アルバムガイド インドジャズヴァイオリン篇

元々ヨーロッパの楽器だったヴァイオリンだが、イギリスの植民地となったことでインドにも根付き、独自のインド音楽楽器となった。 そのインドヴァイオリンを使って逆にジャズなどの音楽にチャレンジしているミュージシャンがここで紹介するShankarやL.Subramaniam。 インド音楽というとちょっと抵抗感があるかもしれませんが、ここで紹介したものはジャズ、ロックなどポピュラーなフォーマットの作品なので のでそれほど抵抗はないはず。興味のある人は是非お試しを。

Shakti with John McLaughlin/Handful of Beauty(1977年)

John McLaughlinがMahavishnu Orchestra解散後結成したShaktiは彼が傾倒していたインドのミュージシャンとの超絶アコースティック民族音楽ユニットだった。このアルバムは彼らの2作目にあたるが、g、ヴァイオリン、タブラという編成で、まさにインド音楽のフォーマットの上で激しいバトルを繰り広げる。インドにヴァイオリンが入ったのは300年前ということで、完全に民族音楽の楽器として昇華され、独自のテクニックを持って繰り広げられるそのスピーディーなソロは驚異とも言える。ヴァイオリンのShankarはこのユニット解散後アメリカにわたって活躍する。

Shakti with John McLaughlin/Natural Elements(1977年)

McLaughlin率いるShaktiの3作目にして最終作。パーカッション奏者を一人増したその音楽は、前作がもろにインド音楽という感じだったのに対し、より幅広い音楽の要素が導入され、ポップに親しみやすいメロディが聴かれるようになった。言ってみればインドのバンドが世界中の音楽を演奏しているかのようだ。特に1曲目のスピーディなフュージョン、5曲目のラテンナンバー、8曲目の美しいメロディの小品などMcLaughlinの作曲に顕著だ。そういう点で、インド音楽はちょっと、という人にもインドヴァイオリンの魅力を味わってもらえるアルバムに仕上がっている。

Shankar/TOUCH ME THERE(1979年)

Shaktiに参加したインド人ヴァイオリンニストShankarはその後、アメリカに渡りFrank Zappaのバンドに参加し、Zappaプロデュースによる今作を発表した。Zappaプロデュースということもあり、彼のその後の路線であるインド風ニューエイジフュージョンではなく、ボーカルナンバーも数曲収録したきわめてポップな小品の並ぶアルバムとなっている。彼ならではのポルタメントを効かせた個性的なエレクトリックヴァイオリンの音色とテクニックが耳に残るが、楽曲はどれもBGM風の小粒なものでいまいち印象が薄い。彼の音楽性のショーケースといえるかもしれないが、音が極めて個性的な割に音楽的な個性に乏しい印象。そのあたりが難点。

SHANKAR/M.R.C.S(1991年)

Shakti解散後、Shnkarはアメリカに渡りソロとしてのキャリアをスタートさせた。このアルバムではタブラ、GHATAM(どんな楽器だ?)ドラムという編成をバックにジャケットどおりの、波が静かにゆれるような、たおやかな音楽を展開する。インド音楽をベースにしながらもメロディアスで暖かいその音楽は、アメリカでニューエイジにジャンルされるのもうなずけるものだ。彼の多重録音されたエレクトリックバイオリンは、強いリバーブと、ゆったりとしたポルタメントで音をつなぐその奏法により、柔らかく幻想的な雰囲気を醸し出している。ちなみに彼の使うのはダブルバイオリン。ダブルネックギターのバイオリン版で、それによって多彩な音程と音色を得ているとのことだ。

Dr.L.Subramaniam/GARLAND(1978年)

インド出身のヴァイオリンニストによるソロアルバム。Svend Asmussenというジャズヴァイオリンニストをゲストに迎え、ジャズとインド音楽をミックスしたまさにフュージョンなアルバムを作り上げている。楽曲は曲ごとに曲想が違い、典型的なインド音楽、メランコリックなバラード、のんびりしたフュージョン、ポルカ、ジャズロックとまさに多彩、その中で彼のインド的なヴァイオリンが独特の音色でメロディを奏でるというなかなか高度なアルバムだ。インド出身の彼はGeorge Harrisonとのツアー中コペンハーゲンでこのファーストアルバムを録音。その後アメリカに渡り現在も活動している。

L.Subramaniam/SPANISH WAVE(1983年)

インド人ヴァイオリン二ストSubramaniamがアメリカに移ってから作成したアルバム。インド人でありながら、本当は日本人ではないかと思わせるような判りやすい泣きのメロディを創る彼。今回オープニングを飾るタイトル曲はそのものずばりスパニッシュ、やはり日本人が作ったのではと思うような判りやすいいかにもスパニッシュ調の泣きメロを弾きまくっている。他の曲もやはり判りやすいジャズロックナンバーが並び、そのあたりについて安っぽいという捉え方もできるが、これはこれで彼の持ち味として素直に楽しむべきか。参加面子はLarry Coryell、Stanley Clarkeとなかなかのもので、ジャズロックファンには技術的な部分もこみで安心して聴けます。

L.Subramaniam/IN MOSCOW(1988年)

インド出身のジャズヴァイオリンニストがロシアで地元のミュージシャンと録音したアルバム。様々なミュージシャンがロシアのミュージシャンと録音する「IN MOSCOW」シリーズの1枚とみられるが、その中身は叙情的なメロディが光るジャズロック。奏法こそインドヴァイオリンならではの飄々と幻惑的なものだが、彼自身の手による楽曲はブリティッシュジャズロックと言っても通じるメロディアスなもの。バックもエレピやアコースティックギターなどリリカルな雰囲気をかもし出している。1曲の泣きのバラードもいいし、3曲目などのスピーディな曲でのユニゾンやソロの早弾きも見事。ジャズロック、プログレファンには特に薦めたい良質な作品だ。

John Mayer's Indo-Jazz Fusions/INJA(2000年)

インド人ヴァイオリンニストJohn Mayerをリーダーとした名前のとおり、インド音楽とジャズを融合させた音楽を演奏するユニットのアルバム。メンバーはMayerのヴァイオリンのほか、シタール、タブラ、フルート、サックス、トランペット、ピアノ、ベース、ドラムの計9人。ジャケットからいかにもインドな楽曲が聴けるかと思いきや、その音楽はエスニックなメロディを持つジャズという雰囲気で、どちらかというとジャズ(しかもゆったりしたモダンジャズ)の要素がメイン。シタールの音色などもそれほどベタな雰囲気はなくジャケットでイメージされるような民族音楽臭さはない。どちらかというと理知的なイメージの音楽だ。またMayerのヴァイオリンも意外と普通なクラシックに近いきれいな音色。あまりヴァイオリンは表にでてこないのでそれを期待するといまいちかも。

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