アルバムガイド ジャズヴァイオリニスト−Noel Pointer篇

元々クラシックの教育を受けてオーケストラなどにも参加していたNoel Pointerは、Dave Grusinに見出され77年に「Phantazia」でソロデビュー。 折からのFusionブームにのって人気を博し6枚のアルバムを発表。その後セッション活動をしていたようだが93年に久々のアルバム「 NEVER LOSE YOUR HEART」を発表、再度活躍が期待されたが39歳の若さで病没しました。
彼のヴァイオリンはクラシック出身ならではのストリングス的なかっちりとした音色とプレイが特徴的、特に初期作ではその傾向が強いですが、 後期になるにつれエレクトリックを活用してよりおおらかなノリの伸びやかなソロを聞かせてくれるようになりました。また初期2作では Dave GrusinプロデュースということでかっちりとまとまったFusionでしたが、3作目以後は、本人の嗜好や当時のレコード会社の意向も あってかよりコンテンポラリーなディスコ〜ソウル系の作風となり、それにあわせてヴァイオリンよりも自らのボーカルを全面に 出すようになりました。ただ10年強のブランクを置いて発表されたラスト作ではエレクトリックヴァイオリンによるインストを全面に 出した作風に回帰しています。というわけで、時期によって傾向が違いますので好みによってお好きなアルバムから聞いてみてください。 「Feel it」「Calling」などは未CD化のようですが、LPは中古盤屋で比較的容易に入手できます。


Noel Pointer/PHANTAZIA(1977年)

アメリカの黒人フュージョンヴァイオリニストの1st。JAZZオーケストラで演奏していた彼は、Fusion界の名プロデューサーDave Grusinに見いだされ、22歳という若さでSteve Gadd 、Earl Kloughら名のあるミュージシャンにサポートされた今作を発表した。楽曲はGrusinとEarl Kloughによるオリジナル曲を中心にStevie Wonderのナンバーなどで、彼自身はここではプレイヤーに徹している。全編切れのいい16ビートの軽快なノリが心地よく、アルバムとしても上手くまとまっている。曲の感じはアーバンでほどよくメロディアスな、ムーディでシックな感じの売れ線Fusion。ヴァイオリンもきちっとビートにあわせてしっかりとアドリブしていて当時全盛だったFusion系の他諸作品と比較しても遜色のない完成度でFusionファンの評価は高い。ただ、全体の乾いた質感のサウンドにあわせるためにアコースティック、エレクトリックともヴァイオリンの音色に柔らか味がなく、かといってフィドル的な味わいも感じられず、楽曲には合っているとは思うのだが、ウェットな質感に欠ける印象。おそらくプロデュース側の意向ではそういう音色になったのではないかと思うが、バイオリンで優美な音色を期待すると微妙にはずれるかも。その点が評価の分かれ目か。

Noel Pointer/Hold On(1978年)

FusionヴァイオリニストN.Pointerの2作目。前作同様、Dave GrusinとLarry Rosenのプロデュースということで、前作と基本的な質感はほぼ同じ。Eric Gale、Anthony Jackson、Seve GaddといったFusion系つわもの揃いも前作同様。ただ今作では本人の自作曲が2曲、またボーカルを3曲で披露、うち1曲はジャズボーカリストPatti AustinとのDuet。またQuincy Jonesによる、テレビ番組「ルーツ」のサントラ曲もとりあげたり、ラスト曲ではクラッシックの曲をFusionアレンジで演奏したりと彼自身の趣味性が加味されバラエティに富んだアルバムとなった。前作同様軽やかな16ビートが心地よいが、前作に比べて明るめな印象。ヴァイオリンの質感については前作同様の優美ながら細く乾いたトーン。よく言えばストリングス的とでも言うのだろうか。こういうタッチのヴァイオリンはヴァイオリニスト当人が意図して出そうとするというよりも他のジャンルの人間がヴァイオリンにイメージを持ち求めるタイプのように感じる。また個人的にはクラシックのアレンジものなどは正直なところ深みに欠けるという印象。そのあたりが気にならなければ良質なアルバムといえるだろう。

Noel Pointer/Feel It(1979年)

