アルバムガイド 日本のヴァイオリンニスト−葉加瀬太郎篇

一般的な知名度という意味ではこの葉加瀬太郎さんが一番でしょう。東京芸術大学在籍中からクライズラーカンパニーのメンバーとして活躍。 解散後は、セリーヌディオンとの競演などで活躍。ソロアーチストとしても「情熱大陸」などのヒット曲を出す。また絵画の才能や高田万由子との結婚も 話題を呼びました。とにかくクラシック上がりだけに、情熱的で美しいヴァイオリンの音色が特徴です。 アドリブの能力はいまだ発展途上で、その能力の発展が期待されます。

KRYZLER&KOMPANY/UP AND AWAY(1996年)

クラッシクのポップなアレンジで一躍話題となり、日本におけるポップヴァイオリンの代表として活躍した彼らのラストライブアルバム。個人的な印象を言うと、彼らのスタジオ作品についてはその音楽性ゆえにお行儀のよいBGM以上の魅力を感じないのだが、ライブとなると話は別。のびのあるヴァイオリンを中心に華やかな音楽を展開する彼らの演奏は、ライブでこそ本領を発揮するといってもよい。クラシックのなじみのメロディーも、間に様々なアドリブや意外なアレンジが施され見事によみがえっている。さらに後半部では村石雅行のドラムやスカパラダイスオーケストラのホーンセクションの参加もあり、極めて躍動感のあるスケールの大きなステージとなっている。ロックファンにももっと聞いてもらいたい作品だ。

葉加瀬太郎/WATASHI(1997年)

元クライズラー&カンパニーのヴァイオリンニストとして有名な葉加瀬太郎のファーストソロアルバム。その内容はそれまでの経歴からすると意外とも思われる、ブラジル音楽の要素を取り入れたインストアルバム。プロデューサーにアート・リンゼイを迎え、アルバムとしてはまとまったものになっているが、クラッシク出身にありがちなリズム感の悪さ、バイオリンの音の線の細さもあり、BGMとして以上の魅力はあまり感じられない。彼自身の作曲した曲も、単純なコード進行に基づいた甘いメロディに終始しそれ以上の音楽性は見いだせない。クラッシックの出身者だけに重音のプレイなどは安定しており技術的には確かなのだが。もう少し勢いが欲しいところだ。

葉加瀬太郎/Walkinng with You(1998年)

「情熱大陸」のテーマ曲「Etuprika」でゆったりと幕を開ける葉加瀬太郎のセカンド。Kiss of LifeのMike Benをプロデューサーに向かえ、前作よりスケールアップ。前作からのラテン色にアフリカン色も加味。前作にあった音色、ミックス、選曲などの問題点が克服され、アルバム全体としての統一感が感じられる一方で、その中でスローテンポの楽曲からアップテンポな曲のメリハリもついていて、聴いていて飽きの来ないアルバムに仕上がった。葉加瀬自身作曲の3曲もメロディの美しい佳曲に仕上がっていて、アルバムの中にうまく配置されて緊張感を解きほぐす役割を果たしている。ヴァイオリンの音色もクラシカルになり過ぎず、うまく楽曲とマッチしている。

葉加瀬太郎/DUETS(1999年)

1曲ごとに様々な女性アーティストを迎えて、というコンセプトのサードアルバム。大空に上っていくような広がりのある葉加瀬の自作曲での二胡奏者との競演で幕を開けます。それから各国の女性ボーカルをフューチャーしたポップなナンバーが並び、そして日本のピアニスト西村由紀江との彼女の曲での優しく美しいDuetで幕が閉まるという構成。女性ボーカル陣については知識不足でよくわからないのですが、いかにもヨーロピアンなポップスからボサノバ、クラシカルなバラード、ラテン色の濃い楽曲など多彩。彼のバイオリンは前面に出ているわけではないが、その確かな存在感でアルバムを統一している。

葉加瀬太郎/Violinism−Acoustic Best(2000年)

人気ヴァイオリンニストの4枚目はヴァイオリン、チェロ、ピアノ、ギターによるアコースティック編成で過去のアルバムの楽曲を演奏するアンプラグド作品だ。彼のヴァイオリンは線が細く、クラシック臭が強いためエレクトリック編成においてはパンチの弱さが目立ち、違和感があったが、アコースティック編成においては、その弱点が克服されすばらしい出来となった。バックのピアノ、ベースもG-cref出身ということで手慣れた演奏を聴かせてくれる。楽曲のアレンジもアコースティック編成とは思えない多彩さが心地よい。どの曲も魅力的。

葉加瀬太郎/Endless Violin(2001年)

セルフプロデュースによる5作目。今までの作風と大きい変化はないが、今回の特徴としては打ち込みリズムが目に付く、それにバルトークの民族舞曲やバッハのシャコンヌなどクラシック曲の独自解釈によるカバー、セリーヌディオンとの競演で有名な「To Love You More」の再演などある種判りやすい選曲と言えるところ。今回自作曲の割合が高いが、大きな作風の変化はなく、それぞれ美しいメロディを多彩なアレンジで飽きが来ないようにうまく仕上げている。個人的にはアコースティックギターとのデュオ7曲目やフレンチジャズっぽい小粋な8曲目あたりが気に入った。ともかくも安心して聴けるアルバムになっている。

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