アルバムガイド 日本のヴァイオリニスト 勝井祐二 編

1980年代後半から東京のインディーズシーンで活動を開始した勝井祐二氏は、1990年代前半にギターリストの鬼怒無月氏と「まぼろしの世界」というレーベルを 立ち上げ、「Bondage Fruit」など様々なグループ名義で次々と作品を発表するとともに、ジャズ系ミュージシャンを中心とした巨大グループ「渋さ知らズ」に 参加するなど幅広いセッション活動を展開、さらに90年代後半には「ボアダムス」etcの山本精一氏らとROVOを結成、人力トランスとしてクラブミュージックファンの 若者たちにも人気を博し広く知られるようになりました。2000年台にはアルゼンチン音響派といわれるアルゼンチンのアーティストとのセッションなどさらに 活動の幅を広げ現在に至るまで多彩な活動を展開しています。
勝井氏のヴァイオリンは、スタインバーガー製のエレクトリックヴァイオリンによる硬質な音にコーラスやリバーブなどのエフェクトを加えたスタイルが基本で、 そういった硬質さと繊細さのある音が音響系のバンドやセッションと非常に相性がいいように感じます。いわゆるクラシック的な歌いまわしやフレージングはなくきわめて ロック的でかつクールな印象を受けますが、初期の渋さ知らズやBondage Fruitなどではジャズっぽい熱い演奏も展開しておりそちらもまた魅力的です。
ヴァイオリンという観点から作品を選ぶとしたら「渋さ知らズ/渋さ道」「Bondage Fruit/1st」「Twin Tail/すべては許されている」「ROVO/FLAGE」「ROVO/PHASE」あたりでしょうか?ぜひいろいろな作品を聞いてみてください。

20枚のアルバムを追加し全面改稿(2016/2/3更新)

Bondage Fruit/Bondage Fruit(1994年)

ギターの鬼怒無月、ヴァイオリンの勝井祐二を中心にdr、b、vib・perc、Vo×2という7人編成で 結成されたBondage Fruitの1st。反復される激しいリフをディストーション全開のヘビーなギター、 ダークな女性コーラス、ヒステリックなバイオリンが繰り返しソロを取るタイプの楽曲と、 アコースティックな質感のナンバーが交互に来る構成。ヘビーな曲ではマシンのようなドラムの 刻みが強烈で、スラッシュジャズロックプログレとでも言うような世界を展開。一方の アコースティック曲は、エスニックな女性コーラスによる異国情緒とスピード感が気持ちよい 4曲目やギターのアルペジオ主体で静謐な雰囲気漂う8曲目など多様な持ち味を見せている。 9曲目はアブストラクトな即興曲で、こういった曲が入っているのも今作の特徴。 今作でのヴァイオリンはアコースティック主体で、ハードな曲でもおそらくアコースティックを 中心に録音がされていて次作以後のエレクトリック主体のサウンドと一線を画していて、 それだけに鋭いギターのサウンドとの差が際立つ感じ。ヘビーさとアコースティック曲との 対比がこのアルバムの魅力だが、次作以後はエレクトリックによるヘビー路線で集約されて いくことになる。

Bondage Fruit/U(1996年)

前作のさがゆき・久保田安紀というツイン女性コーラスを要した初期編成から久保田安紀が 脱退しての2nd。ただし民族音楽テイスト溢れるボーカルを聞かせる福岡ユタカの全面ゲスト 参加もあって多声のボーカリゼーションと硬質でヘビーなインスト部隊との激烈変拍子 アンサンブルというこのバンドの音楽性はそのままに、楽曲のヘビーさが増すことによって、 より強度が高くなった感がある。また前作に一部あった混沌としたフリーパートや アコースティック曲は姿を消し、どの曲も強力な変拍子リフにのってヘビーなギターや怪しげな エレクトリックヴァイオリン、リリカルなヴァイブラフォンがユニゾンし絡み合う、より暗黒で 脅迫度の高いアルバムとなった。微妙に加味される民族音楽色もアルバムのあやしげな個性を より強くしている。「ゲルコロイド」はまさにこの初期編成による集大成とも言える名曲。 ちなみにヴァイオリンは前作ではアコースティックを多用していたのに対し、今回は エレクトリック多用でしかもいかにも勝井氏という艶のないエレクトリックタッチが特徴的だ。

Bondage Fruit/V・recit(1997年)

