papa John Creach(1971年)

ブルース系バイオリニストとして西海岸で活動していた彼は、50歳にしてJefferson AirplaneやHot Tunaに参加しロック界にその名を知られるようになり、 ついにソロアルバムを録音することになる。その本作には、Jefferson Airplane、Santana、Greatful Dead、Tower of Powerほか錚々たるバンドのメンバーが参加した 豪華なアルバムとなった。内容としては冒頭、Jefferson Airplaneの女性ボーカルGrace SlickとDuoでボーカルを聞かせ切れのいいブラスがかっこいいアップテンポの ロックナンバー「The Janitor Drives A Cadillac」が耳をひくが、他は「Over The Rainbow」「Danny Boy」などのスタンダードや伝統曲、それにこてこてのブルースナンバーetcと 彼のこれまでの活動歴、音楽ジャンルをまずは並べましたという感じで、よく言えばバラエティに富んだ内容だが、悪く言うとアルバムとしての一貫性には乏しい。 完成度的には後の作品に一歩譲る本作だが、彼の幅広い交友関係と音楽性のベースがわかるというところが魅力となっている。

Papa John Creach/Filthy(1972年)

前作が曲ごとにメンバーが異なるセッション作だったのに対し、本作からZuluというバンドがバックを務め本格的に彼のソロ活動がスタートする。ZuluはCarl Byrd(Dr)、 Johnny Parker(key)、Holden Raphael(per)、Sam William(b)に、のちにKeb' Mo'として名をはせるギターリストのKevin Roosevelt Mooreという編成。これにゲストとして 名ブルースシンガーBig Joe Turnerが1曲でボーカルをとり、1曲ではHot Tunaがバックを務めている。作風はストレートなブルースを中心として、曲によってファンクの 要素を加えたもの。楽曲の多くは外部作曲家のもので一部Creach自身による。ストレートなブルース曲の力強さも、「Mother’s Day」「Time Out For Sex」などファンク系の 楽曲のグルービーさもともに心地よく、他のアルバムのようなキャッチーなナンバーこそないものの完成度の高い作品になっている。Papa John Creachのフィドルは同じ ブルース系のSugarcane Harrisに比べてより柔らかい音色で翻り歌う伸びやかな感じで、これがファンキーな楽曲にフィットしている。

Papa John Creach & Zulu/Playing My Fiddle for You(1974年)

前作同様、Zuluをバックにしての3rdアルバム。ただし、わざわざ「&Zulu」とクレジットされているだけあって、カバー2曲以外はCreachとZuluの作曲、 内容的にも前作に比べてよりキャッチーで幅広い楽曲が並ぶアルバムとなった。冒頭のご機嫌なポップナンバー「Friendly Possibilities」、Jefferson Airplane時の 楽曲の再演「Miky Train」、ムーディなスタンダード「I Miss You So」と特に冒頭3曲の振れ幅には驚かされる。その後もアップテンポなインスト「String Jet Continues」、 ゴージャスなブルース「Gretchen」、渋いボーカルと哀愁を帯びたフィドルの絡みがかっこいいアップテンポナンバー「One Sweet Song」、サルサっぽいおしゃれなインスト 「Golden Dreman」と多彩。楽曲演奏とも充実しておりCreachのアルバムでどれか1枚ということであれば本作がお勧め。

Papa John Creach &Midnight Sun/I'm The Fiddle Man(1975年)

Jefferson Starshipへの参加、脱退を経て発表された4thアルバムである本作は、前作からレコード会社を移籍、ディスコシーンを意識してストリングスやホーン、女性コーラスを大々的にフューチャーしゴージャスでソウルフルな歌ものを中心とした作風に変化した。わざわざ「&Midnight Sun」とクレジットされている新バンドは、Zuluからドラムとベースが交代しバンド名を変更いたものでKevin Mooreらは引き続きの参加。ただプロデューサーEd MartinezとアレンジャーArthur Freemanの手による楽曲やスタンダードのカバーなどが楽曲の過半を占めるなど名義の割にバンドの関与は薄い。ちなみにFreemanとMartinez作曲のスペイシーでアーバンなインスト「Joyce」がシングルカットされ全米ダンスチャート8位になるヒットとなった。

Papa John Creach /Rock Father (1976年)

