アルバムガイド タンゴヴァイオリン篇

ピアソラブームで一挙に盛り上がったタンゴ。有名なヴァイオリンニストはやはりPiazzollaバンドにいたAntnio AgriとFernando Sustrz Paz。それ以外にも 多数のヴァイオリンニストがいるようですが、まだまだ勉強中。とりあえずピアソラ周辺と日本のタンゴを紹介します。 (喜多直毅氏のアルバムについては別ページを作りました。)

Astor Piazzolla/Tango Zero Hour(1986年)

ここ何年か続くタンゴブームの立て役者ピアソラの代表作。ピアソラのタンゴは、既成のタンゴにクラッシックの要素に基づくヨーロッパ的叙情性を加味し、極度の悲劇性、センチメンタリズムを歌い上げており、そのことが日本でのブームを生む要因となった。そんなタンゴの中でのバイオリンは、バンドネオンというメイン楽器の横にあってある時は主旋律、そしてある時は装飾部と、様々な役割を担う。具体的には、オクターブに及ぶポルタメントによる効果音的役割、そして駒の手前側をきしらせたり、弦をはじく、胴を叩く、といったテクニックによるパーカッションとしての役割である。このアルバムでは、Pazという名手による様々な技巧を聴くことができる。特に3曲目ラストや4曲目での手腕は見事である。

Astor Piazzolla/LIVE IN WIEN(1983年)

アルゼンチンタンゴの革命者の五重奏団時代83年のライブ。放送音源をライブ盤化したものだが、ほぼこの時代におけるベスト選曲、ベストパフォーマンスだろう。ピアソラのバンドネオンにピアノ、ベース、ギター、そしてヴァイオリンという編成で聞かせるその素晴らしい熱い演奏は、クラシック奏者によるカバーとは一味もふた味も違う、オリジナルならではのものだ。ヴァイオリンも陰に表にの活躍で、2曲目「ブエノスアイレスの夏」5曲目「リベルタンゴ」7曲目「ブエノスアイレスの冬」などでは、叙情的なメロディを一手に担っているほか、1曲目などではパーカッシブなプレイを聞かせている。音色だけで言えばクラシックの演奏者の方がうまいはずなのだが、やはり本物は聴かせます。

小松亮太/来たるべき物(2000年)

タンゴ界のプリンスとして名を馳せる小松亮太。デビューアルバムではピアゾラの楽曲のみを取り上げていた彼だが、オリジナルアルバムとしては2枚目(自主制作・サントラ・ミニアルバムも含めると5枚目)のこのアルバムでは新旧様々なタンゴの楽曲を取り上げており、より多彩な世界を繰り広げている。メンバーもレギュラーバンドのタンギスツのメンバー以外にも多数参加し、曲によっては9人の大編成からシンプルなカルテットまで幅広いフォーマットで演奏している。ヴァイオリンでは近藤久美子と会田桃子が参加。ともに手堅い演奏を聞かせる。ラスト曲は、バンドメンバー熊田洋によるオリジナルで車のCMにも使われたものだが、ピアソラ的な暗い情熱を感じさせる名曲に仕上がっている。

斉藤徹Tango Groove Collective/AUSENCIAS(1998年)

独自の活動を続けるアコースティックベーシスト斉藤徹が、小松亮太や近藤久美子らと作ったピアソラカバー集。ただ、その選曲はピアソラの楽曲の中でも一般的な知名度の低いものばかりで、斉藤の重厚なベースによってどの曲もオリジナルとは異なる暗く重い凄みのある演奏となっている。時に、フリーに走るピアノやベースの演奏もタンゴという枠に留まらない音楽性の広さを見せてくれる。メンバーはバンドネオン、ピアノ、ヴァイオリン、ベース。大曲「Luna」などはオリジナルはヴァイオリンのいない六重奏団のものなので、ヴァイオリン入りの美しい演奏は個人的にはオリジナル以上の魅力を感じる。ラストはライブ録音で、ライブならではのジャズかと見まがう熱さが素晴らしい。数あるピアソラカバー集の中でも断トツの出来だと思う。

EL TANGO VIVO/EL ARRANQUE(2001年)

ピアノの熊田洋、ベースの東谷健司、ヴァイオリンの近藤久美子という小松亮太バンドのメンバー3人によるトリオのライブ録音。お寺でのライブを録音した自主制作版ということで、音質はこもり気味で、特に低音の分離が悪い感じがするが、演奏自身は素晴らしい。ピアソラではなく、もっと古いスタンダードなタンゴを取り上げているのだが、編成もあって素朴な印象を感じさせながら、しかし重厚なリズム、情熱的なメロディが聴ける良質なアルバム。取り上げられている楽曲は、繊細さではピアソラに一歩ゆずるが、どれも素敵なメロディを持っている。メイン楽器のピアノは重厚なリズムやバッキング、ソロと大活躍し驚かされるが、その一方で近藤久美子のバイオリンの表現力の素晴らさも再確認できる。

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