ヘビーさが増す音楽性に合わなかったのか、ついに残ったボーカルさがゆきも脱退し、 勝井祐二(vln)、鬼怒無月(g)、岡部洋一(dr)、高良久美子(vib)、大坪寛彦(b)という インストのみ5人編成になって発表された3rdアルバムで新宿ピットインでのライブ録音。 冒頭1曲目からアメリカンハードロック的なギターが炸裂、前作までのエスニックスラッシュ ジャズロックといった音楽性から、新たな方向への変化を宣言しているかのよう。全体的に 終始ヘビーでアグレッシブなギターと畳み掛ける高速ドラミングがバンドを引っ張っている 印象でエネルギッシュなハードジャズロック。各パートのアドリブもありながら全体的には アレンジされた楽曲の整合感のあるタイトなアンサンブルがかっこよく混沌とした印象は薄い。 30分近くに及ぶタイトル曲は圧巻。ヴァイオリンは終始エレクトリックで、ワウっぽい感じの トーンでの幻惑的な早弾きが中心だが、一方で同様の乾いたトーンながら柔らかい質感で、 ビブラホンとリリカルにからみあう2曲目などもありそちらも印象的だ。



Bondage Fruit/W(1999年)

前作と同一メンバーによる4作目。前作以上にアメリカンロック的なカッティングでスタートする本作だが、前作に残っていた鬼怒を中心とした初期のエスニックスラッシュジャズロック的な感覚は3曲目くらいで、4曲目5曲目など本作の大部分は現メンバーがセッションで作り上げていったと思われる即興的なイメージの濃い楽曲となっている。相変わらず激しいうえに本作では意図的にアメリカンロックなフレーズを積極的に盛りんでいるとみられる鬼怒のギター、たたみかける岡部のリズムに対して、高良のリリカルなヴィブラフォンと勝井のワウっぽいギターのような音色の力強いエレクトリックヴァイオリンが幻惑的に絡みつくさまはやはりこのバンドならではのかっこよさ。その一方でアラビア音楽とカントリーがまざったような6曲目では勝井氏にしては珍しくアコースティックヴァイオリンによるフィドルタッチの演奏をしていてこちらはこちらで興味深い。

Bondage Fruit/SKIN(2002年)
5thとなる今作、収録曲は30分におよぶ標題曲と20分近いFrascoという大曲2曲のみ。 全体的な印象としては「とにかく重たい」。特に標題曲は、ゆっくりの重たいリズムの上で 一各楽器が色々なフレーズをのせていく形式。一応主題のようなものはあるもののほとんど 即興と思われる。しかも普通こういった楽曲は段々盛り上がったり、途中から展開して いったりするものだが、全く盛り上がっていくこともなく延々と続いていく。ギターを 中心にした重たく硬質な印象で、高良久美子もマリンバはほとんど弾かずパーカッションに 専念。ヴァイオリンもリリカルなフレーズはほとんどない。荒涼とした感覚が強いがでも 退屈というわけでもない言いようのない感じ。2曲目はまだ展開があり、民族音楽風オープニング、 延々とループするギターのカッティングをバックにパーカッションが暴れる前半、ギター、 ヴァイオリンを中心にミディアムテンポながらハードに盛り上げていく後半。最後には大団円の カタルシスがある。とはいえ2曲で50分。前作までのハードエッジに畳み掛ける 構築的なアンサンブルという芸風からの路線の変化が明確に出た。ただ 正直とっつきがいいとは言えないので心して聴いた方がいいかも。

Bondage Fruit/Y(2005年)

3rd以来の5人編成としては4枚目となる作品。今回は前作の大曲志向から転じて割とコンパクトな 楽曲中心のアルバムとなった。全体的にミニマルなリフの反復による楽曲が多いのが特徴。 曲ごとに見るとヴィヴラフォンのミニマルなリフに他の楽器が重層的に重なっていく後期GONGの ような1曲目に、エスニック調の2曲目、ウッドベースの4ビートにのってカントリー風ギターが 乗る3曲目、やはりミニマルなリフ主体ながら久々にアップテンポに畳み掛ける4曲目、 ヴィヴラフォンのゆったりした反復の上で各パートがソロをつむぐ5曲目、アコースティック ギターが先導するやはり叙情的な6曲目、ミニマルなブルーグラスとでも言うような7曲目と 曲調もヴァラエティに富んでいる。そんな中でもヴィヴラフォンの活躍が目立ち、 前作がずいぶん重たいアルバムだっただけに、そのリリカルな音色が心地よく安心して聴ける。 1stアルバム以来のアコースティックな曲もうれしい。最近のBondage Fruitを知りたければ このアルバムから。



ROVO/IMAGO(1999年)

ギター山本精一、エレクトリックヴァイオリン勝井祐二、キーボード益子樹、ベース原田仁、ドラム芳垣安洋・岡部洋一という編成で、人力でスペーシーなトランスサウンドを演奏するバンドRovo、彼らがミニアルバム「Pico」の次に発表した初のフルアルバムが本作。芳垣・岡部という東京アンダーグラウンドを代表する凄腕ドラマー2人による圧巻のリズムにのって山本のクリアなギターカッティング、益子のスペーシーなシンセ、勝井のコーラスを利かせた浮遊感のあるエレクトリックヴァイオリンがミニマルに反復しあいながら絡み合っていくダンサブルなROVOサウンドはすでに完成されている。ワンコードでこれだけかっこいい音楽が作れるセンスとテクニックは見事。勝井氏のヴァイオリンも短音の繰り返しでのアクセント入れ方、持続音での浮遊感の出し方など本当にすばらしい。ちなみに6曲目などは珍しくフルートが入ってジャズロック的即興展開を見せていたり7曲目も民族音楽っぽいリズムで演奏していたりして、このあたりはまだ試行錯誤中という感じで興味深い。



