アルバムガイド 日本のヴァイオリンニスト−中西俊博篇

日本のポップスヴァイオリンの第一人者中西俊博さんのアルバム紹介です。様々な音楽を消化し、彼独自の暖かくて明るい音楽を多数発表しています。 そのエンターテイメント性ゆえ、ヒーリング、癒しといった昨今の「はやり」から外れてしまっている感がするのが残念。下記以外に「不思議の国のヴァイオリン弾き」「太陽がいっぱい」「大草原の小さな家」「こわれた玩具」があります。 今後アップしていく予定です。

中西俊博/SILENT ROMANCE(1985年)

彼の日本コロンビア時代のセカンドアルバムである今作ではチャップリンによる映画音楽をテーマにした作品集。全10曲中6曲がチャップリン作品のカバーで、残り4曲がチャップリン映画をイメージしたオリジナル作品だ。基本的にバックにストリングスを配した映画音楽風のアレンジがなされており、曲によってピアノ、ベースなども入るがいわゆるバンド的なのりは一切ない。彼自身の演奏もスコアに忠実にクラシカルに唄うもので、後のようなアドリブやテクニカルなプレイは見られない。チャップリンの優しくロマンチックなメロディを忠実に生かしたイージーリスニングアルバムである。

中西俊博/IN THE POCKET(1990年)

中西俊博の5枚目であり、フォーライフ移籍第1作。彼はステファングラッペリの奏法をベースとしたプレイヤーとしての才能とともにコンポーサーアレンジャーとしても超一流の腕を持っており、ジャズにとどまらぬポップセンスですばらしい音楽を作り上げている。一聴した感じあまりにポップで聞き易いため聞き流しやすいが、その様々な楽曲スタイルやアレンジ、テクニックは超一流。一曲目のストリングスによるリズミカルなナンバーに始まり、ボーカルナンバーでの美しいバイオリンや5曲目でのエフェクターを駆使した幻惑的なヴァイオリンプレー、ラストのピアノとヴァイオリンによる小品まで緩急自在、聞き所は多い。しかもどの曲にも暖かみとゆとりが感じられる、そんないわゆる中西俊博のスタイルが完成された最初のアルバムである。

中西俊博/Walking in Paris(1991年)

フォーライフの彼の諸作は一作ごとにコンセプトを持ってアルバムが制作されている。この6作目はタイトルどおり、ヨーロッパの香り漂うのんびりとした映画音楽的世界を持ったアルバムだ。前作に見られたアップテンポナンバーが影を潜め、全体的にミドルテンポの楽曲が多くゆったりとした感じがする。アップテンポな楽曲もジプシースイングっぽかたりしてヨーロッパ的。それに編成を見てもドラムの参加した楽曲は前作では半数の5曲だったのに対し、3曲と減り、逆にStringsの比重が高くなっていることがわかる。また9曲目のクラシカルなかわいらしい小品や10曲目のシックなシャンソンっぽいナンバーなどこのアルバムならではの独自の楽曲も収録されている。

中西俊博/Sailing on strings(1992年)

通算7作目となるこのアルバムは、ジャケットのイメージどおりさわやかなフュージョンという雰囲気のアルバムに仕上がっている。それは1曲目などで聞かれるアコースティックギターのバッキングが心地よいアップテンポナンバーや原田知世がボーカルを取る4曲目の透明感のあるボーカルによるところが大きいのだろう。その他にもラテンフュージョンな9曲目など前作とは一転アップテンポな楽曲が多い。また今作では彼のアルバムには珍しく菅野よう子、小林靖宏ら多数の人物がアレンジャーとして参加。そのあたりもこのアルバムのカラフルな色彩感につながっている

中西俊博/YOU MAKE ME BLUE(1992年)

通算8作目となるこの作品はタイトル、ジャケットどおりブルーをイメージした作品集。前作までとは一転して参加ミュージシャンを絞り、シンプルな編成で美しい音楽を聴かせてくれる。楽曲は今までの彼の作品とは異なり全体的にメロディアスで静謐な印象のものが多い。アレンジもピアノやキーボードを中心とした上品な雰囲気ものが多く、彼のヴァイオリンもいつも以上にリバーブのかかり幻想的な雰囲気を作っている。タイトル曲でアルバムを挟み込む構成などコンセプトアルバムっぽい作りになっており、そのあたりも含め彼の全アルバムの中でも独特の作品となっている。彼本来の明るい音楽性があまり得意でない人にはお勧め。