前作に引き続きMdinight Sunをバックに制作された5thアルバム。プロデューサー・アレンジャーも前作同様ながら前作とは一転、バンドサウンドを全面に出し、 ダンサブルな要素は残しつつもタイトルが示すとおりロック色の強いアルバムとなった。特に冒頭の「Travelin' On」、2曲目のインスト「High Gear」あたりはギターの 音色もハードでその傾向が強い。一方で、中盤以降はカントリーのスタンダード「Old Man River」「Orange Blossome Special」なども取り上げていて、それだけでない 幅広さも見せているが、結果として若干散漫な印象になってしまっているきらいもある。ボーカル曲は4曲にとどまるが、どれもCreachの力強いボーカルが心地よい。 フィドルプレイも絶好調だ。ただ本作が、ギターのKevin Moore最後の参加アルバムとなってしまった。

Papa John Creach /The Cat and the Fiddle (1977年)

レコード会社を再度移籍して発表された6枚目のソロアルバム。ラストの1曲以外は、すべてボーカルナンバーで占められており、アルバムジャケットのイメージどおりどの曲も ポップでダンサブル、ソウルフルな楽しいボーカルアルバムに仕上がった。これまでの彼のアルバムでも冒頭を特にポップなボーカルナンバーが飾るのが常だが、本作も乗りのりの ファンキーなポップナンバー「Country Boy,City Man」からスタート。それ以降のどの曲ものりいいボーカルナンバーで、間奏になるとCreachのフィドルが軽快にソロを 取るという流れになっていて心地よい。ちなみにロックンロール色の強いナンバー3曲では楽曲のイメージにあわせてかゲストボーカル2人がリードを取っている。 フィドルについてはこれまで以上にエレクトリックヴァイオリンを多用しており、エフェクトを効かせたサウンドが新鮮だ。バンドはMidnight Sunのクレジットこそないが、 Kevin Moore以外は前作からの続投になっている。

Papa John Creach /Inphasion (1978年)

70年代最終作となる本作は、前作「The Cat &The Fiddle」と同一レコード会社、同じバンドメンバーで録音された。オープニングの表題曲がいきなりのギンギンのロックインストなので 全編ハードなロックサウンドかと思いきや、ほとんどの楽曲がミディアムテンポのロックバラードというリラックスした作品集。It’s A Beautiful Dayのヴァイオリン奏者 David LaFlameが1曲ゲスト参加していて、Creachとのツインフィドルかと期待するが、ストリングス風にヴァイオリンを弾いているだけてこれは肩透かし。ブルース系ギターリスト Johnny Guitar Watsonの客演、ソウル系女性シンガーDarcusとのDuetなどもあり、それなりにバラエティはあるがインスト面、Creachのボーカル面ともに若干の物足りなさもある。 ちなみにラスト曲はブルーグラスの大物Charlie Dennisを迎えての軽快なロックインスト。この作品が彼の70年代最後の作品となった。

Papa John Creach/Papa Blues(1992年)

前作「Inphasion」から14年、Jefferson Airplaneの再結成などを経て、久々に発表された本作は、タイトル通り全編ブルースに取り組んだ作品集となった。バックを務めるBarnie Pearl Blues Bandは、リズムギター兼スライドギターのBernie Peralをリーダーにリードギター、ピアノ、ベース、ドラムという編成。オーソドックスなものからアップテンポなジャンプブルースなど様々なブルースナンバーが続き、Creachの心地よいブルースフィドルとボーカルを堪能することができる。当時で70歳を超える高齢でありながら、それを全く感じさせない円熟のプレイは本当にすばらしい。残念ながらこの作品発表後の1994年に76歳で亡くなることになるが、最後に彼の本来の姿であるブルースフィドラーとしての作品がきちんと残ったことはファンとして本当に喜ばしいと思う。

Papa John Creach /Long Branch Park 1983 (1983年録音)

