アルバムガイド ロックヴァイオリニスト Kansas篇

カンサス州のハイスクールで同期だったメンバー3人を中心に1972年に結成されたKansasは、ハードロックをベースにしたしたしみやすくキャッチーなメロディの楽曲とキーボードやヴァイオリンの参加による複雑なアレンジと演奏力とで「プログレッシブハードロック」として70年代後半に人気を博しました。80年代になると時代にあわせてプログレ色は影をひそめ産業ロック的なサウンドへと転換しヴァイオリンのRobby Steinhardtは脱退。その後バンド自体も88年のアルバムを最後に活動を停止するも92年にヴァイオリンに新たにDavid Ragsdaleを迎えて全盛期のプログレハードサウンドで復活しました。その後はRagsdaleの脱退、オリジナルメンバーのヴァイオリニストRobby Steinhardtの復帰と脱退、再度のRagsdaleの参加と紆余曲折あるもののヴァイオリン参加によるプログレハードロックバンドとして現在まで活動しています。
ヴァイオリン入りロックバンドとしてはCurved Airなどと並んで有名なKansasですが、ヴァイオリンを期待すると若干微妙なバンドだったりします。オリジナルメンバーであり70年代通じて参加していたRobby Steinhardtのヴァイオリンは安物のピックアップをつなげてそのまま音を出したような線の細くやせた音色のため、いわゆるヴァイオリンの音を期待する人にとっては魅力に乏しいためです。またギターやキーボードと他にも多数の楽器が参加しているためアルバムによっては必ずしも見せ場が多くありません。一方90年代の作品に参加したDavid Ragsdaleは、機材の新しさや本人のテクニックもあって太みのある柔らかい音色のエレクトリックヴァイオリンが非常にかっこよく安心して聴くことができます。70年代の諸作については楽曲を楽しむという点で聴き、ヴァイオリンを堪能するという点では再結成以後の作品を聴いた方がいいのではないかと思います。
お薦め作ですが、まずはバンドの代表作として「Leftoverture」、粗さはあるもののヴァイオリンの活躍度が高いという点で1st、そして再結成後の「Live at the Whisky」「Freaks of Nature」です。
(2010/2/12アップ)

Kansas/Kansas(1974年)

アメリカンハードプログレッシブロックにカテゴライズされるバンドの1st。Key兼VoのSteve Walshを中心に、Key兼G、G、Vln、B、Drという6人編成。基本にあるのはアメリカンハードのストレートなサウンドであり、わかりやすい8ビートのリズムにのったボーカル曲がその主体。これにキーボードやヴァイオリンが派手さを加えることによりプログレッシブな装いをまとっているという感じか。この1stは特に彼らのアルバムの中でも特にストレートなロックサウンドの印象が強く、B面の数曲にシンフォニックな大作志向がみられるものの基本はハードロックサウンド。特に曲によってはハモンドオルガンやコーラスワーク、ワウワウギターなどがイギリスのハードロックバンドUriah Heepの影響を強く感じさせる。ヴァイオリンは全編で活躍しており、特にアップテンポな1曲目でのソロなどはなかなかかっこいい。音色はエレクトリックの原音に近いささくれた感じ。一般的にはあまり話題にならない作品だが、彼らの全作品中一番ヴィオリンの登場頻度が高いのでヴァイオリン入りロックという点ではお薦め。

Kansas/Song For America(1975年)

1曲目のもろストレートなハードロック曲以外は大曲志向が顕著になった2ndアルバム。表題曲は彼らの初期の代表作であり、キーボードが大きくフューチャーされたいかにもプログレッシブロックっぽい展開の多い大曲。その一方で1曲目のようなハードロックナンバーがあったり4曲目のようなごく普通のブルースロックナンバーが収録されていたりと、よく言えばバラエティに富んでいるとも言えるがちょっとまとまりのない印象も受ける。ラストの大曲もソロ回しで長くなっているだけで構成面では弱い。リズム的には相変わらずシンプルでグルーブ感に欠け、深みがない印象だ。1stに比べるとヴァイオリンの活躍場面が減ってしまっているところも残念。構成に凝るなど工夫を始めたもののまだまだ試行錯誤段階で全体的に大味な作品といった感じか。いろいろと不満は残るものの世間的には初期の代表作として人気はあるので興味のある方は一聴を。

KANSAS/Masques(1975年)

