アルバムガイド ジャズヴァイオリニスト−Finn Ziegler篇

デンマークのジャズヴァイオリン奏者でありヴィブラフォン奏者であるFinn Ziegler。本人のサイトによると子供のときにSvend Asmussenのレコードを聴いて以来 ジャズに興味を持ち、音大でクラシックヴァイオリンの修練をする一方、最初はベースでジャズバンドに参加、その後スウェーデンやフィンランドなどを回りながら演奏活動を続け、デンマーク帰国後は、 コペンハーゲンのカフェ「La Fontaine」を中心に活躍。2005年12月に亡くなるまで現役で演奏活動を続けました。
正直なところ、本人のWEBサイトぐらいしか情報のない方ですが(それも読めない・・・)Charlie Parkerを愛聴したというそのビートの利いた演奏スタイルは素晴らしいので 是非一聴をお勧めします。まずは現在日本でも入手しやすい「Beautiful Friendship」。気に入ったら頑張って「Live a La Fontaine」を探してみましょう。

今回は、「Finn Ziegler2」「Finn Ziegler's Hjorne/Live」「Buddy Tate Quartet &Quintet/Tate A Tate」の3枚を追加しました。(2009/6/22)
今回は「Finn Ziegler/Anderson,Nielsen og den ukendt」「Jazzen ifolge ... Erik Rasmussen」の2枚を追加しました(2018/4/28)

Finn Ziegler/Live a La Fontaine (1977年)

葉巻をくわえにかっと笑うジャケットが男前な、デンマークのジャズヴァイオリニストの1stリーダー作であるライブ盤。彼はヴィヴラフォンの名手でもあり、 このアルバムではほとんどの曲で、最初のテーマからソロまでをヴィヴラフォン、ベースソロの間に持ち替えてヴァイオリンソロへと 両方の楽器を駆使して大活躍している。他のメンバーは、g、b,drでベースはGrappelliやLockwood、S Smith、Asmussenなどとの 競演でもおなじみのNiels Henning Orsted Pedersen、選曲は「But Not For Me」などのスタンダード曲中心、ヴァイオリンソロは チープな感じの軽いエフェクトを効かした上で、Elek Bascik系の粒立ちの良い音でバップテイストのフレーズを繰り出すタイプ。自身のサイトにもCharlie Parkerに大きな影響を受けたと書いているそのとおりの音だ。楽器のせいもあり全体的に熱気よりも軽やかさの方が印象に強いが、名盤と言っていい素晴らしい出来。日本ではほとんど知名度のないヴァイオリニストだが是非探して聞いてもらいたい。

Finn Ziegler/Finn Ziegler 2 (1982年)

デンマークのジャズヴァイオリニストFinn Zieglerの2作目のリーダー作にして初のスタジオ録音。ピアノ、ギター、ベース、ドラムに、彼のヴァイオリン兼ヴィヴラフォンという編成。前作同様、ヴィヴラフォンとヴァイオリンを1曲の中で持ち替えながらの達者な演奏。彼ならではのトロピカルなボサノバ・ラテンナンバーなども交えながらのスインギーで軽快な演奏は相変わらず心地よい。ラストの「Old Country」のムーディな雰囲気もよい。ただスタジオ作ということで、ライブ作の前作に比べてよくも悪くもこじんまりとまとまった印象。相変わらずアグレッシブなヴァイオリンプレイがかっこよく十分なノリのよさを持っているのにもかかわらず、全体に楽器の音色のためもあってなんとなくイージーリスニングな印象に落ち着いてしまっているのが残念。この人の作品ならやはりライブ作から聴くことをお薦めします。

Finn Ziegler/Musikken har ordet Finn Ziegler spiller Age Stentoft(1983年)

ヴァイオリン兼ヴィヴラフォン奏者のFinn Zieglerの3作目のリーダー作で、ポピュラー音楽の作曲家としてデンマークでは名高いAge Stentoftの30年代から50年代の曲を取り上げたスタジオ録音盤。編成はp、g、dr、bでベースにNHOPほかデンマークのミュージシャン。Age Stentofの楽曲は素直に聞きやすくスタンダード曲のような印象。アレンジもボサノバタッチやバラード曲などが多く、演奏自体も全体的にリラックスしたBGMのような印象。ヴィヴラフォンの音色やエレピ主体のキーボードもやわらかい雰囲気を強くするのだろうが、よく聴くと結構細かい小技を効かせていたりする。Finn Zieglerは曲によってヴィヴラフォンとヴァイオリンを使い分けているが全体的にはヴィヴラフォンの比重の方が若干高いか。ヴァイオリンは曲想にあわせたやわらかいスイングっぽい演奏主体でエッジのたった演奏は残念ながらほとんど聴けない。ということで彼の本来の持ち味であるアグレッシブなヴァイオリンを聴くという点ではあまりお勧めできません。



Finn Ziegler/Anderson,Nielsen og den ukendt(1989年)

本作は1900年生まれのデンマークのピアニストでありコンポ―サーであるKai Normann Andersonの曲を演奏した作品集。楽曲自体は明るくわかりやすいメロディが大半を占め、 それをギター、エレピ、ベース、ドラムといった編成をバックにZieglerがいつものようにヴィヴラホンとヴァイオリンを駆使して歌い上げる。もちろん穏やかなメロディでは 朗々としながらもソロになると彼らしいエッジを効かせた、小気味のよいヴァイオリンソロを繰り出してくるので、彼のヴァイオリンの持ち味が好きな人も安心して聴ける内容に なっている。バックのメンバーはすべてデンマークのミュージシャンで、有名なアーティストが参加しているわけでもなく、内容的にもBGMっぽいところも若干あったりもするが、 曲によってはきっちりハードバップしておりヴァイオリンのフューチャー度も高いので彼のことが好きな人ならぜひ。