ROVO/PYRAMID(2000年)

Rovo2枚目のフルアルバムにしていきなりアルバム1枚で大作1曲という衝撃的な作品。構成としてはゆったりとした前半からテンポアップして爆裂し続ける後半という構成。前作にもあったが後のアルバムでは聞かれないような楽器や音が使われていて、特に冒頭のハーモニカ、中盤のサンプリングとは思われるが女性コーラスなどは特徴的。そういった異なる音がかわるがわる出てくるところなど、少しづつ盛り上がっていくというよりは、あちこちを旅しているような印象。また後半ではいかにもシンセという音色のソロが活躍するのも印象に残る。で勝井氏のエレクトリックヴァイオリンについて言うと実はアルバムを通じてほとんど聞こえないのだが、最後の5分ほどで登場し、爆裂ツインドラムと薄く重なる女性コーラスのサンプリングをバックにソロをとりまくって場をかっさらっていく。最後の5分のためだけでも聴く価値のあるアルバム。

ROVO/SAI(2001年)

全1曲のPYRAMIDの次にキーボードに中西宏司が加入して2人体制になって発表されたミニアルバムである本作は、Imagoの路線を踏襲しながらよりツインドラムを全面に押し出したサウンドになっている。またその爆裂リズムにのってエレクトリックヴァイオリンがソロをとる曲も多く、そういった点でもバンド的な色彩が強くでたアルバムとなっている。ジャンルは違うがミニマル的な反復リズムとロックビートということで後期Soft Machineに近い色彩も感じさせる作品。そういう意味では通常のロックファンにもアピールする作品と言える。もちろんヴァイオリン全面に出ているという点でも本サイトにおいてもアピールする内容。ちなみに4曲目はドラム2人によるハイハットだけのDuoに薄くシンセが乗るという10分間の演奏なのだが、これが全く苦にならず聴けるところが、このバンドの奥深さを感じさせるところだ。



ROVO/FLAGE(2002年)

SAIから2年たった70分を超えるフルアルバムである本作は、これまでのROVOの集大成としてツインドラムの爆裂リズムによる 人力トランスをつきつめたアッパーな楽曲を収録。今までのアルバム以上にライブ感が強い録音がされており、それが躍動感に つながっているような印象をうける。その一方で、今までシンセと並んで持続音やミニマルなフレーズにより迷宮感や効果音的な 位置づけが強かった勝井のエレクトリックヴァイオリンが、本作では完全にメインの楽器としてフロントに立つようになり、 1曲目の冒頭などメロディアスなフレーズを弾く場面も聞かれるようになり、そのあたり次作「Mon」以降の方向性への萌芽も 見受けられる。そのあたり、この時期にバンドの音楽的主導権が勝井に移ったということなのかもしれない。とにかく初期の 音楽性の完成版としてファンなら必聴。



ROVO/MON(2004年)

2年ぶりの新作となった本作は冒頭からFMで流れ小洒落たBGM的フュージョンのような穏やかなエレクトリックヴァイオリンによるメロディで始まる。そんな1曲目に象徴されるように全体にイージーリスニングよりの聴き易いコード進行やメロディをもった“曲”が増えた印象。前作まではリズム隊が楽曲の芯だったのに対し、本作ではメロディが主導しているというところか。途中からはいつもの盛り上がりモードに入る曲も当然あるわけだが終始ゆるやかに進行する曲もあったりして、全体に明るく緩やかなイメージとなっていて環境音楽的な聴き方もできるアルバム。と言いながら楽曲のバラエティもああって聴きごたえもある。というわけで勝井のヴァイオリンは楽曲の中心楽器としてうたいまくっていて、彼のエレクトリックヴァイオリンを堪能するという意味でも価値のあるアルバム。



ROVO/CONDOR(2006年)

キーボードの中西氏が脱退し、6人編成にもどって発表された本作は3パートで1曲という構成のアルバム。前作に続いてゆったりとした環境音楽的な色彩が強い。Part1とPart2は終始ゆったりとしたリズムの中、ヴァイオリンを中心に前作に近いイメージのメロディアスなフレーズを紡ぎじわじわじわじわともりあげていく。3曲目は逆に上にのっているヴァイオリンとキーボードは終始ゆったりと同じフレーズを繰り返していく中、リズムパートがだんだんとスピードを上げて激しくなっていくのだが、上物は終始おだやかなので静謐感と幸福感のある不思議な盛り上がりとなっていく。そういう点では同じ1曲で展開するアルバムではあるがPylamidとはだいぶ印象が異なる。1枚のコンセプトアルバムとして完成度の高い作品だと思う。



