アルバムガイド ジャズヴァイオリニスト−Debora Seffer篇

フランスのFREE・アバンギャルド系のサックス奏者でMagma、Zaoにも在籍していたことでプログレファンに知られる Yochk'o Seffer、その娘である彼女は1991年にソロキャリアをスタートさせ現在までに5枚のソロアルバムとThierry Maillardとの連名アルバムを 1枚発表しています。MAGMAやZAOとの人脈があるということで、プログレファンからは評価の高い彼女ですが、純粋にジャズという観点からすると ちょっと微妙なところがあります。「Standard」以外のアルバムに関してはヴァイオリンメインのメロディアスなジャズロックインストを楽しむという 観点で聴くのが正しいところではないでしょうか。(2007年4月13日新設)

「Silky」を追加しました(2009/7/1)



Debora Seffer/Silky(1992年)

サックス奏者Yoshiko Sefferの娘であるジャズヴァイオリニストDebora Sefferのソロデビュー作。ピアノ、ベース、ドラムというアコースティック編成ではあるが、直線的な疾走感はジャズというよりジャズロック。楽曲は東欧的なスケールの独特のオリジナル曲がほとんどを占め、その独特な音楽性はこの1stで既に完成されている。アドリブソロなどはまだ発展途上の印象はあるが、楽曲の出来はよく、デビュー作にしてこの完成度は素晴らしい。ヴァイオリンは生音でクラシックっぽいタッチ。アタックはあまり強くなく、ジャズヴァイオリンとしての鋭さ、切れ味という点ではまだ甘い印象も。オリジナル曲の中、唯一のスタンダード「Round about Midnight」はピアノとのDuo演奏なのだが、こちらのソロもやはり若干つたない。とはいえデビュー作としては十分の出来。ピアノは以後の彼女のアルバムすべてに参加することになるThierry Maillard。

Debora Seffer/Bluesons Rouge(1993年)

2ndソロとなるこのアルバムは、前作同様Key、b、drに彼女のヴァイオリンというカルテット編成によるジャズロックタッチの作品。 1曲目のいきなりチョッパーベース全開でたたみかけるスピードナンバーがかっこよく、その1曲目に代表されるように、今作は エレクトリックベース、キーボードの多用もあってよりロック色が強い。ラストのJeff Beckのカバー以外すべてオリジナルだが、 どの曲もかっちりと編曲されているのが、いわゆるジャズ的なセッション色は薄くヴァイオリンをメロディ楽器においたインストロック フュージョンロックという印象で、ヴァイオリンも決められたパートで編曲されたメロディを取るという感じ。 実はヴァイオリンがメロディ以外でアドリブソロを取る場面は少なく、またそのソロのパターンもそんなに多くはない。 逆にキーボードのThierry Maillardが半数近い曲の提供、そしてピアノやキーボードによる多彩なアドリブソロと実質的な主役級の 活躍をしている。そういう点でヴァイオリンニストのソロアルバムとしては微妙ではあるが、適度にメロディアスで、決めや展開も心地よい 楽曲が多く、スピーディでメロディアスなジャズロック作品という点で充実した好作品と言える。

Debora Seffer/Mantsika(1997年)

3rdとなるこのアルバムは1st同様アコースティック編成での作品。 メンバーは前作からピアノ兼アコーディオンでThierry Maillardが残留。ドラムはZaoなどのJean-My Truong。 曲はすべてオリジナルで全体的に東欧風なエキゾチズムが漂い、いわゆるジプシー風の印象。 タンゴをジャズロックアレンジしたような2曲目、アコーディオンとヴァイオリンがユニゾンする やはりミュゼットをジャズロック風にした3曲目などに顕著で、 アコースティック編成とはいえ所謂4ビートな楽曲はなく、ジャズロック的な曲とスローテンポのクラシック風のシリアスな 曲とに大別される。 前作までとは異なり今回のアドリブソロはほぼ彼女が主役、彼女のソロ自体はまだ生硬な印象が強く、 1曲目のソロなど曲によってはいなたいと感じさせられる瞬間もあるが、 うなりひるがえる独特のヴァイオリンの質感はなかなかの好印象。何にもまして 彼女とThierry Maillardの手による曲がよい。ただ全体のトーンとしては暗すぎる印象が強いので1、2曲やわらかい曲があってもよかったのでは という気も。タイトにまとまっていて聞きやすいという点では前2作の方が上だが、個人的には気に入っている。「ジプシー風エスニックアコースティックジャズロック」という表現で 気になる人はご一聴を。父親のYochk'o SefferとヴァイオリンのDidier Lockwoodが1曲ずつゲスト参加。

