アルバムガイド ロックヴァイオリニスト−Gong関連作 篇

永遠のヒッピーのDaevid Allenのコミカルなキャラクターと時にチンドン屋プログレと揶揄されるごったに風サウンドで70年台に活躍した異色ジャズロック集団Gongは、75年のAllen脱退後は徐々にテクニカルジャズロックの方向へと向かい、 最終的にPierre Moerlen's Gongとしてマリンバなどチューンパーカッション主体のインストバンドへと変貌した。一方のAllenはPlanet Gong、New York Gongなどで活動するが80年代初頭にはオーストラリアの故郷に帰り隠遁生活ののちに80年代末期から Gong Maisonとして活動を再開。92年にはGongを再結成し、以後現在に至るまで活動を継続している。
Gongというバンドは非常に楽器、メンバーの入れ替わりが激しいバンドで、そんな入れ替わりメンバーの中にヴァイオリン奏者もいるのですが、どの人も全盛期ではなく過渡期的な時期にショートリリーフ的に参加している感じです。まず最初の参加は、 Jorge Pinchenvskyですが、これはAllenが脱退してインスト重視に移行してく本当に過渡期のアルバムShamalのみの参加でしかもゲスト扱い。その後正式メンバーになるも次作を待たずして脱退しています。そのあとはアルバムごとにDarryl Way、Didier Lockwoodが ゲスト参加していますが、あくまでアルバムゲスト。一方Daevid Allenによる再結成Gongの方では、Gong再結成の前身となったGongmaisonおよび再結成Gongの第1作にGraham Clarkが参加していますが、これも黄金期メンバーによる再編以降は姿を消しています。 というわけでヴァイオリンが参加しているGongのアルバムはGongの視点からはあまりメジャーではない作品ばかりではありますが、それぞれに面白い作品なのでぜひ聴いてみてください。 (2013年9月15日新設)

GONG/Shamal(1975年)

フランスのジャズロックバンドGongが、前期リーダーDeavid Allenのキャラを全面に出したコミカルでサイケな路線から、後期リーダーPierre Moerlenによる鍵盤打楽器中心のテクニカルインスト路線へと移る過渡期の作品なのだが、ヒッピー的エスニック嗜好と洗練されたインストにヨーロッパ的味わい、そして隠し味のファンク趣味などが混ざって、しかもそれが淡い音像に結実、このアルバム唯一ともいえる独特の味わいのあるアルバムとなった。b兼vo、dr、sax、key、Marimbaという基本編成だが、6曲中4曲にJorge Pinchenvskyというヴァイオリンニストがゲスト参加。いい具合にささくれよれるアコースティックの音が絶妙の味わい加味している。特にファンキーなジャズロックとウインナーワルツが混ざったような変てこな「Cat in Clark’s Shoes」でのコミカルなプレイは素晴らしい。彼はこのあと正式なメンバーになったがアルバム録音を残さないまま脱退した。

Jorge Pinchenvsky/SU VIOLIN MAGICO Y LA PESADA(1973年)

フランスのプログレバンドGongの「Shamal」に参加したことで一部プログレファンに知られるJorge Pinchenvskyが母国アルゼンチンに残したソロアルバム。「Shamal」でトラッド風味の翻るようなアコースティックヴァイオリンを弾いていた彼だが、ここで聴かれる音楽性はまったくかけ離れたサイケデリックなブルースハードロック。2曲目などはヴァイオリンの音色自体はエフェクトなどを使わないアコースティックであまり音圧をかけない飄々としたもので、しかしそれでブルースロックなバックに絡み、しかも微妙にバロック趣味のあるメロディを弾いていたりする。3曲目以降は一転ゆがんだ音でギター顔負けにソロを弾いている。まあ大まかな傾向としてはHigh TideとかIt’s a Beautiful Dayとか。単純に当時のサイケブルースロックバンドにヴァイオリンが参加したという感じか。時代のサウンドと言ってしまえばそれまでだが、これはこれで面白くはある。このアルバムの後フランスに渡った彼はClearlightのツアーに参加後、Gongに合流したがすぐに脱退した。

Gongmaison/GONGMAISON(1989年)

GongのリーダーDeavid Allenは80年初頭のアメリカでの活動を最後にオーストラリアに帰り音楽の一線から退いていたが、80年代後半Gong ファンクラブGASの要請を受けてヨーロッパに戻りGongmaisonを結成した。メンバーは1stからの付き合いであるDidier Malherbe(sax)のほか、Mother GongのHarry Williamson (syn)、それに新たにShyamal Maitra (tablas)、Graham Clark (vln)、Wandana Bruce (voc/harmonium) 、Conrad Henderson (b)ら。音楽性はGongをアコースティック、エスニックにした感じで、アコースティックギター、ヴァイオリンを中心にリズムもtablaによるパーカッション的なもの。音楽的にもレゲー風、フォークロア風、カントリー風と民族音楽的な牧歌的サウンドにたまにハウスディスコ風な打ち込みリズムが入る感じ。全体に音質クリアでWandanaの若々しいコーラスもあり非常にヘルシーでさわやかな印象でGongのアングラ感、ポップ感は薄く、そのあたりはGongファンには物足りないかも。

