アルバムガイド 日本のヴァイオリンニスト−喜多直毅篇

イギリスで即興演奏、アルゼンチンでPiazzolla五重奏団のヴァイオリンニストFernando Suarez Pazにタンゴヴァイオリンを学んだ喜多氏、 帰国後は自身のタンゴバンドや小松亮太氏のサポートで活躍する一方、黒田京子、鬼怒無月氏などジャズ・ロック系のミュージシャンとも 競演。現在、鬼怒氏との「Salla Gaveau」などタンゴというジャンルを超えて様々なジャンルで活躍しています。

Salle Gaveau/ALLOY(2007年)

Bondage FruitsやEra、Ubiquitosなど多数のバンド活躍するギターリスト鬼怒無月をリーダーに、ヴァイオリン喜多直毅、 アコーディオン佐藤芳明、ピアノ林正樹、コントラバス鳥越啓介という若手実力派ミュージシャンが集結したバンドのデビュー作。 小松亮太のバンドに参加しタンゴにも正面から取り組んでいた鬼怒氏がピアソラミュージックの要素とジャズやロックの要素を フュージョンした独自の音楽を展開している。1曲目タイトルチューン「ALLOY」に代表されるように、全体としてはピアソラの 激情的でパーカッシブでドラマチックな要素がそのまま導入された楽曲は非常にかっこよく、ピアソラが好きな人なら満足できる内容。 ただ、下手をすると「ピアソラの亜流」で終わってしまうわけで、エレクトリックギターが全面に出るなど編成の違いによるサウンドの 違い以外に、どれだけ音楽的に+αがあるかというところがポイント。そういう点では後半のピアソラがポリリズムしたような美しい ナンバー「Tempered Elan」のような曲がもっとあった方がという気がする。今のままでも十分にかっこいいし、メンバーの実力も 申し分ないのではあるが、そのあたり贅沢な期待をしてみたくなります。

喜多直毅/VIOHAZARD(2006年)

タンゴヴァイオリンニストとして活躍しつつ、近年ではそれにとどまらない幅広いジャンルでセッション活動を繰り広げる喜多直毅氏の、タンゴバンドではなくソロとしての初のアルバム。ゲストにギターの鬼怒無月、宮野弘紀、伊藤芳輝、ピアノに黒田京子などなどその筋のつわものを曲ごとに迎えたアコースティック編成、まず1曲目からギター、アコーディオン、パーカッションという編成で繰り広げられるアップテンポのスパニッシュナンバーがめちゃくちゃかっこよく圧倒される。続いてメロディアスから激しい展開を示す2曲目もかっこいい。中盤のタンゴ、クレツマー系の楽曲が、アレンジに意欲を感じるものの、タンゴやクレツマーというもとの素材の色が強すぎて、焼き直しという印象がするのが少々残念。全体として作った楽曲をとりあえず並べましたという感じがしてトータル感に欠ける気が。構成的にもう一つ二つインパクトを残す楽曲があればというところ。ただ演奏力はすばらしく個人的には1曲目のキャッチーさだけで十分元が取れたので満足です。

喜多直毅&the Tango Phobics/Tangophobia(2002年)

ピアソラ5重奏団のヴァイオリンニストFernando Suarez Pazに師事したという喜多直毅氏の タンゴアルバム。ヴァイオリン、ピアノ、ベース、チェロ、ギターという編成だが、 情熱的で熱いその音楽はタンゴのメイン楽器バンドネオン抜きとは思えない見事なもので、 重厚感とタンゴならではの粘り気を持った演奏が繰り広げられている。またタンゴというと ピアソラというのが定番だが、ここではピアソラの楽曲は取り上げられていない。しかし アレンジの良さもありどの曲も激しい展開と叙情を感じさせる素敵なものとなっている。 ヴァイオリンがリーダーだけに当然ヴァイオリンのフューチャー度も抜群。 本場仕込みの正等派タンゴヴァイオリンが聴ける素晴らしいアルバムなので、ジャケットを見て ちょっとなあ、と思った人も是非ご一聴を。

喜多直毅/HYPER TANGO(2002年)

国立音大卒業後、アルゼンチンでタンゴの修行、現在はタンゴバンドを率いてで活躍するとともに、 東京ライブシーンでジャンルを超えた活動を行う俊英の1stソロアルバム。このアルバムではピアノや ギターとのDuoなど少人数編成でピアソラのタンゴなどを中心に演奏。少人数編成であるだけに ヴァイオリンの音の力強さ、切れ味が一層光っていて、素晴らしいできばえになっている。 特にピアソラのLiber Tangoは多くの人が取り上げているが、シンプルな編成ながら静から動への展開、アドリブのうまさなどもあり 高レベルのでき。またタンゴ以外に、競演するギターの鬼怒無月のロック的なエッジのたったナンバーやライブでの即興によるナンバーも収録。続けて聴いても違和感がなく、一つの統一した雰囲気を作っている。

喜多直毅/Hyper Tango2(2004年)

喜多氏がタンゴという素材を独自に解釈する「Hyper Tango」シリーズの第2弾。選曲は「Adios Nonino」「Tango Etude」などの Piazzollaナンバーと古典曲が半々くらい。前作同様アコースティック編成だが、前作が鬼怒無月、黒田京子などジャズ、ロック系の ミュージシャンとの競演による即興的な部分が割と目立ったのに対し、今回の録音メンバーは彼が普段タンゴを演奏する際に競演している ミュージシャンが中心で、彼自身のアレンジによる現代解釈のアコースティックタンゴのアルバムという印象。 こういう言い方が正しいのかわからないが学究的な印象が強く、クラシックテイストの真面目なモダンタンゴアルバムという感じがする。 割と静謐な雰囲気が強いので前作に諸所見られた即興や激しいインタープレイは若干控えめか。ただヴァイオリンソロ 「Tango Etude」などクラシック系のトーンではあるがその激しい演奏は素直にかっこいい。 全体的にロック、ジャズ系の趣味の人より、所謂タンゴファンやバロックなど室内楽系ミュージックのファンの方向きではあるが、 レベルは非常に高いのでこだわりのない方は是非一聴を。

topに戻る

アルバムガイドへ