2011年に発掘音源として発表された本作は、とにかく彼のノリのいいフィドルプレイを満喫できるということはもちろん、78年に最後のソロ作を発表後の彼の活動を確認できるという点でも価値のある1枚。バックメンバーは70年代後期2作のバンドメンバー。音質自体は、若干粗く高音がきつい印象はあるが十分聞ける。選曲は「Country Boy, City Man」「Pop Stop」「Let's Get Dancin」「Inphasion」など後期のソロ曲が中心だが、他にJefferson Starshipの「Get Fiddler」Hot Tunaの「John's Other」など彼のこれまで参加したバンドの中で彼のフューチャー度の高い楽曲も取り上げられていてこれはファンにはうれしいところ。スタジオアルバムよりも高速のアレンジでノリノリに演奏される「Country Boy, City Man」「Let's Get Dancin」あたりはライブのハイライトになっていて非常にかっこよくCreachファンにはたまらない音源になっている。

Hot Tuna/First Pull Up, Then Pull Down(1971年)

60年代後半アメリカ西海岸のサイケデリックロックシーンの中心バンドJefferson Airplaneに在籍していたギターJorma KaukonenとベースのJack Casadyが、より純粋に音楽、 特にブルースをベースとしたアコースティックミュージックを演奏するバンドをやりたいと結成したのがこのHot Tuna。1stアルバムは、まさに2人+ハーモニカという編成で、 アコースティックでのライブアルバムだったが、この2ndはエレクトリック楽器に持ち替えたうえで、新たにフィドルにPapa John Creach、ドラムにSammy Piazzaを加えた5人編成での ライブアルバムとなった。音楽性はエレクトリック編成と言いながらもハーモニカ、フィドルがバックを彩るアコースティック色の強いブルースとカントリーをベースとしたもの。 Crecah的には新加入なら1曲目に彼のオリジナルである「John’s Other」が取り上げられるなど大きくフューチャーされていて、Creachファンには外せないものになっている。

Hot Tuna/Burgers(1972年)

前作からハーモニカのWill Scarletが脱退して4人編成になって発表されたHot Tuna初のスタジオ録音盤が本作。ブルースやカントリーなどをベースにしたロックというスタイルは そのままだが、スタジオ作ということで前2作に比べて作りこまれたアルバムとなっている。Kaukonenのギター、Creachのフィドルどちらも曲によって繊細なニュアンスを感じさせる ものからラウドな感じまで振れ幅広く、楽曲もアコースティック・エレクトリックの要素が曲ごとに絶妙にブレンドされていてどれも聞きごたえがある。 ただバンドの成り立ちからして当然だが全体にKaukonenの音楽性が全面に出た内容になっていて、Creachのフィドルも若干抑え気味な印象で、結局、本作を最後にCreachは Hot Tunaを去ることになる。

Jefferson Airplane/Bark(1971年)

1965年にデビュー以来アメリカ西海岸のロックシーンをけん引してきたJefferson Airplane。その音楽性はフォーク、カントリー、ブルースをベースにしたサイケデリックロック。 その結成当時からの中心メンバーだったMartin Balinとドラムの Spencer Drydenが脱退、代わりにギターのJorma KaukonenがAirplaneと並行して活動していた Hot TunaのメンバーだったドラムのJoey CovingtonとフィドルのPapa John Creachの2人が加入、本作が発表された。本作でCreachが参加した楽曲は3曲のみで、 まだゲストといった位置づけだったが、その3曲では大きくフューチャーされ音楽性のかなめという存在になっている。特に1曲目の開放的に歌い上げられるメロディの裏で フィドルが舞う「When The Earth Moves Again」や、Kaukoneのギターと土臭くワイルドに絡み合う5曲目の「Wild Turkey」はCreachのフィドルを存分に味わうことができる。

Jefferson Airplane/Long John Silver(1972年)

Jefferson Airplane最後のスタジオアルバムとなった本作は、前々作で脱退したMarin Balinらとこれまでボーカルパートを分け合っていたGrace Slickがメインボーカルとして 全面に出た作品となった。彼女の時にシャウトする力強い歌声が響き全体にハードなサウンドの本作で、Papa John Creachはついに全曲に参加。Kaukonenのギターと対になって サイケでヒステリックなサウンドを彩っている。特にフューチャー度が高いのは作曲にもかかわった「Milky Train」。のちに彼のソロアルバムでも再演されるこの曲だが、 ソロではインストだったのに対し、本作ではSlickのボーカルがフューチャーされ、彼女の激しいボーカルとCreachの荒々しいヴァイオリンが絡み合うさまは本作でもハイライトに なっている。前作に比べてキャッチ―な曲は減った印象だが、完成度は高い。タバコケースを模した変形ジャケットも素敵な好盤。