ROVO/NUOU(2008年)

クリアなギターのカッティングからスタートする本作は、全体にミディアムテンポで力強い音作りがされプログレッシブロック的な印象の強い作品。クレジットとしては5曲だが2~4曲目はメドレーになっていて実質的には3曲と前作に続き大作主義。本作は前作までのメロディ主体から再度リズム主導に回帰しており、力強く変化いていくリズムの上で、上物楽器が入れ替わりソロをとっていくような形。ヴァイオリンは楽曲の核となるメロディのポジションは中盤の「Melodia」1曲にとどまり、全般ソロ・バッキング・効果音的な位置づけにもどり、その分ほかの楽器と絡みながら自由に奔放にいろいろな音を鳴らしている。全般にわかりやすいジャズロック的な決めがある作りなのでいわゆるロックファンにも聴き易い作品だと思う。



ROVO/RAVO(2011年)

いきなりミニマルなフレーズのリフレインであ始まる本作は、10分強の独立したそれぞれ個性のあるナンバー5曲を収録。初期に通じるミニマルミュージックの要素の復権と前作に続く力強いミディアムテンポのグルーブの融合がテーマともいえそうだが、1曲目はもろにミニマル、2曲目はラテン調のリズムと初期作のようなトランスの復権、3曲目は重厚なサイケロックと曲調は多様で、初期に近い雰囲気の5曲目にしても初期作のようなタテノリのトランスというより軽やかに揺れているようなグルーブが魅力で、やはりリズム的には初期とは違うアプローチになっており、このあたりが本作の魅力か。ヴァイオリンは前作同様に主旋律というよりサイドからのアプローチではあるが、いつものエレクトリックの音色で全般に活躍している。



ROVO/PHASE(2012年)

System7とのコラボレーションを経て発表された本作は、前半は、前作までのミディアムテンポ主体のアプローチから一転、アップテンポな曲が並び、エレクトリックヴァイオリンが常に全面に出てソロをとるスピード感のあるジャズロック色が濃い展開。一方、後半2曲はヴァイオリンが全面に出ているところは前半と同じだがこちらはミディアムテンポ中心。特に20分にわたる5曲目などアンビエントな雰囲気がひたすら続く穏やかな楽曲だがリズムはやはりジャズロック的なシンプルなものというところは前半と同じ。全体の印象としては「IMAGO」「FLAGE」あたりに近いがそれ以上にエレクトリックヴァイオリンが延々と全面に出ていること音が全体にすっきりしているところがジャズロック的に聞こえるのかもしれない。ヴァイオリンという点では活躍度の鷹さで「MON」と並んでおすすめの一作。



渋さ知らズ/渋さ道(1993年)

不破大輔をリーダーに多数のミュージシャンやダンサーが入り乱れ、ジャズ、ロック、ファンクなどジャンルを超えた音楽活動を展開するバンド渋さ知らズの1stである本作は26人編成による1992年12月25日江古田Budyでのライブ録音。もともとCDにする予定で録音したわけではないようで音質はあまりよくないが初期渋さのラフな感じがよく出ている。のちにチンドンブラス的な曲を大人数のユニゾンでビシビシときめる感じからするとまだ粗さとゆるさがあるジャズロック的な楽曲が多いがそれが魅力。勝井はこの1stから参加しているが、この大人数編成の中でも3曲目や5曲目など長尺ソロをとるなどフロントマンとして大活躍している。特に5曲目など楽曲も勝井のヴァイオリンもまるでJohn Blairのよう。まだROVOなどで聞かれるようなエフェクトを利かせた独自の音色とスタイルを確立する前の、ジャズロックヴァイオリニストとしての勝井のプレイを堪能することができる。同時期の2nd「DETTARAMEN」もあるがヴァイオリンのフューチャー度では本作が上なのでまずはこちらから。



渋さ知らズ/BE COOL(1995年)

渋さ知らズの4枚目のアルバムにして、泉邦宏(al sax)、板谷博(tb)、片山広明(tsax)、北陽一郎(tp)、勝井祐二(vl)、加藤崇之(g)、渋谷毅(org)、不破大輔(b)、植村昌弘(dr)、大沼志朗(dr)、芳垣安洋(dr)という11人のメンバーで行われた初のスタジオ録音盤。通常の編成の半分以下という少人数での録音ということで前後作の多人数による混沌とした演奏とは異なり、タイトで切れのいいジャズ〜ロック作になった。楽曲もシリアスな曲が多く素直にかっこいい。管楽器メインの編成の中で勝井は唯一ヴァイオリンという楽器で参加。メンバーがかわるがわるソロをとっていく中で決して出番が多いわけではないもののモダンジャズ的にアウトする不穏なソロをとったり、エフェクトを利かせて効果音的にうごめいたりと、ただのブラスジャズではない渋さ知らズのハイブリッドな一面に貢献し存在感をアピールしている。



渋さ知らズ/渋祭(1997年)

