アルバムガイド ジャズヴァイオリニスト−Regina Carter篇

デトロイト出身の女性ジャズヴァイオリニスト。4歳からヴァイオリンを始めた彼女は10代はロックバンドに参加するなどした後、Jean-Luc Pontyの演奏を聴きジャズを志向するようになる。90年にNew YorkのジャズグループStraight Aheadに参加しNew Yorkに進出、さらにString Trio Of New Yorkへの参加を経てソロデビュー。New Yorkのジャズシーンで注目を集め、Aretha Franklin、Wynton Marsalis、Cassandra Wilson、Kenny Barronなどとの多彩な競演歴を経て現在も活躍している。
初期作2枚はレコード会社の意向もありSmooth Jazz路線で、ラテン系のバックにのって生ヴァイオリンが流麗なソロを取るというものだったが、レコード会社をjazzの名門レーベルVerveに移籍した後は、ストレートなジャズを志向しています。彼女のヴァイオリンは、アコースティックにこだわり、クラシック出身ならではの正確なピッチとやわらかい音色が持ち味。フレージングもモダンなジャズらしいものでテクニックは素晴らしいが、全体的にグルーブ感が弱く、スイング感に欠ける点が弱点。ただし最新作では、その弱点も大幅に改善されジャズらしい芯の太い音、スイング感と、正確で聴きやすい演奏の両立に成功しています。
ということでSmooth Jazz路線なら「Something For Grace」、スイング感なら「I'll Be Seeing You: A Sentimental Journey」、美しい演奏なら「paganini:after a dream」あたりから聴かれるのがいいかと思います。
(2009年1月9日全面改稿)

Regina Carter/Regina Carter (1995年)

後期Wether Reportに参加したテクニカルベーシストVictor Baileyをプロデューサーに迎えて制作された1stアルバム。音楽性は一言でいうとSmooth Jazz。編成はKey、el-b、drで、全体的にミディアムテンポの楽曲が多く、シックな落ち着いた雰囲気で、FMラジオのBGMにぴったりと言う感じ。全体的にラテン、キューバっぽいサウンドで、曲によってはアフリカっぽいコーラスがエキゾチックな雰囲気を醸している。バンドのサウンドはエレクトリックだがヴァイオリンの音はエフェクトを使用しない生の質感。ピチカートや重音の多用などもありクラシックベースの技術の確かさを感じさせる。音色のきれいさの一方、グルーブという点ではまだまだだが、こういった音楽性ではそれも気にならない。楽曲は3曲を除いて、彼女の作品(Baileyとの共作曲を含む)でそのコンポーサーとしての才能も高い。Baileyのブリブリいうエレクトリックベースもここちよく、イージーリスニングジャズとしてのクオリティは高い。

Regina Carter/SOMETHING FOR GRACE(1997年)

母親Graceに捧げたこの2作目は、前作同様のSmooth Jazz路線。前作を踏襲しながらもバックにより多彩なミュージシャンの参加もあってより音楽の幅が広がっているように感じられる。全体的な印象はやはりシックで渋め都会的で大人のムードがただようが、そんな中で彼女はあまり派手さはないが的確で小気味のよい演奏を聴かせる。モダンな1曲目や奔放なソロが心地よい2曲目、クラシカルなピアノとのDuo4曲目、ラテンな5、10曲目、暖かいメロディが染みる8曲目、打ち込みリズムと切ないメロディが対照的な9曲目などが印象的。前作同様ヴァイオリンは生音で美しい音色を聴かせる。標題曲のようなラテン系の曲では、ヴァイオリンのアタックの弱さ、リズム感の甘さがやはり気になるが、メロディアスな楽曲を味わう分には問題ないだろう。BGM風Smooth Jazzを楽しむには魅力的な好盤。

Regina Carter/Rhythms of the Heart(1999年)

新鋭バイオリンニストの3作目。前作までは都会的なムーディなSmooth Jazzという雰囲気だったが、レコード会社を移籍しての今作は一転、アコースティック編成によるストレートなジャズアルバムとなった。楽曲は1曲目のガーシュインのナンバーからハードバップ、ボサノバ、レゲーなどなどリズム的に幅広い選曲、またゲストにCassandra Wilson、Lewis Nash、Kenny Barron、Richard Bonaなど豪華かつ多彩なメンバーを迎えていて、レコード会社や彼女自身の気合の入り具合が伺える。ヴァイオリンはすべて生音で、流麗によどみなく繰り出されるフレーズは、いかにもジャズっぽいものでなかなかに魅力的。ただ、リズム的にはやはりアタックが弱く、また4ビート系の曲に顕著だが、アフタービートでの腰の弱さが気になる。グルーブにのって自然にソロが湧き出ているというよりは、バックにあわせてフレーズを演奏しているという感じで、ジャズとしてのグルーブに欠ける印象がある。全体の選曲のバランスやバック陣の好演もありアルバム全体の完成度が高い分、そのあたりが残念。