いきなりキャッチーなアメリカンロックで始まる3作目。その1曲目でソロを取るのはなぜかゲストサックス奏者というあたりいかにも売れ線狙いでレコード会社の戦略ぷんぷんなのだが、2曲目以後は今までの路線でほっとする。ただ全体に楽曲が小ぶりになった印象も。それでも曲ごとに展開があり、その一方で洗練されてきている感じもありと、コンパクトさとドラマチックさ、キャッチーさの両立をねらっている感じがする。同時に印象に残るメロディも増えてきた。4曲目の「All Over The World」などはそういった点で聴き所の多い名曲。この曲ではヴァイオリンも、バラード部分でのオブリガード、バッキングでの刻み、展開した中間部での派手なソロといい感じで活躍している。ちなみにヴァイオリンの音色だが相変わらず線が細く硬いトーン、ヴァイオリンの柔らい音色を期待すると微妙だが、まあアメリカンなサウンドにあっているといえばあっているか。全体の評価としては次作へのステップアップのための作品。

Kansas/Leftoverture(1976年)

邦題「伝承」。彼らの代表作として名高い本作だが、実際、わかりやすいメロディ、ドラマチックなサウンドと非常に完成度の高い作品。前作から顕著になった、キャッチーなボーカルメロディを中心としながら複雑な展開や技術的な聞かせどころを持ち、しかしコンパクトで聴きやすいというKansasならではの持ち味が、収録曲すべてにいきわたっている。以前のような曲ごとの路線のばらつき、出来不出来の幅がまったくないことには本当に驚かされる。また全体としてアンサンブル重視ではあるもののヴァイオリンが自然な形で活躍するポイントもあちこちにあるあたりもよい。仲でも4曲目「Miracles of Nowhere」の中間部でのクラシック風のソロやラストの大曲「Magnum Opus」での幻惑的なソロなどは聴き所。ヴァイオリンの音色は相変わらずで、全体的な音の軽さは気になるが、全体的な完成度は随一であり、Kansasを1枚聴くならやはりまず子のアルバムから。

Kansas/Point Of Know Return(1977年)

邦題「暗黒の曳航」。前作に次ぐKansas黄金時代を代表する5作目。前作よりもアップテンポナンバーが多いことやハードロック調のナンバーが多いなどダイナミックな質感が強い一方で、彼らの代表曲である「Dust in The Wind(邦題:すべては風の中に)」を収録するなどバラードナンバーも充実していて全体のバランスはよい。ただ全体のアレンジがギターとキーボード中心となってきておりヴァイオリンが活躍する曲としてはラストの組曲「Nobody's Home」〜「Hopelessly Human」ぐらい。それ以外の曲ではヴァイオリンが聴けても、メロディをキーボードやギターとユニゾンする場面が多くなり、アレンジ上の必然性が薄くなっている印象を受ける。逆にいうと、そういったギターとエレクトリックヴァイオリンのユニゾンの気持ちよさが魅力のアルバムとも言えるか。アルバムの完成度では前作に続く良作ではあるがヴァイオリンという点では「伝承」や1stあたりのほうがお薦めか。

Kansas/Two For The Show(1978年)

LPでは2枚組の大作ライブアルバム。これまでのアルバムに収録されたナンバーから代表作をえりすぐったベスト的なライブアルバム。彼らの音楽はアンサンブル主体でインタープレイやアドリブを繰り広げるものではないので、ほぼスタジオアルバムと同様のアレンジで演奏されているが、ライブならではの熱い演奏になっている。ヴァイオリンの音色については、スタジオ同様エレクトリックタイプの線が細くリバーブ感のない雑な感じの音で、ストレートに言うと稚拙ささえ感じられてそのあたりは非常に残念だが、それでもその粗い演奏がスタジオ盤に比べるとヴァイオリンとしての存在感をアピールしているともいえる。アルバム全体のサウンドとしてもリバーブ感に欠ける乾いた感じで、当時の音作りともアメリカならではともいえるがそのあたりが好みを分けるものの、バンド全体としての演奏はすばらしいし選曲もベストなのでそういう点ではお勧め。

Kansas/Monolith(1978年)