1995年〜96年のライブ音源から制作された5thアルバムとなる本作は、前作までのシリアスなジャズロック的な音楽性から大きく変わり、ファンキーでお祭り的なチンドン風メロディをユニゾンでダンサブルにビシビシ決めていくという現在の踊れるライブバンド「渋さ知らず」は本作からスタートした。「P-chan」「ライオン」「反町鬼郎」など後々まで演奏される代表曲が多く収録されている。28人というメンバーがクレジットされる中でも勝井のヴァイオリンは気を吐いており、2曲目P-Chanでの中盤のJohn Blairを思わせるスリリングなソロなどアルバムの中でも聴きどころになっている。



渋さ知らズ/渋旗(2002年)

渋さ知らズの7作目。2日間のライブレコーディングからえりすぐった楽曲を収録した本作は、まさに「渋祭」以降の祝祭的ダンサブルバンドとしての集大成ともいえる出来の作品となった。彼らの代表的な楽曲といえる「火男」や「渋祭」以降の定番レパートリー「Lion」「Pチャン」などを収録。大人数の管楽器による息の合った分厚いユニゾンの迫力は素晴らしい。勝井氏のヴァイオリンは初期に比べるとだいぶ出番は減った印象だが、それでもブラス隊の間からエフェクトを利かせた幻惑的なヴァイオリンがちょこちょこ顔を出して自己主張をしていて、それがただのブラス主体のバンドにはない妙味になっている。特にLionでのソロやPchanでの大ブラス隊を前にしてのギターとのバトルなどは非常に聴きごたえがある。とは言いつつこの頃からROVOなどほかの活動も忙しくなってきたのか、次作「渋星」が最後のアルバム参加となってしまった。



勝井祐二/勝井祐二フィルムワークス 「プ」(1995年)

山崎行夫監督による映画「Pu」のサウンドトラックとして制作された勝井氏のソロ。参加メンバーは鬼怒無月(g)、大坪寛彦(b)、芳垣安洋(per)、広瀬淳二(Sax)というBondage Fruit人脈。面子から前衛的な即興セッションを想像してしまいがちだが、内容は非常に穏やかな雰囲気のセッション。勝井のヴァイオリンは基本アコースティックの線の細い音で、鬼怒氏のギターもクリアトーン。割と映画のサウンドトラックとして忠実な作りで勝井氏自身の音楽性を打ち出した感じではない。アーバンだったり中南米っぽい雰囲気だったりベンチャーズ風だったりと、サントラらしい場面にあわせたサウンドが展開されていて勝井氏の引き出しの広さに驚かされる。アバンギャルドさという点では広瀬氏のサックスに若干らしさはあるとはいえすかされるアルバムだが、勝井氏の関連作としては聴き易くかつ、勝井氏のアコースティック中心のサウンドを味わうという意味では価値のある作品だと思う。

鬼怒無月・勝井祐二/Pere-Furu(2001年)

「まぼろしの世界」というレーベルを立ち上げ、独自の音楽を追求している2人のアーチストによる即興デュオ。鬼怒無月はアコースティックギターとシンセサイザー、勝井祐二はヴァイオリンとシンセ、パーカッションを演奏。フリーなので当然明確なメロディがあるわけではないが、全体に民族音楽的でメロディアスな感じで、静謐な雰囲気も感じさせる印象派的な味わいのあるアルバムになった。5曲目9曲目11曲のようなエレクトロなサウンドもあるが、ほとんどの曲でアコースティックギターが多用されていること、ヴァイオリンもそれにあわせてエフェクター使用は控えめでアコースティックなサウンドを主体としており、それによるあっさりとした質感が地味ながら心地よい。インプロというとつい長尺になりがちだが、曲ごとにテイストがはっきりしていてコンパクトに曲としてまとまっていることも聴きやすさにつながっている。「そこに初めと終わりがあることを知るように」といった印象的なタイトルとその楽曲の間の感覚にも違和感がない。

勝井祐二/ソロ・ヴァイオリン(2004年)

エレクトリックヴァイオリンによる完全ソロ作品。しかも全て即興演奏でオーバーダビングも一切なしというものでそれぞれ異なる手法を 用いた即興曲4曲を収録している。最近の勝井氏のエレクトリックヴァイオリンは、所謂ヴァイオリンっぽい柔らかいものではなく、 響きのないざらついた神経質な音にエフェクトを効かせた感じのものだが、このアルバムではさらにそのエレキの音をループや サスティンなどのエフェクトを加えて加工し一聴してもヴァイオリンとは思えないような世界を作っている。またこういう演奏の場合 リバーブやエコーで残響を作ってふわふわした空間を作りがちだが、1、4曲目などはそういった処理を一切しないことで、剥き出しの ひりひりとした焦燥感を感じさせるような質感を作っている。3曲目のみ民族音楽風なフレーズをつむいで曲を成立させているが、 全体としてはフレーズで即興していくのではなく、ひとつの音をエフェクトで様々に変調させることで多用な世界を作っていて、それが彼の独自な所だろう。エレクトリックヴァイオリンの可能性に興味のある人向けというところか。

iLL+勝井祐二/Dawn〜夜明け(2007年)

