アルバムガイド ロックヴァイオリニスト It's A Beautiful Day篇

元々ユタ州立シンフォニーオーケストラでソロイストとして活動していたDavid LaFlammeが、サンフランシスコに渡り妻のLinda Laflammeらとともに67年に結成したのがこのIt's A Beautiful Day。Grateful DeadやJefferson Airplaneなどとともにフラワームーブメントの中心バンドとして人気を博し、1stアルバム収録の「White Bird」は大ヒットした。その後もメンバー交替しながら順調に活動を続けたIABDだったが、4枚目の「At Carnegie Hall」を最後にDavid Laflammeは脱退。バンド自体も次作「Today」を最後に解散した。その後Laflammeは70年代後半にボーカルもののソロを2枚発表。その後表立った活動は聞かれなかったが90年代後半から活動再開。現在はDavid Laflamme Bandを率いるとともにJefferson Airplaneのサポートメンバーとしても活動している。
Jerry Goodmanらとともにアメリカのロックヴァイオリニストの草分けであるDavid Laflamme。クラシック出身でありますが、それほどクラシック臭さは感じられません。一部にカントリーテイストはあるものの、正統派のロックヴァイオリン的なソロが持ち味。It's A Beautiful Dayとしては世間的には1stが人気が高いですが、ヴァイオリンが活躍するという点では「At Carnegie Hall」が一番のお薦めです。
(2009/3/4アップ)

IT'S A BEAUTIFUL DAY/IT'S A BEAUTIFUL DAY(1969年)

サンフランシスコ出身のアートロックバンド。男性ボーカル兼バイオリニスト、女性ボーカルにオルガン、g,b,drという編成で、男女ボーカルをメインに、オルガンが中心になってバックアップするというのが基本的スタイル。インスト部分に入るとヴァイオリンがフィドルタッチのソロを取り出す。編成はプログレッシブロック的だが、フラワームーブメントの最中のアメリカから出たバンドだけにハードロックの要素よりサイケデリックで時折メランコリックなフォークロックベースのポップロックな印象が強い。曲によってはアーサーブラウンに通じるところも。ヴァイオリンについてはクラシックの素養もあるのだろうが、カントリーフィドル色が濃い。音楽性、ボーカルスタイル、オルガンの音色とも今聞くと時代を感じさせるが(特に録音の感じ)、当時としては斬新だったことも理解できる。この1stは彼らの代表曲である「White Bird」「Hot Summer Day」やDeep Purpleの「Child In Time」の元ネタとなった「Bombay Calling」などを収録。その美しいジャケットと併せて(佐野史郎も賞賛)、ロックファンには人気のある1枚だ。

IT'S A BEAUTIFUL DAY/MARRYING MAIDEN(1970年)

前作からキーボードのLinda LaFlammeが脱退しFred Webbに交替して発表された2作目。Grateful DeadのJerry Garciaがbanjoでゲスト参加。前作がメランコリックなサイケデリックロックというカラーが強かったのに対し、今作は一転してレイドバックした、からっとした雰囲気が強い作品となった。もろにカントリーな4曲目「Hoedown」や7曲目「It Comes Right Down」、ハーモニカがもろアメリカンロックな「Good Lovin'」など。まるでアメリカの南部の農村で活動するカントリーロックバンドという趣が漂う。個人的にはもろカントリーというサウンドは苦手なのだが、Don Sugarcane Harrisが50年代に結成していた「Don And Dewy」というユニットから名をとったと見られる1曲目のアップテンポな4ビートブルースナンバーはサイケなオルガンとひるがえるフィドルがかっこよく聴き応えあり。

IT'S A BEAUTIFUL DAY/Choice Quality Stuff…Anytime(1971年)

アルバムレコーディング中にメンバーチェンジがあった3rd。レコードB面の「Anytime」は、前作と同メンバーによる1stに通じるサイケフォーク調のサウンド。ところがベースとギターがチェンジした新メンバーによるA面「Choice Quarlity Stuff」側は一転して、エッジのたったハードなロックサウンド。バラードナンバーもあるが、1stのようなサイケデリック感はなく、全体の印象としてはブリティッシュハードロックに近い熱いもの。Santanaバンドのメンバーも参加、ラテンロックの要素も導入され、パーカッション群が一丸となって畳み掛ける「Words」などまさにSantanaのような曲も収録されているが、これなどは非常にかっこいい。あまり話題になることの少ないアルバムであるがなかなかの充実作だ。ただし曲調もあってヴァイオリンの出番はやや控えめか。

IT'S A BEAUTIFUL DAY/At Carnegie Hall(1972年)