Jefferson Airplane /Thirty Seconds Over Winterland (1973年)

Jefferson Airplaneの最後のアメリカツアーを収録したライブアルバムである本作が現役バンドとしてのAirplaneの最終作となった。内容は「Bark」と「Long John Silver」という Creachが参加してからの2作の楽曲5曲と、中期の代表曲1曲にシングルのみの曲1曲という構成。スタジオ盤以上にCreachのフィドルがフューチャーされていて、もともとフィドルの 活躍度が高かった「Milky Train」などはもちろん、元々フィドルが入っていなかった「Feel So Good」でも全面的に活躍していて、もとからアシッド感のある楽曲をより サイケデリックに彩っていて、Creach入りのJefferson Airplaneを堪能するにはもってこいの内容になっている。近年、ボーナストラック5曲を追加して再発されたが、Hot Tunaでも 取り上げていたブルースナンバー「Come Back Baby」がAirplaneのステージでも取り上げられていたりと興味深い内容になっている。

Jefferson Starship /Dragon Fly (1974年)

Jefferson Airplane解散後、末期のAirplaneと同時並行でPaul KantnerがたちあげたプロジェクトJefferson Starshipが正式なバンドへと発展し、この1stアルバムが発表された。7人中5人が元Jefferson Airplaneという編成ながら、フォーク、カントリー、サイケデリックロックといった要素を配合した音楽性のAirplaneとは異なり、より洗練されたプログレハード的な音楽性となった。そのあたりはAirplane時代のギターJorma KaukonenとベースのJack CasadyというHot Tuna組が、ブルース、カントリーをベースとしていたのに対し、新加入のギターCraig Chaquico、ベース・キーボードのPete Searsがよりハードロック、プログレハードよりの音楽性を持っていたというところが大きく、メロディなどはAirplane時代の流れにありながら、トータルの音楽性としてはタイトでキャッチ―なメロディックロックという大きく異なる印象となった。Papa John Creachのフィドルは、これまで同様の土臭いものであるにも関わらず、そういった全体の音楽性の変化の結果、意外にもストリングス的な流麗さを楽曲に付与する形で活躍している。

Jefferson Starship/Red Octopus(1975年)

Jefferson Starshipとしての2作目となる本作では、Airplane黄金期のメンバーだったMarty Balinが正式メンバーとして参加し、よりスケールアップ。収録曲「Miracles」のヒットもありJefferson Starship初期を代表するアルバムとなった。キーボードの音が全体を包み込む中、Chaquicoのエッジの立ったギターとともにCreachのフィドルが対となり盛り上げるということで、前作以上にKansas的なプログレハードよりのサウンドとなった。Git FiddlerというCreachのフィドルを大きくフューチャーした、カントリーとプログレハードを混ぜたようなインスト曲や、壮大な「I Want To See Another World」でのインストパートなどCreachが存在感を感じさせる部分もあるにはあるが、全体の音像が厚くなるにつれCreachのフィドルの音は埋もれていくこととなり、前作に比べると存在感は薄い。その結果なのか、本作を最後にCreachは脱退することになる。

Jefferson Starship/Live In Central Park NYC May 12, 1975

近年発掘されたライブ音源で2nd発表前のステージを収録したもの。オーディエンス録音で、音質的には決して褒められたものではないが、それだけにスタジオ作とは異なるライブバンドとしての彼らの荒々しい姿を確認することができる。とにかくラフで熱気のある演奏は、スタジオ作とは異なるもので、まだ楽曲が少ないためにJefferson airplane時代の曲も多く取り上げられているのだが、Starshipの楽曲と並んで聞いても違和感がない。Starshipのスタジオ作では控えめだったCreachのフィドルも本作では大きくフューチャーされていて「Devil’s Den」「You're Driving Me Crazy」などは聴きもの。Creachの1stソロに収録されていた「Papa John's Down Home Blues」も取り上げられていて、ライブ前半のハイライトになっている。音質や完成度という点ではあまりお勧めはできないが熱心なCreachファンなら興味深く聴けるだろう。



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