元スーパーカーでソロではテクノロジーを駆使した音響系作品を作るillと勝井祐二のコラボレート作。水の流れる音や鳥の鳴き声などをバックにシンセの音やエレクトリックヴァイオリンのロングトーンやリバーブの効いた重音がたおやかに重なるどっぷりアンビエントな環境音楽の世界で30分と40分の全2曲70分。即興的な長尺曲という点では勝井の「ソロヴァイオリン」に近く、実際同様の手法も駆使されているが、シンセ中心の響きの柔らかさや場面展開の豊富さなどによって、より楽曲的で聴きやすい作品となっている。勝井のヴァイオリンも柔らかめのエフェクトが主体でエレクトリックヴァイオリンらしい音として心地よく聴かせてくれるシーンも多い。ちなみに場面によってはミニマルなところや喋り声の挿入などもあり、Steve Richeの「Different Train」が想起される時もある。さすが音響系ヴァイオリンニストならではの作品。即興は苦手という方も是非。



勝井祐二・PILL・木幡東介/1995.12.08(1996年)

ドラムと雄たけび担当のPILL、ボーカルとギター、ドラム担当の木幡(exマリア観音)、そしてヴァイオリンの勝井という3人による即興演奏ライブを収録したアルバム。タイトルなしの30分と12分の2つの即興が収録されているが、ともに明確なテキストに基づいた木幡の演劇的な歌唱による歌が全編にちりばめられていることと、楽器が小編成で整理されていることもあり聴き易い。特に木幡のギターは歌の伴奏として主に機能していてノイズをだすわけではないので爆音系の即興にいかないのがポイント。そういう意味でノイズ的な部分は勝井のエレクトリックヴァイオリンが一手に引き受けていて、ささくれた音色で歌の最中も、からむことなく暴れていたりするが歌を邪魔するほどのボリュームではなく、あくまで音楽的で、歌とノイジーなヴァイオリンが平行して進行する様が不思議な味わいになっていたりする。



BLACK STAGE/BLACK STAGE(1996年)

Bondege Fruitなどで共演するヴァイオリンの勝井祐二とギターの鬼怒無月の2人にアバンギャルド系ギターリストの大御所灰野啓二が加わったトリオBlack Stage、彼らの完全な即興演奏が3曲収録されたライブ録音盤。ギターについてはあくまでクリアトーン中心の音色が使われていて、いわゆるノイジーな方向にはいかないため音圧だけで圧倒する感じではないが、ある意味イメージどおりの混沌とした即興演奏が延々と繰り広げられており、これは間違いなく聞く人を選ぶ。中盤さしはさまれるボーカルパートが変化をつけている点とアコースティック中心という点でまだ聞きやすさもあるが・・・。個人的にはちょっとしんどい作品。



MONO FONTANA・FERNANDO KABUSACKI・ALEJANDRO FRANOV・SANTIAGO VAZQUEZ with勝井祐二・山本精一/CHICHIPIO - BUENOS AIRES SESSION VOL.#1 (2005年)

2000年頃からアンビエントや音響系的なサウンドをつむぐロック、ジャズ、現代音楽系のミュージシャン達がアルゼンチンに現れ「アルゼンチン音響派」と呼ばれ注目を集めるようになった、そんなミュージシャンとROVOの勝井祐二、山本精一によりブエノスアイレスで行われたセッションが2枚の作品として発表され、こちらはその1枚目。楽器編成は主にピアノ担当のFontana、ギターのKabusacki、様々な楽器を扱うFranov、パーカッションのVazquezに勝井のエレクトリックヴァイオリンと山本のギター。セッションということで即興演奏なのだが、ピアノやパーカッションなどによるアコースティックで牧歌的、室内楽的なやわらかい雰囲気で、いわゆる即興の重苦しさは皆無。またパーカッションによってラテンのリズムが刻まれたり、ピアノもラテンの明るいコードで即興したり、親指ピアノがアフリカンなイメージを作ったり、シタールがインド的な世界をかもしたりなど、ワールドミュージック的なたおやかさと明るい雰囲気が漂っている。全体にアルゼンチン勢主導のセッションでは、勝井はエレクトリックヴァイオリンでゆるやかにパーカッシブに絡んでいく感じ。日本勢主導の場面では一部不穏なトーンもあるが、全体としては環境音楽的に聴ける心地よい作品になっている。



ROVO with Alejandro Franov + Fernado Kabusacki + Santiago Vazquez/LIVE at Tokyo Cinema Club 7/7 2006 (2006年)