中西俊博/フラッパーと哲学者(1993年)

中西俊博のヒット作となった通算9作目。前作からまたまた一転、全編バンド編成で、リズムが強調されたきわめて明るく、ポップに躍動感のあるアルバムとなった。とにかくころころ変わる曲展開、重音、ピチカートを多用したテクニカルでリズミカルな彼独自のヴァイオリンプレイは見事。サンバやラテンフュージョンから、おしゃれなスイングナンバー、クラシカルで美しいバラードまで、とぼけたポップスからシリアスなインストバトルまでと、その幅広い音楽性とそれを料理する腕前は本当にすばらしい。曲によってホーンやフルートなども参加。1曲1曲飽きさせることがない。ここまで幅の広いアルバムはそうあるものではない。最高傑作。

中西俊博/Fiddling In My Nest(1994年)

フォーライフ最終作となるこの10作目は、全14曲中10曲が「枯葉」「波」といったスイングジャズやボサノバなどのスタンダードナンバーをカバーした作品集となった。そう言う意味ではコンポーサーとしての彼よりもミュージシャンとしての彼が全面にでていると言えるが、各曲ごとに楽曲に添った形で楽器編成、アレンジがされており、単なるジャズアルバムとは違った中西俊博の作品集になっている。彼のオリジナルナンバーも演劇「アラカルト」のテーマ曲「La cafe」など、上品で小気味よく他の曲と並べても何ら違和感を感じさせぬあたりは見事だ。個人的には「枯葉」のアレンジが気に入っている。

中西俊博/「お見合い結婚」オリジナル・サウンドトラック(2000年)

フジテレビのドラマ「お見合い結婚」のサントラだが事実上中西俊博の新作と言っていいアルバムだ。松たか子が歌う主題歌以外はすべて中西自身により作曲、演奏されており、その楽曲も今までのアルバム以上に多彩で円熟味を感じさせるものとなっている。サントラということが逆にアルバムの幅を広げたのかもしれないが、静謐なバラードからコミカルなナンバー、ハードバップ調からフュージョンタッチの楽曲まで充実した内容。実際彼のライブでも何曲が演奏されている。また密かに村上秀一、佐山雅弘のPONTA BOX勢が参加していたりするところもポイントか。それにしてもこんな多様な楽曲群がどのように番組で使われていたのか未視聴の私には気になるところだ。そういえば松たか子の歌う主題歌もいい曲だと思う。

中西俊博/迷い込んだマエストロ(2000年)

このアルバムは池田あきこさんの絵本「猫のダヤンの物語」のCD-R用に制作された音楽をCD化したもの。ということで彼自身のアルバムとはちょっと異なりあくまで絵本のイメージをもとにした楽曲主体のアルバムとなっている。全体的にとぼけたイメージの映画音楽テイストの楽曲が並ぶが基本はやはり中西流ポップミュージック。編成はクレジットがないので判らないがヴァイオリンとピアノやキーボード類が基本となっており、時にベースその他の楽器が絡むといった感じ。いわゆるリズム隊ががんがん活動するような楽曲はなく、ほとんどの曲がスロー〜ミディアムテンポのものである。悪くはないがあくまで他の中西アルバムを聴いてから聴くべきだろう。

中西俊博/PROLOGUE(2002年)

完全なソロアルバムとしては実に8年ぶりとなる中西俊博の新作。スイング、アイリッシュ、クラシック 、タンゴ、ジプシーなど相変わらず様々な音楽のエッセンスを融合させ独自の世界を作り上げる手腕は見事。 今回はバックのメンバーも近年のライブで共演しているメンバーに絞り、アドリブパートなども盛り込み ライブ感覚を感じさせる仕上がりとなっている。そういう点でフォーライフ時代の華やかでおしゃれな アルバム群と比べると、ちょっと印象が異なるがミュージシャン中西俊博としてはこっちが本筋か。 個人的にはライブのハイライトとなっていた新大陸や以前のアルバムではあまり聞かれなかった物悲しい メロディが美しいWinter Lakeなどの収録がうれしいところだ。Libertangoはアレンジが中途半端な印象を 受けた、もっと激しく弾きまくって欲しい気がする。

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