アルバムガイド ロックヴァイオリニスト−David Rose篇

70年代のフランスのジャズロックバンドTransit Expressに在籍していたことでプログレファンに知られているDavid Rose。彼はもともとアメリカのフィラデルフィアで生まれたアメリカ人で、大学時代にフランスに留学、帰国後、70年代前半は大学の友人とFredというロックバンドを結成しアメリカで活動、解散後フランスにわたり、 Transit Express、ソロ作、Rose、Blue Roseといったバンドで活動、80年代後半にはアメリカにもどり音楽活動を続けましたが、94年に脳疾患でなくなりました。

彼の基本的なスタイルはジャズロックですが、PontyやLockwoodのようなジャズの影響はなく、完全にクラシック〜ロックの範疇のもの。そういう点では同じアメリカのJerry Goodmanに近いスタイルと言えますが、 より線が細く、場面によってはクラシカルだったりします。とはいうものの、ビブラート過多に歌い上げるタイプではなく、ヴァイオリンの音色も当時のシンプルなエレクトリックの音色そのままだったりするので 割と癖がない淡泊な印象を受けます。

ジャズロックヴァイオリニストとしての彼を聴きたければ、やはりまずソロ作やソロのライブ音源あたりから。よりポップなボーカリストとしての 姿に興味があれば「Fred」や「Blue Rose」あたりを聞いてみるのもいいかもしれません。
ページを新設しました。(2015/11/15)

Fred/Fred(1970−1974録音・2000年発表)

フランスのジャズロックバンドTransit Expressへの参加やソロアルバムでプログレファンに知られるジャズロックヴァイオリニストDavid Rose、 彼が渡仏する前にアメリカで参加していたバンドがこのFred。学生バンドが発展して70年から74年にかけて活動していたが、結局アルバムは発表せずに解散したのだが、 2000年に入ってから立て続けに発掘音源集2枚と発掘ライブアルバムがメンバーによって発表された。この「Fred」はその第1弾発掘音源集。Fredは、 初期はカントリーやサザンロック、スワンプロックのテイストの濃いヴァイオリン入りサイケポップロックで、後期に行くにしたがってインストジャズロックへと音楽性を 変えていったようで、このアルバムはその初期のポップロック時代のボーカルナンバーを中心に収録。The Flockの2ndや初期Kansasに通じるような音楽性でプログレ色は薄く、 70年代アメリカのサウンドを楽しむべき内容。David Roseはヴォーカル兼ヴァイオリンでフロントとして活躍。ただヴァイオリンはカントリーっぽい感じもあり後の切れ味はまだ薄い。

Fred/Notes on a Picnic(1973年〜1974年録音)

ジャズロック系ヴァイオリニストとしてプログレファンに人気の高いDavid Roseがアメリカ時代に参加していたFredの発掘音源集第2弾である本作は、彼らがニューヨークに 拠点を移した73年〜74年に出入りしていたスタジオ「Blue Rock」での録音を集めたもの。内容的には前作がサイケフォークロック調だったのに対し、のちの Transit Expressやソロアルバムでの音楽性に直結するジャズロック。ボーナストラック扱いの2曲以外は、ボーカルはスキャット程度で、基本インストで、 ヴァイオリンを中心に炸裂感の高い演奏を繰り広げている。特に生音っぽいヴァイオリンでの切れ味鋭いソロが炸裂する2曲目、3曲目あたりはジャズロック好きには たまらないだろう。彼のソロが好きな人でFredを聴くならまずは本作から。

Fred/Live At The Bitter End(1974年録音)

David Roseが在籍していたことでプログレマニアに知られる6人編成のバンドFredの発掘音源第3弾である本作は、1974年にニューヨークのライブハウスBitter Endに 出演したときのライブ録音。Notes On A Picnicと同時期ということで、ここで聴ける音楽はNotesと同様のジャズロック。会場でのオーディエンス録音っぽく音質は オフィシャルとしてはいまいちだが。演奏はところどころでは粗さも感じさせる炸裂感があってかっこいい。楽曲、演奏ともMahaishnu Orchestraに似ていて、もろに その影響を感じさせるもの。ギター、キーボード×2、ヴァイオリンにベース、ドラムという編成だが、主役は明らかにDavidのヴァイオリンで、作曲自体はキーボードの メンバーが中心だが、音楽的なイニシャティはDavidが持っていたのではないかと推測される。

TRANSIT EXPRESS/Couleurs Naturelles(1976年)

70年代中期にフランスで活躍したジャズロックバンドの3rd。アメリカ出身ではあるもののフランス留学経験があり、その関係でFred解散後に渡仏していたDavid Roseは前作でゲスト 参加後、このアルバムで正式に加入、プログレッシブロック色が濃くなったその音楽性は、黒っぽさのない鋭角的なスピーディなジャズロックサウンドで ヨーロッパ然としてかっこいい。しかし一方で、手数の多いリズム隊、神経質なヴァイオリンはゆとりがなく、窮屈な感じもする。そのあたりが好みの分かれ所。 とにかくジャズロック好みの完成度の高いサウンドで、アルバム後半はメドレー形式の大作となっていてプログレッシブロックファン受けするのは確か。 この編成がそのままDavid Roseのソロも録音。よりヴァイオリンをフューチャーしつつ同様のサウンドを展開する。

David Rose/Distance between Dreams(1977年)