Finn Ziegler's Hjorne/Live(1989年)

Finn Zieglerのデンマークのミュージシャンを集めてのリーダーバンド「Hjorne」名義でのライブ盤。Hjorneのメンバーは、Svend Asmussen Quartetにも参加している俊英ギターリスト Jacob Fischerにデンマークを代表する名リズム隊Jesper Lundgaard(b)、Alex Riel(dr)という編成。Zieglerはこのアルバムではヴァイオリンのみをプレイ。 「It's A Only Paper Moon」や「There Will Never Be Another You」「I Got Rhythm」など、ジャズヴァイオリンでよく取り上げられるスタンダードを中心とした選曲。 彼ならではの粒のたったノリのよい演奏はいつもどおり。「Paper Moon」などもミディアムテンポながらアタックのびしびし効いた鋭い演奏がここちよい。「Oleo」も取り上げられて いるがこちらはブルーススケールによる簡略版なのが残念、ただ同コード進行の「I Got Rhythm」の方は炸裂感満点。そんな感じで結構激しい面もありながら全体的に子気味のよい 落ち着いた感じの演奏という印象があり、それはFischerのやわらかいギターバッキングによるものか。ラスト曲「Nocturne」の美しい演奏も印象的。最近再発されたので入手しやすいしお薦めです。

Finn Ziegler/Fiddlin In Rhythm (1999年)

デンマークのジャズヴァイオリニストのFinn Zieglerがフランスで同国のミュージシャンと録音したアルバム。メンバーはアコーディオンでMarcel Azzola、ヴィヴラフォンでDany Doriz、ピアノにGeorges Arvanitasとそれぞれフランスを代表する名手たちにリズム隊。スタンダード中心の選曲でスイングよりのリラックスした雰囲気だが、名手ぞろいということで安心して聴けるアルバムになっている。Zieglerはヴィヴラフォンも弾ける人だが、このアルバムでは専任者がいるためヴァイオリンに専念。アコーディオンの参加もあり彼のほかのアルバムに比べてもヨーロピアンな小洒落たスイング感が強い。アコーディオン、ヴィブラフォン、ヴァイオリンがユニゾンでテーマを奏で、入れ替わり立ち代りソロを取る「Just One of Things」などはこの編成の真骨頂だろう。もちろんZieglerのヴァイオリンはアコースティックながらいつものしっかりした音使いでノリのいいソロを取っている。

Finn Ziegler/Beautiful Friendship(2003年)

2005年になくなったデンマークのジャズヴァイオリニストの最晩年作。ピアノにKenny Barron、ベースにNiels Henning Orsted Pedersenとジャズヴァイオリンにはおなじみの2人+ドラムにAlvin Queenとこれまた名手を迎えてのライブ。彼はヴィブラフォンの名手でもあるが、このアルバムではヴァイオリンのみ、「It Could Happen To You」「My Romance」「Mack The Knife」などのスタンダードを演奏。ヴァイオリンはアコースティックだが、きっちりとアタックのある音で しっかりとビートを利かした上でちゃんと細かいフレーズまで弾きこなす彼ならではの見事なもの。一方バラードナンバーでは情感たっぷりの演奏で聴かせる。 彼の晩年の傑作というだけでなく近年のジャズヴァイオリン作としてもトップクラスの出来だと思う。惜しい人を亡くした。



Jazzen ifolge ... Erik Rasmussen(2013年)

これはErik Rasmussenというデンマークのイラストレーターのジャズ関連のイラスト集に、 Finn Ziegler、Jacob Fisher(g)、Jesper Lundgaard(b)トリオの演奏を収めたCDが付属しているというもの。Erik氏はFinn Zieglerの 紹介でデンマークのジャズ関連のアートを手掛けることになったとのことで、その思い出も含めてこういう形にしたとのこと。 収録されている音源は、Erikも招かれてその場にいたという1999年の個人の家でのプライベイトコンサートの音源5曲と、Erikが一番気に入っているという Willow Weep For Me(これのみ2003年録音)。そういった経緯ではあるが録音状態は極めてよく、シンプルなトリオ編成での演奏だが、 それだけにいつもながらのアグレッシブなヴァイオリンが際立つ心地よい名演になっている。それだけに40分という収録時間の短さは残念だが、 まずはこういう形でこの音源が世に出たことを喜びたい。

Buddy Tate Quartet &Quintet/Tate A Tate(1975年)

Count Basie楽団に在籍した中間派サックス奏者Buddy Tateは75年にデンマークに渡り、コペンハーゲンのカフェ「Fotaine」でデンマークのプレイヤーとライブを行った。このアルバムはその時のライブを収録したアルバム。基本はピアノ、ベース、ドラムとのカルテット編成での演奏だが7曲中2曲でヴァイオリンのFinn Zieglerが参加。彼自身の1st「Live A LA Fotaine」とほぼ同時期、同会場ということでその1stで聞かれるのと同じ質感のいかにも彼らしいエレクトリックのざらっとしたタッチが出た若干粗いトーンでひきつった感じながら粒立ちのよいフレージングでスイングしている。特に「In A Mellow Tone」ではうなるようなバップテイストの心地よいソロが3分以上にわたってフューチャーされている。全曲参加ではないのが残念だが、こうやって彼のソロを味わうことができるだけでもありがたい話だ。



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