Debora Seffer/STANDARDS(1999年)

前作まではオリジナルの楽曲を演奏していた彼女だが4thとなる今作では、ベースRay Drummond、 ピアノKenny Werner、ドラムBilly Hurtと素晴らしい面子をバックに招き Miles Davis「All Blue」やJohn Coltrane「Naima」、Charly Parker「Scrapple From The Apple」や Sony Roillins「Oleo」などタイトル通りバップ〜モダン期のジャズスタンダードを演奏。 ではどれだけこれらの楽曲を彼女が弾きこなしているかということになるのだが、 「All Blue」などのミディアムテンポのモダンな曲では、バックの好サポートもあって雰囲気作りに成功している。 一方「Oleo」や「Scrapple From The Apple」のようなテンポの速いバップナンバーになるとバックのスピーディでかつ スイング感のある演奏についていけておらず正直、分が悪い。特に「OLEO」などもう少しゆっくりやればいいのにと思う。 元々こういったタイプの楽曲はヴァイオリン向きではなく管楽器同様に再現するのは相当のテクニックがいるので、これをもって 彼女の技術がない、という評価にはならないと思うが。ただ「Think of One」のようなスローな曲でもやはりリズムの頭の弱さが感じられ、 そういった点でジャズ好きの友人などは首をひねっていた。ただモーダルなソロの感じなどは悪くない。あとジャケットもうちょっと何とかならなかったのでしょうか。

Debora Seffer/Debora Seffer(2004年)

フランスの女性ジャズヴァイオリン二ストのセルフタイトルでの5作目。レコード会社がプログレッシブロックの再発で有名な MUSEAに変わっていたのでおやっと思ったのだが音を聞いてびっくり、彼女自身のスキャットボーカルを前面にフューチャー、 リズムもファンクっぽいミィディアムテンポに東欧系のスケールに乗った楽曲が並ぶ。曲によってはこのHPでも紹介している ZAOと似た雰囲気もある。言ってみると耽美系エスノジャズロックといったところか。もちろんヴァイオリンはボーカルの合間に 全面的にひきまくっているのでその点は問題なし。参加メンバーはJean-My TruongやFrancois CausseらZao人脈にレギュラー Thierry Maillard。打ち込みについては定評のあるThierry Maillardよるところだろう。またDidier Lockwoodも関与しているようだ。 とにかく前作のジャズスタンダード集とのギャップに驚くがこういうエスニックなジャズロックの方が 今までの彼女の路線に近いという印象。ただもうちょっと楽曲にヴァリエーションが欲しい気もするが。 それにしてもジャケットのヴァイオリン、サイレンとヴァイオリンっぽいと思ったが、 やはりクレジットに「サイレントヴァイオリン」と。ヤマハの営業力恐るべし。

Debora Seffer・Thierry Maillard/HELIOTROPES(2004年)

サックス奏者Yosiko Sefferの娘でジャズヴァイオリンニストのDebora Sefferの 新作は、これまでのアルバムにもレギュラー参加していたピアニストThierry Maillardとの連名作。 彼女のヴァイオリンはジャズとしてのノリの部分ではまだまだLockwood、Urbaniakなどには及ばないが 、メロディアスな楽曲、ジプシー風、東欧風なメロディ感覚が独自の魅力になっていてそのあたりが プログレッシブロックファンに人気がある理由だろう。この作品はそういった彼女のメロディアスな 部分がより顕著になっており、ピアノとのDuoという最小編成でピアノの刻みとともに悲壮な旋律を 奏でていてこれが非常に美しい。途中でアコーディオンと持ち替えてミュゼット風になるところもあり、 メロディ志向のジャズ〜ジャズロックファンにはたまらない仕上がりになっている。ちなみにライブ DVD付だがフランス国内向けのため通常のプレイヤーでは見られないので注意。


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