Liveアルバムをはさんで初めてセルフプロデュースで制作されたアルバム。コンセプトアルバムではあるが、当時の時代状況もあってか、今までの展開の多いアレンジは影を潜め、ボーカルをメインとしたストレートでキャッチーな産業ロック然とした楽曲が並ぶ作品となった。全体的に今まで以上にギターが目立つハードロックっぽい音作りとなっている。ということでヴァイオリンの出番は大幅に減った印象。一応ソロを取る場面もあるが完全にギターの陰に隠れてしまった。ヴァイオリンが活躍しているのは中盤の「How My Soul Cries Out」くらいか。この曲は本作でも一番展開の激しいハイライトナンバーでここでのヴァイオリンはかっこよいが、それ以外の曲では本当に存在感がない。ちなみに時代が新しくなってきたことにより前作以前に比べて録音状態が随分よくなっていて、それにあわせてヴァイオリンの音も艶が増し聴きやすくなっている点はポイント。それだけに出番が減ったことが残念でならない。

Kansas/Audio-Vision(1980年)

VoのSteve Walshが脱退する前の最後の作品。前作同様、もしくはそれ以上にストレートな産業ロックナンバーが並ぶ。前作では多少間奏部分で展開するような場面があったが今作ではそういった展開もなく全編ストレートなサウンドとなっている。特にスピードナンバーが多いこともその印象を強くしているのかもしれない。そういう点ではそれまでのKansasを評価する人からは評価の芳しくないアルバムだが、ポップな楽曲の出来はよくストレートな歌物ロックアルバムとしては非常によい出来だ。当然のごとくヴァイオリンの出番は少なく、ヴァイオリンが聴ける曲は数曲にとどまっている。ただ「Don't Open Your Eyes」などはアップテンポなボーカルナンバーながらヴァイオリンが全編で活躍、軽い音色は相変わらずだがドップラー効果のように左右を飛び回るエレクトリックヴァイオリンが非常にかっこよく個人的にはこの1曲だけでも評価したい作品。

Kansas/Live at the Whisky(1992年)

2回の解散の後、Steve Walshを中心とするオリジナルメンバーにヴァイオリンとキーボードに新加入メンバーを加えての復活ライブアルバム。ほとんどの曲が「伝承」と「暗黒の曳航」という2枚からというプログレバンドとしての全盛期から選曲。まさに全盛期を彷彿させる素晴らしい演奏を繰り広げている。特に新加入のDavid Ragsdaleの弾くエレクトリックヴァイオリンはその太身のある伸びやかな音色、確かなテクニックにのっとった余裕さえ感じさせるクラシカルな早弾きと完全にRobby Steinhardtを上回る存在感をもってこのライブアルバムの完成度に貢献している。Walshのボーカルも絶好調で、録音状態も素晴らしい。オリジナルメンバーやリアルタイムでの演奏にこだわらないのであれば、このアルバムから聴くことをお薦めしたい。それくらい完成度の高いライブアルバム。

Kansas/Freaks Of Nature(1995年)

「Live at The Whisky」のメンバーによって制作された新作アルバム。ヴァイオリン入りプログレハードという言葉が素直に当てはまる完成度の高いアルバム。新加入のヴァイオリニストDavid Ragsdaleの弾くエレクトリックヴァイオリンが全編にフューチャーされていてバッキング、ソロにと大活躍している。いかにもエレクトリックという柔らかい太身のある音色でバッキング、バリバリの早弾きソロ、リバーブを効かせたクラシカルなソロと大活躍。ハードロック然としたエレクトリックギターに対するにはやはりこれくらい太みのある音色の方が相性がいい。またRagsdaleは演奏だけでなく、4曲を共作するなど作曲面でも貢献。それらの楽曲たちも全体的に今風のモダンなハードロックという感じがするが、素直にかっこいい曲がそろっている。所謂Kansasらしい楽曲という点では若干ずれがあったため往年のKansasファンにはあまり評価されなかったようだが、ヴァイオリン入りロックバンドのアルバムという点でお薦めのアルバム。

David Ragsdale/DAVID&GOLIATH(1997年)

アメリカのハードプログレバンドとして有名なKANSASが90年代に再結成された時、参加したヴァイオリンニストのソロアルバム。本人以外の参加メンバーはb、Drの二人だけで、ヴァイオリン以外のギター、キーボードまでも彼がプレイしている。ここで聴かれる音楽性は、アメリカンハードロックをそのままヴァイオリンで演奏したような雰囲気のオールインスト。彼はストレートなリズム隊の上で、ある時はクラシカルに、ある時はハードにヴァイオリンを弾きまくっている。曲自体も変拍子は無いものの、展開が多く聞き応えは十分。曲自体はどれも明るい雰囲気を持っており、クラシカルな曲でもカラッとした仕上がりになっている。バッハ風の演奏を聴かせながら、いわゆる泣きの叙情性が一切ないあたりが、いかにもアメリカのバイオリニストである。



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