ROVOのメンバーとBuenos Aires Sessionで共演したKabusackiとFranovにパーカッションとしてSantiago Vazquezが参加しての東京でのライブを収録した作品。ROVOと名義されているが、完全即興ということで、いつものROVOとしての楽曲やイメージは一切なく、あくまでROVOのメンバーとアルゼンチン勢による新たなユニットのセッション作品と解すべきもの。ほぼ40分のセッション2曲と10分のセッション曲を収録。トータル90分にもおよぶ即興セッションではあるが、アルゼンチン勢を中心にワールドミュージックっぽく盛り上がっていく場面とROVO勢を中心にエレクトロニクス中心にデジタルな雰囲気で展開するパート、リズム隊主導で畳み掛けるパートと攻守あいまみれて次々と展開しまったくあきさせないの。結局、全体としてはダンサブルにのれる、やはりROVOらしいアルバムとなっているのはさすが。

デミセミクエバー/V(1996年)

デミセミは女性ボーカリストエミエレノオーラをフロントとするロックバンドで94年に1stを発売、2003年の「Dog Bless You」まで8枚のアルバムを発表している。このアルバムはそんな彼らの3rd。エミの特異なキャラクターの女性をボーカリストに立てた彼らは、パンク、ガレージ、サイケデリック的なスタイルながら時にヨーロッパ的テイストも感じられる独自なものだ。彼女の絶叫調のボーカルを中心に全編どたばたと騒がしいながら実はテクニック的には相当なメンバーがそろっており高度だ。叙情性のかけらもないその音楽はかなり聴く人を選ぶ。このアルバムより1994年より参加の勝井祐二のバイオリンは全編エレクトリックで、テクニカルながらフリーキーでノイジー。全編で活躍してサイケデリックな色づけをしている。ちなみに2008年現在、解散はしていないが殆ど活動していないようだ。

さかな/WELCOME(1999年)

女性ボーカルPOCOPENとギターリスト西脇によるユニットさかなの99年のアルバム。97年にアルバム「MY DEAR」のプロデュースを担当し当時ライブメンバーだったヴァイオリンニスト勝井祐二とドラマーPOP鈴木が事実上メンバーとしてアルバムにも全面的に参加。彼女の内省的でかつソウルフルな力強さも感じさせる独特のボーカルによるミディアムテンポのナンバー達はどれもグルーブ感あふれる上質なもの。そんな歌のバックに勝井のエレクトリックバイオリンの重音を多用した美しく、時にねじくれた音色が響き、その独特の歌世界にさらに強固な色づけをもたらしている。ヴァイオリンがこんなに自然に存在している事も珍しいポップアルバム、個人的には勝井氏の参加アルバムの中でも一番気に入っている愛聴盤である。他に勝井の参加作には「My Dear」や98年「LITTLE SWALLOW」がある。



カルメン・マキ&サラマンドラ/カルメン・マキ&サラマンドラ(2003年)

70年代からロックボーカリストとして活動するカルメン・マキが鬼怒無月(G)、勝井祐二(Vln)、芳垣安洋(Dr)、松永孝義(B)によるバンドサラマンドラと組んだ唯一のアルバムが本作。カルメン・マキのバックをBondage Fruitsがやっているというような編成ですが、確かにそれに近い音。とはいってもマキさんの力強いボーカルがあくまでメイン。彼女の力強い楽曲とバックの多少アバンギャルドな味付けはあるもののエッジの立ったロックなバッキングが絶妙に絡み合い素晴らしいロックボーカルアルバムになっている。1曲目のジャジーなランニングベースで始まり一気に盛り上がるキャッチ―な「Trick Star」や、けだるいボーカルから一気にバンドがフリークアウトしてしまう3曲目「世界の果ての旅」など本当にかっこいい。勝井氏はROVOやBondage Fruitで聞かれる幻惑的なエレクトリックヴァイオリンで楽曲を盛り上げるとともにアルバムラストのブルージーな大曲「変わらないもの」を提供。アルバムの完成度の高さに貢献している。

Vincent Atmicus/VincentU(2004年)

このページでもすでに紹介している勝井祐二氏や太田恵資氏の参加するヴァイオリン×2、サックス×2、ドラム×2、パーカッションという不思議な編成のバンドの2作目。Rovoにも参加しているドラムの芳垣安洋氏がリーダーだが、その音楽は激しいジャズロックではなく、ミニマリズムや民族音楽の影響が濃くアンビエントで幻惑的な雰囲気のインスト。時にチンドン屋のような雰囲気を漂わせつつ、たゆたうヴァイオリンにからむヴィヴラフォンといった音が心地よい。曲によってはアフロなジャズロックや脱臼系ロックにもなるが、だからといって激しいソロのとりあいになることはなく流れていくところが特徴。とにかく全体を通じて感じられる余裕が気持ちがいい。バンド名やジャケットのごつさがとっつきづらいがなかなか素敵なアルバムです。



The World Heritage/北回帰線(2006年)