Regina Carter/MOTOR CITY MOMENTS(2000年)

レジーナの4作目は、彼女の尊敬するジャズミュージシャンを多数輩出したデトロイトをテーマにした作品集。とはいうものの内容は極めて多彩。Thad Jonesのスイングナンバーに始まりMilt Jackson、Barry Harris、Lucky Tompsonといったジャズ大物の作曲ナンバーを取り上げる一方、Marvin Gays、Stevie WonderなどSoul、R&B系のミュージシャンのナンバーも取り上げている。当然、ジャンルもSwingからモダンジャズ、ソウル、ラテン、ブルースと幅広く面白い。ちなみにゲストもLewis Nash、Barry Harrisら多数参加。ヴァイオリンの音色は前作までのヴァイオリンプレイ同様クラシックをベースにした優美な路線が中心だが、曲によっては、バックの強い横ノリに合わせるように引きつったようないわゆるフィドルタッチのプレイも試みている。ただ前作同様、グルーブ、リズム面に若干の甘さがあるのは相変わらず。もう少し音色にこだわらずにアタックを利かしたら、より切れのあるいい演奏になるような気がするのだが。

Kenny Barron&Regina Carter/FREEFALL(2001年)

以前よりお互いのアルバムに客演していたピアニストとヴァイオリンニストが組んでのDuoアルバム。この前後のアルバムではジャズとしてのスイング感に弱点のあったReginaだが、ピアノとのDuoということで、リズム隊がいない分自分でノリを積極的に出して行かなくてはならないということもあり、前作に比べるとリズムを強調した感じの演奏になっている。しかし同様の編成である「Stephane Grappelli/McCoy Tyner」「Didier Lockwood/Martial Solal」といった組み合わせに比較するとやはりヴァイオリンのスイング感が弱く、グルーブでリスナーを一気に作品に引き込むような魅力はない。その分、クラシカルな質感を味わいとしとリズムアレンジの多様さで変化をつけている。例えば「朝日のようにさわやかに」はミディアムテンポのラテンタッチ、現代音楽のようなフリーインプロ、じわじわと盛り上がる「Footprints」。ということでリズムの切れがないこともあって、クラシカルで静謐な雰囲気が強いが、2人とも即興の語彙は豊富なので、じっくり聞き込むと味が出るような作品となっている。

Regina Carter/paganini:after a dream(2003年)

Regina久々の新作は、Paganiniが使っていたというヴァイオリンの名器を使っての録音。そのため今回はラベルの「亡き女王のためのパヴァーヌ」フォーレの「パヴァーヌ」、ドビッシーの「夢想」などフランス近代音楽を中心にしたクラシックに、ピアソラの「忘却」、「黒いオルフェ」「ニューシネマパラダイス」という映画音楽系のスタンダードを選曲、曲によってはストリングスもバックに参加し、どの曲もスローテンポで上品に演奏されている。もちろん曲間には アドリブもはさんでいるが全体的にはやはりクラシカルな雰囲気が強い。フォレーの「パヴァーヌ」やドビッシーの「夢想」のジャズアレンジは彼女の美しい音色とほどよくスイングする感じがちょうどよくあっていていい感じだが、トータルの印象としてはやはり落ち着いて聴くイージーリスニングアルバムという感じだ。 選曲は名曲ぞろいだし、ジャズを期待せず最高級のBGMに酔いましょう。ヴァイオリンの音色については、私のような素人耳には 残念ながらあまり差を感じることができませんでした。

Regina Carter/I'll Be Seeing You: A Sentimental Journey(2006年)

通算6作目となる本作は、母Graceが好きだったという1920年代〜40年代のジャズチューンやジャズボーカルナンバーを取り上げた作品集。というわけで楽曲自体は古いものが多いが、オープニングの「Anitra's Dances」こそ1939年当時の音源のアレンジを再現している以外はそういったギミックはなく、また2曲目でバロック的な要素を組み入れた面白いアレンジがされているなど前半は変った雰囲気もあるが、中盤以後は硬質なジャズとして正当派の演奏がされている。ジャズボーカルには大物Dee Dee Bridgewaterや盟友Carla Cookが5曲に参加、両者ともソウルフルで骨太なボーカルでアルバムを大いに盛り上げている。またキューバ出身の大物クラリネット奏者Paquito D'RIVERAも5曲でゲスト参加しヴァイオリンと飄々と絡み非常にいい味を出している。そういったゲスト陣の好演も素晴らしいのだが、一番素晴らしいのがReginaのヴァイオリン。前作までの線の細いクラシック風の演奏が嘘のように、芯のある音色でためを効かしてスイングするその演奏は素晴らしく、バックのビートの効いた演奏と絶妙にマッチしている。彼女のアルバムでジャズのスイング感を堪能するならこのアルバムが一番。素晴らしい。


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