Gongmaison/Glastonbury Festival '89(1989年録音)

95年に発表されたGongmaison89年6月のライブ。一部資料では、まだこのころGongmaisonを名乗っていなかったという説もある。音楽活動復帰直後のDaevid Allenの方向性を模索する姿が垣間見れ、同時期に録音されたスタジオアルバム以上に混沌としていてエスニック・フォークロア調のセッションという印象。Gong本体で聴かれるようなコミカルでポップな色合いは薄く、Daevidのソロの色合いが強い。そんなアコースティックな中でキーボードや電子サックスのチープな音色が何とも言えない安っぽさを醸していてそのあたりが個人的にはちょっと苦手。音がクリアすぎるのも安っぽさに輪をかけている感じで残念。Graham Clarkのフィドルは相変わらずの安定度ではあるが。このアコースティック主体の編成は89年中には解体し、Didier MArherbe、Graham Clark、Shymal MaitraにKeith Bary(b)が参加してエレクトリック色の強い方向に舵を切っていくことになる。

Gongmaison/LIVE AT THE FRIDGE LONDON(1991年)

Gongmaison名義での唯一の映像作品。このころGongmaisonは、Keith Bary(b)の参加などもあり事実上エレクトリックバンドになっていて、時期が近いGongのピンポイント復活ライブを収録した「Live On TV 1990」に演奏やAllenのコスチュームなど殆ど変らない状態。演奏曲も初期Gongの代表曲「Dynamite」「Est-ce Que Je Suis」などGong曲を多く取り上げているなどほとんど1990年再結成の編成と変わらず、実際このバンドはそのまま翌年の再結成GONG「Shapeshifter」へとつながっていく。そんな中Graham Clarkのヴァイオリンが90年再結成GONGとの大きな違いとなっていて、彼のフィドルタッチのヴァイオリンが往年のGongナンバーに独特の柔らかい味わいを与えている。映像的には相変わらずヘンテコなAllenのパフォーマンスが素晴らしく、傘を頭につけてステージ走り回ったり奇天烈ぶりは本当に楽しい。サイケデリックな映像エフェクトが若干見づらいのが難点だがファンは一見の価値あり。

GONG/SHAPESHIFTER+(1992年)

永遠のヒッピーのDaevid Allenのコミカルなキャラクターと時にチンドン屋プログレと揶揄されるごったに風サウンドで70年台に活躍した異色ジャズロック集団Gong。Daevidが直前に率いていたGongmaisonが発展した形でGong名義でこのアルバムを発表した。Gong健在ということでコミカルでサイケデリックな世界観は70年代全盛期と変わらず。ただ70年台のトランス感の強いギターや浮遊感の強いキーボードに変わって、このアルバムの音楽性を支えるのは、おなじみDidier Malherbの柔らかな音色のSAXのほかにGraham Clarkによるヴァイオリンだ。そのエコーの聴いたエレクトリックヴァイオリンは、ジャズロック風セッションでの浮遊感や擬似フォークロア風、チベット音楽風楽曲でのエスニック色を際立たせている。決して前面にでて活躍するわけではないが、このアルバムに欠かせぬ存在となっている。

THE MAGICK BROTHERS/LIVE AT THE WITCHWOOD(1992年)

Deavid Allenが上記GONGと平行してGraham Clarkと活動していたのがこのアコースティックユニット、MAGICK BROTHERSだ。ボーカル、ギター、ヴァイオリンというシンプルな編成で、冥想的で牧歌的なナンバーが並ぶ。民族音楽ごっちゃに度はGONGにも並ぶが、より素朴でおおらかな感じがし、とっつきやすい。DeavidのボーカルもGONGに比べて癖がなく柔らかい。ライブアルバムであるが音質、テクニックは申し分なく、Graham Clarkのエレクトリックヴァイオリンは、クラシックやトラッドの要素の強い美しいもので全編で活躍してこの素敵なアルバムを盛り上げてくれる。個人的にはGongの1stアルバムの1曲目であった「Magick Brother」の再演がうれしい。密かに名盤。

CLARK・THORNE・FELL/ISTHMUS

GONGMAISON,再結成GONGに参加したヴァイオリンニストGraham Clarkが、ジャズベーシストとドラマーとの連名で発表したのがこのアルバム。その音楽は経歴からすると意外なことに、ジャズのフォーマットによる完全な即興演奏。フォーマットがシンプルで、b,drが一定のリズムキープをしているため、即興と言いながらある程度楽曲として聴けるものになっているが、それでも初心者にはきつい。ライナーには彼自身のコメントとして「ジャズと即興の間にある音楽を目指したい」と書かれているのだが、あまり聴いて楽しいものではない。


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