吉田達也、鬼怒無月、山本精一、勝井祐二、ナスノミツルというアバンギャルド界のドリームチームというべきメンバーがそろって即興演奏を繰り広げるユニットThe World Heritageの1stアルバム。ただ本作ではこの5人がそろっての演奏は収録されておらず前半は2004年6月の鬼怒がギターで参加したセッション、後半が2004年3月の山本がギターで参加してのセッションとなっている。内容はというと即興と言ってもいわゆる混沌としたものではなくロック的な輪郭が非常にしっかりした演奏がされていて非常に聴き易くかっこいい。King Crimsonの即興が好きな人だったら問題なく聴ける。楽曲を引っ張るのがリズム隊なので勝井氏のヴァイオリンはどちらかというとサイドから楽曲に色付けする役割を担っている場面が多い感じか。とりあえず即興は苦手という方も食わず嫌いせずに一聴を。



TWIN TAIL/すべては許されている(2008年)

2006年に元Brankey Jet City、LOSARIOS,etcのドラマー中村達也、同じくベースの照井利幸に勝井祐二という3人で結成されたTWIN TAILの唯一のアルバム。 2006年のライブ音源2曲と、加2007年に行われたスタジオセッションを元にした音源が収録されている。すべて即興演奏で、中村の基本的にストレートでラフな 8ビートのロックスタイルだがよく歌うドラム、照井の力強く野太いベースの上で勝井のヴァイオリンが硬質なトーンで場面によりメロディアスに場面により粘着的にと、ソロを弾きまくるそのサウンドは素直にかっこいい。いわゆるジャズ・プログレ系のミュージシャンと異なり、ストレートなロックビートを刻むリズム隊が、ジャズプログレ系の即興演奏作品とは違う魅力となっている。勝井のヴァイオリンも他の作品ではサイドにまわったり、バンドにあわせた演奏に徹することが多いが、本作ではまさにフロントとして活躍。彼の多彩な演奏スタイルを様々に味わえるという意味でもいいアルバム。一部ヴィブラフォンの高良久美子が参加(オーバーダブ?)しているが幻想的なリリカルさを効果的に演出している。



Signals/Lapis Sky(2008年)

元Branky Jet Cityのベーシスト照井利幸(acoustic guitar)を中心に勝井祐二(electric violin),椎野恭一(drums)という3人で結成されたSignalsの1st。このバンドでは照井はベースではなくアコースティックギターを演奏。彼の奏でるアルペジオとパーカッシブに盛り上げる椎野のドラムにのって勝井のエレクトリックギターが幽玄にソロをつむぐという役割分担で、いわゆる音響系的な音作りがされた作品。メロディや進行はシンプルなフォークロック調で、あくまでもやさしく聞き心地よく展開されていて癒し系の音楽として聴けるものになっている。同系統の2nd発表後に勝井はメンバーをはずれ、現在Signalsとしては照井をリーダーとするユニットとして継続している。

津山篤/ヒューマン・ヘビー・ホース(1994年)

想い出波止場、Pugs、Acid Mothers Templeなどなどアバンギャルド系の多彩なバンドに参加するマルチミュージシャン津山篤氏のソロ作品は、イタリアのプログレバンドPFMのヴァイオリンニストMaur Paganiのソロ「地中海の伝説」へのオマージュともとれる、地中海風なんちゃって民俗音楽。なんちゃってとはいえ、ただおちゃらけているわけではなく意外とシリアスに聴こえるのがさすが。参加ミュージシャンは鬼怒無月、勝井祐二、久保田安紀という当時のBondage Fruit勢の他、Ruins等のdr吉田達也、ふちがみとふなとの船戸博、Si-Folkの吉田文夫と関西系まで幅広い。 基本、アコースティックで地中海風のおおらかなトラッド調の曲を「らしく」演奏するのだが、時々はめをはずして暴れるドラムや、過剰な即興などそれにとどまらない彼ららしさも。勝井氏はここでは珍しくアコースティックヴァイオリンのみで民族風のフィドルプレイを披露。意外なほどにそれらしい演奏で民族音楽らしさを加えている。

佳村萌 with 鬼怒無月・勝井祐二/うさぎのくらし(2005年)

黒木和雄や林海像監督の映画に出演した経歴を持つ女優、そしてボーカリスト、イラストレーターと多様な顔を持つ佳村萌が、鬼怒無月、勝井祐二とのトリオで制作したアルバム。彼女のボーカル(2曲ピアノも演奏)と2人だけによる演奏。2人ともエレクトリック楽器でのバッキングながら淡々としたプレイで、彼女の、絵本の世界のようなやさしく内向的な語りや、ささやくように歌うスタイルを的確にサポート。鬼怒の硬質なクリアトーンのギターのアルペジオやエフェクトを効かせたバッキングと、勝井ならではの、エレクトリックヴァイオリンの原音をいかした乾いたトーンに空間系のエフェクトをかけた独特の音色による間を生かしたバッキングが彼女の独特の詩の世界と混じり合い、不思議と暖かく柔らかな世界を作り上げている。不思議と癖になる作品。



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