フランスのジャズロックバンドTransit Express参加したDavid Roseがその直後に発表したソロアルバム。ソロと言ってもTransit Expressのメンバーが全面参加。曲も彼らの 手による物や共作がほとんどを占めているあたり、同バンドが彼のリーダーバンドに発展したようだ。音はいかにもフランスらしい緩急あるジャズロック。動き回るベース、 タイトなドラムにのってヴァイオリンとキーボード、ギターが掛け合う。キーボードがピアノメインなあたりも含めクラシック(といっても近現代)の色彩が濃い。5曲目など 「バルトークに捧ぐ」と副題されたソロ曲。ヴァイオリンはエレキ・アコースティック両方使っているが、クラシカルな音色ではなく、いわゆるフュージョンタッチのもの。 テクニックの方はクラシックベースだが素晴らしい。楽曲も充実しており、ジャズロックファン好みの名盤となっている。

David Rose Group/LIVE(1978年録音・2003年発売)

2003年になって発掘されたDavid Rose Groupのライブ音源。彼の音楽性は鋭角的で端正なジャズロック。ソロアルバム「Distance between dreams」発表後のライブと言うことでその前に在席していたTransit Expressの曲やソロアルバムの曲を中心に演奏。ミディアムテンポの曲ではクラシックの影響も感じられヴァイオリンの鋭いタッチがひんやりとした印象を与える。一方でアップテンポなナンバーではアドリブパートも長くとられ、スタジオ盤に比べよりアグレッシブな演奏を繰り広げる。スタジオ盤がこじんまりとまとまってしまっていた分、曲によっては20分にもおよぶ演奏はうれしい。Didier Lockwoodなどに比べよりクラシックの影響色濃い彼ならではのソロプレイが堪能できる。音質も最高ではないが十分。



Rose/Worlds Apart(1979年)

1977年にソロ作を発表したDavid Roseは、David Rose Groupとして活動後、ほぼそのままのメンバーで新たなグループRoseを結成した。Roseの音楽性はそれまでのインストジャズロックをよりニューエイジ風に洗練させたインストに、自身が歌うボーカルナンバーを加えた、メジャーよりのもの。この1stではまさにそういったボーカルナンバーとインスト曲が交互に収録されている。ソロ作のもろジャズロックという路線に比べると、洗練されコマーシャルになった音楽性はジャズロックファンには不評だが、ボーカル曲も中間のヴァイオリンソロはかっこいいし、ジャンリュックポンティのようなA面のインスト”Renaissance”、B面後半のインスト2曲のドラマチックな流れなどは素晴らしく、十分聞く価値のある好盤になっている。バンドは同名義でもう1作発表後、Blue Roseへと移行した。

Blue Rose/Blue Rose(1982年)

ソロアルバム発表後のDavid RoseはDavid Rose GroupのメンバーからほぼそのままにDavid Roseがヴァイオリンとボーカルを兼務してよりポップロックよりの新バンドRoseを結成、 2枚のアルバムを発表。さらによりアメリカ進出を図るためにメンバーチェンジしAORよりの音楽性をもったBlue Roseへと移行した。その唯一のアルバムが本作。Roseから引き続き David Roseがヴァイオリンとボーカルを兼務しているが、Roseがインストナンバーとボーカルナンバー半々だったのに対し、こちらは完全にボーカルメインのポップなAORサウンド。 特に際だったナンバーがないところがブレイクに至らなかった理由だろうが、憂いを帯びた洗練された楽曲に、イントロた間奏になるとRoseのエレクトリックヴァイオリンが いかにもエレクトリックという音色で流麗にソロをとり、そのあたりはなかなかかっこいい。そういった音楽性やスタイル的には日本のTAOなどに近い印象を感じる。 ポップになったことでプログレ〜ジャズロックファンからは批判されがちな本作ではあるが、ファンなら一聴の価値ありだろう。

Boomerang/Boomerang(1982年)

ZAO、Clearlight Orchestraなどのフレンチジャズプログレッシブロックバンドに在籍したベーシストのJoel Dugrenotをリーダーとする「Boomerang」の唯一のアルバム。 DrumsにZaoの同僚Jean My Truong、 Guitarに Claude Olmos、PianoにManuel VillaroelらMagma、Zao人脈のメンバーにヴァイオリンにDavid Rose、Marc Bonnet Mauryという クレジットでバンド名義ではあるが、実質的にはDugrenotのソロプロジェクトとみられのちに再発されたときには彼のソロ名義となった。内容としてはヴァイオリン、 ストリングスやピアノの音色が全体を覆う室内楽的で内省的なジャズロックで、エレクトリックヴァイオリンとギターが均等にソロを分け合って演奏を引っ張っている。 ヴァイオリンとしては2名クレジットされているが、エレクトリックヴァイオリンとしてクレジットされているのはRoseのみでMauryはストリング担当とみられ、 Roseのエコーリバーブを利かせたエレクトリックヴァイオリンが楽曲の要として大活躍しており、彼のファンはまずは必聴の作品になっている。

Joel Dugrenot/MOSAIQUE(1991年発売)

ZAO、Clearlight Orchestraなどのフレンチジャズプログレッシブロックバンドに在籍したベーシストJoel Dugrenotのソロ名義で91年に発売されたアルバム。 彼が70年代中盤を中心に行ったセッション音源を元にして作り上げたとみられるこのアルバムは、David Cross、Fred Frith、Pierre Morelanなどプログレファンにはなじみの 凄腕ミュージシャンが多数ゲスト参加。内容は彼のソロユニットBoomerangをよりスピリチュアルに静謐にした、派手さはないものの極めて完成度の高い美しいジャズロックアルバム。 特にヴァイオリンニストDavid RoseはBoomerang同様に全曲に参加、そのリバーブのかかった繊細な音色のヴァイオリンでこのアルバムの抑制された美しさを演出している。 全体的な地味さはいかんともし難いがそれでもこのクオリティは評価したい。黒っぽさ、ファンキーさは皆無のまさにヨーロッパならではのフュージョンである。


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