Fusionヴァイオリニストの3枚目。前2作はDave Grusinのプロデュースということで彼のカラーが強かったわけだが、ついに彼の元を離れた初セルフプロデュース作品となったのがこのアルバム。前作までの優等生的な16ビートfusionサウンドから離れ、ストリングスを全面的に導入しゴージャスでダンサブルなディスコサウンドを展開している。割と長尺の曲5曲を収録、長尺といっても展開があるというより、女性コーラスにのってグルービーな16ビートが繰り返されるもの。ヴァイオリンも5弦エレクトリックに特化し、いかにもエレクトリックというリバーブ、コーラスの聴いた太みのある音色で、ヴァイオリンのサウンドとしてはより華やになった印象がある。また1曲ではピアノを弾きながらリードボーカルも取るという多才なところを見せている。全体的によりコマーシャルになったという印象で、開放的でメロディアスなサウンドが心地よい。人によってはそれが好き嫌いにもつながるところでもあるが、聴きやすさという点は素直に評価したい。

Noel Pointer/Calling(1980年)

通算4作目となる今作は、ほぼ全ての曲がボーカルナンバー。2作目の「Hold On」から既にボーカルも数曲でとっていたが、このアルバムではボーカリストとしてのNoel Pointerを全面に打ち出したコンテンポラリーなボーカルアルバムとなった。ほぼ全曲彼自身の手によるものだが、ノリノリでシャウトするというより、ファルセットを聞かせてろうろうと歌い上げるおおらかでBeautifulな曲が多い。アレンジ面では全編ストリングスやホーン、女性コーラスがゴージャズで華やかにバックを盛り上げる。曲間に幕間的なストリングスによるインストを挟んでシームレスにボーカルナンバーにつなげたりなどアルバム全体の構成もよく、聴きやすいアルバムになっている。ボーカル中心ということでヴァイオリンの方は控えめ。ところどころエレクトリックヴァイオリンでソロを取る場面もあるが、そんなに多くないので彼のヴァイオリンを聴きたいのであれば他のアルバムから聴いたほうがよい。

Noel Pointer/Direct Hit(1982年)

デビューからほぼ毎年のようにアルバムを発表していたNoel Pointerの6枚目のアルバム。Callingから続く、アレンジャーRichard Evansとの共同プロデュースで全体にファンキーでソウルフルなボーカル作。Noel Pointerは今作でもボーカルを中心にヴァイオリン、キーボードとマルチぶりを聞かせている。今までの作品同様多くのスタジオミュージシャンを使って録音されているが、全体的に今までの作品に比べるとコンパクトにまとまった印象。ただ楽曲はコンパクトながら多彩で完成度の高いコマーシャルなファンクフュージョンボーカルアルバム。ヴァイオリンもアレンジの中に溶け込んだ形ながら気持ちよい旋律を奏でている。特にラスト曲ではエレクトリックヴァイオリンによるファンキーでグルービーなソロがかっこいい。ただ全体的にはやはりヴァイオリンの出番は少なめなでラスト曲のようなプレイをもっと聞かせて欲しかった。このアルバム後、彼はセッションワークに移り次作まで10年近くの間があくようになる。

Noel Pointer/NEVER LOSE YOUR HEART(1993年)

アメリカのフュージョンヴァイオリニストである彼が94年に39歳の若さで亡くなる前年に発表したラストアルバム。編成は曲によって異なるが、G、key、dr、bに女性コーラスなども参加。リズム隊は打ち込みの曲が多いが数曲は生でそこではOmar Hakimが参加していたりする。前作から12年置いてのアルバムとなったわけだが、音楽的なミディアムテンポでメロディアスな楽曲が多く、打ち込みもあり都会的でシックな雰囲気のただよう良質のアーバンなフュージョンアルバムに仕上がっている。楽曲8曲中4曲が彼の自作曲。2曲ではボーカルも披露AOR調の楽曲を気持ちよさそうに歌い上げる。ヴァイオリンの音色は全てエレクトリックで、いかにもエレクトリックというトーンでリバーブのきいた柔らかいもの。80年代ではストリングス的な部分が強かったのに対し、今作ではPontyなどに近い太みのある音でヴァイオリンのメロディ中心のミックスがされておりその音色で情熱的なソロを弾きあげる。ヴァイオリンでコンテンポラリーなフュージョンアルバムとしては良質。ヴァイオリンが聴きたければこのアルバムがお薦めです。



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