前作の「Choice Quality Stuff」側のメンバーによるニューヨークはカーネギーホールでのライブアルバム。メンバーは前作の編成ではあるが、収録曲は「White Bird」「Hot Summer Day」「Bombay Calling」など1stや2ndのナンバーが中心。ただし演奏自体は前作をうけて全体にハードロックっぽく、シャウトする男女ツインボーカル、ザラッとした質感でエッジのたったヴァイオリンとギターのバトルがとにかく熱い。旧曲以外にカバー曲1曲や新曲2曲が収録されているが、どれもアップテンポでソウルフルな熱いナンバー。既成の曲もテンポアップしていて一気に畳み掛ける白熱したステージとなっている。ポップな「White Bird」ですら中盤からインスト部を大幅拡大した炸裂バトルバージョンになっているあたりがこのアルバムの醍醐味。代表曲が多数入っていることもあり、ヴァイオリン入りの熱いロックバンドとしてのIt's A Beautiful Dayが知りたかったらまずはこのアルバムから。

IT'S A BEAUTIFUL DAY/IT'S A BEAUTIFUL DAY・・・TODAY(1972年)

ヴァイオリン兼ボーカルでリーダーのDavid Laflameとベーシストが脱退。Gregory Blochを新たなヴァイオリニストに迎えて建て直しを図った5枚目。音楽性は前作をよりハードロックよりにしたタイトなサウンド。ブルース志向も強まったブリティッシュロックっぽいしめったサウンドも心地よく、楽曲についてもこれという抜けた曲はないものの全体に充実しており、なかなかの好盤だったのだが、結局ラストアルバムになってしまった。Greg Blockのヴァイオリンは前任者のアナを埋めて十分なテクニックを聞かせてくれる。曲によっては出番がないのが残念だが、ラスト曲の「Creator」でのすすり泣くようなヴァイオリンは印象的。バンド解散後、GregはイタリアのプログレバンドPFMの「Jet Rag」に参加した。

David LaFlamme/White Bird(1976年)

IABDのヴァイオリニストだったDavid LaFlameの1stソロ。基本ヴォーカルアルバムで、いきなり「White Bird」「Hot Summer Day」というIABDでのヒット曲セルフカバー2連発という腰砕けな内容。原曲に忠実なアレンジではあるが、それだけのものでオリジナルを聴けば十分。イージーリスニング風ジャズロックの3曲目をはさんでB面はちょっとファンキーなポップロックナンバーやバラードが並ぶ。IABD時代のエッジのたったヴァイオリンはほとんど聴けず、唯一のインストである3曲目のみ当時のPontyに似たいかにもエレクトリックというやわらかい音色で、なかなかのソロをとっていてそれなりにかっこいいのだが、まるでイギリスのCamelの曲のようなこの1曲だけ浮いている感は否めない。IABDのアルバムをすべて聴いたあとにはずれ覚悟で手を出すくらいがいいだろう。

David LaFlamme/Inside Out(1978年)

LaFlammeの2作目のソロ作。ヴァイオリンを構えるジャケット写真からヴァイオリンをメインにおいたインスト重視の作品かと思いきや、前作B面と同様の売れ線ねらいのアメリカンなポップロックボーカルアルバム。あまりにもさわやかな歌ものが多く腰砕けになる。安っぽいキーボードの音色にも辟易。ただ「Day You Went Away」などミディアムテンポで聴かせる曲もあり、曲によってはそれなりに聴けるといえば聴ける。また前作と違い、間奏になるとヴァイオリンがソロをとってくれるところは結構救い。ストリングス風のときやメロウな泣きソロもあればエッジのたったヒステリックなエレクトリックでのソロもありで、どれもなかなかかっこいい。これでもう少しインスト主体の楽曲やロックっぽいエッジのたった曲があればよかったのだが。

David LaFlamme Band/Beyond Dreams(2003年)

権利関係で名乗れなかったもののジャケットがもろに示すように事実上の再結成It's A Beautiful DayであるDavid LaFlamme Bandの新録音アルバム。メンバーは1stに在籍していた妻のLinda LaFlammeやドラムのVal Fuentesに若手メンバー。でアルバムだがIABDの1stから4曲、ソロから2曲と全9曲中6曲が過去の再録音というセルフカバー集のような内容。音質は新しいがアレンジはほとんど変わらないため、あまり新たなイメージはない。妙に音がすっきりしてしまったことで逆に60年代ならではの味わいがなくなってしまった印象すら受ける。ヴァイオリンも生ヴァイオリンのストリングス風なクリアな音は、整然としすぎる印象で、賛否両論あるだろうが個人的には再録の必然性を感じなかった。ソロ曲2曲の再録も同様。新曲のうち歌もの2曲はリラックスした大人のロック。ラストのインストだけはラテンロック風ながらクラシカルに展開し意外と面白いのだが、緊張感に欠けるのが残念だ。正直IABDの楽曲を聴きたいのならオリジナルを聴いた方がいいと思う。このあと2枚同編成でアルバムを発表しているようだ。



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