アルバムガイド ジャズヴァイオリニスト−Csaba Deseo篇

ハンガリー州立交響楽団のメンバーとしてクラシックの世界で活躍する(そちらの演奏で来日したこともあるそうです)一方、 70年代中盤からエレクトリックヴァイオリンを操りMPSからアルバムを出すなどハンガリーのジャズ・フュージョン界でも活躍する Csaba Deseo(正確には最後の「o」の上に「‥」がつきます)。音楽性は所謂スイング、モダンからジャズロック、ファンキータッチの Fusionなど多彩。どれも達者ですが、楽器の音質に関してはあまりこだわりがないのか、バックのシンセなどの音色のチープさや いかにもエレクトリックというヴァイオリンの音色は趣味をわけるかもしれません。またFusion作は若干ポップに過ぎると感じる人も いるかも。とりあえず正統派のJazzが聴きたい人は「Magic Violin」、ジャズロックなら「Four String Tschaba」「Ultraviola」、軽やかなFusionなら「Blue String」かベスト盤「Funky Violin」 からどうぞ。

「Four String Tschaba」を追加しました。(2009/8/4)
「Andor Kovacs・Gyula Kovacs/Guitar-Drums Battle」を追加しました。(2010/5/24)




Csaba Deseo/Four String Tschaba(1975年)

ハンガリーのジャズヴァイオリン/ヴィオラ奏者の1stソロアルバム。クラシックのオーケストラとの兼業という経歴からは意外なことにジャズロック。ドイツのMPSにおいてのレコーディングで、わりときっちりとまとまったアルバムになっている。編成は彼+サックス、トロンボーン、キーボード、ベース、ドラムでメンバーはドイツやイギリスのミュージシャン。全曲オリジナル曲で、ブラスと弦によるユニゾンでテーマを奏でてから各楽器のソロというパターンだが、ブラスの厚みと弦の鋭いソロという対象が素直にかっこいい。次作、次々作がリズム面や音作りにおいてよくも悪くもだんだん軽い音作りになっていったのに対し、この1stでは4ビートを基調とした重厚な音作りがなされている。特に1曲目の「Roof Dancer」などブラスとヴァイオリンの切り返しがスリリングな名曲。彼のアルバムではこれが一番。

Csaba Deseo Jazz Quintet & Friends/Ultraviola(1978年)

ハンガリーのジャズヴァイオリニストの2ndアルバム。メンバーは地元ハンガリーのミュージシャンでギター、エレピ、ベース、ドラムという編成で曲によってサックスなども参加。曲は本人のオリジナル2曲とバンドメンバーの曲2曲にRon Carterのカバーが1曲。前作からブラスが抜けてギターが参加したことで、より直線的でファンキーなジャズロックサウンドに。当時のMichal Urbaniakのソロ作に近く世間的に言うところのレアグルーブ色が強まった印象。軽快なギターのカッティングにのっていかにもエレクトリックという引っ掛かりの少ない飄々とした音で、ヴァイオリン・ヴィオラを弾きまくっている。タイトル通りヴィオラが中心ということで、低音で太めの音色が心地よい。ラスト曲は13分に及ぶ組曲。残念ながらおそらく未CD化だが自作の2曲はベスト盤CD「Funky Violin」に収録。

Csaba Deseo/Blue String(1984年)

ハンガリーのジャズヴァイオリニストCsaba Deseoの3rdアルバム。前作「Ultra Viola」がジャズロック的Fusion作だったのに対し、こちらは完全にさわやかディスコ系Fusion。しかも非常に軽い印象。特に1曲目など安いシンセの音にワウをかけたエレクトリックのコミカルな音で幕を開けて腰砕けになる。また全体にシンセのチープな音や当時最新だったボコーダーの音が安っぽさを印象付けるが、さわやかなイージーリスニング風Fusion作としては良質の作品。なぜか後半では「Sweet Georgia Brown」のようなスイング系スタンダードも取り上げているが、エレクトリックの音色と、妙に機械的な2ビートのギターカッティングのためか他の曲と続けて聴いても違和感を感じさせない。ラストの「Sophisticated Lady」もギターとのDuoながらエレクトリックの音色もあり同様の印象。ヴァイオリンの音色は相変わらずコーラス過多でひっかかりの少ない若干チープな音色。ちなみに殆どの楽曲がベスト盤CD「Funky Violin」に収録され現在も容易に聴くことができる。

Csaba Deseo/Magic Violin(1982−94年録音)

Csaba Deseoの82年から94年にかけての録音を集めたセッション集。この人の作品は基本的にファンキーなフュージョン作が多いが、ここではオーソドックスなジャズを演奏。楽曲は「Bye Bye Blackbird」「All of Me」「Blue Bossa」「All Blues」「Groovin’ High」などのスタンダードナンバーとオリジナルが半々だがオリジナル曲もブルースナンバーなどが中心なので通して聴いても違和感がない。また録音年代、編成もばらばらだがそれも気にならない。スタンダードを演奏しているにもかかわらず、音色はフュージョン作品の時同様のいかにもエレクトリックという飄々とした音色だが、どの曲も心地よくスイングしている。Fusion作が多い人だが、基本的なジャズのテクニックもしっかり持っている人だということがよくわかる。バックのエレピの音がチープすぎたりするあたり音色に関するこだわりのなさが難点だがなかなかの好作品。

Csaba Deseo/Something New,Something Old(1997・70−83年)

前出の「Magic Violin」と同シリーズのセッション集。タイトルどおり前半9曲は97年に録音されたもので、残りの6曲は1970年から83年にかけてのラジオ用音源という構成。「Magic Violin」がスタンダード曲を中心にしていたのに対しこちらはオリジナル中心で、カバー曲も「やさしく殺して」「ピンクパンサーのテーマ」「ベサメムーチョ」などで、全体にポップス、フュージョン系の軽いノリの曲が並ぶ。特に新録音部分はキーボードソロ以外のバックはすべてキーボーディストによる打ち込みということも、その軽さに輪をかけている。後半の数曲はバンド編成ではあるものの同様に軽快な曲が並び、録音年代は異なるものの前半と続けて聴いても違和感はない。ラスト2曲のみそれぞれカントリー調、スイングジャズ風ではあるものの、あくまで「アレンジとして」という感じで軽快なトーンは変わらず。アルバムとしての評価は、悪くはないがあくまでBGM程度に聴く作品という印象。できれば他の作品から聴くことを勧めたい。

Csaba Deseo/Funky Violin(1976−87年)

ハンガリーのジャズ・フュージョンヴァイオリニストのベスト盤。ただし選曲は偏っていて、84年の「Blue String」からの殆どである7曲に78年の「Urtlaviola」から2曲、その他ラジオセッションなどの曲が4曲という構成で、所謂ファンキー系イージーリスニングフュージョン作に焦点をしぼった編集となっている。未収録曲のうち冒頭の「Funky Violin(Radio Version)」はクレジットどおりラジオセッションのもので、アルバムではBlue Stringに収録されているが、それを7年さかのぼるバージョンで、スタジオ版と違い生声での男性コーラスに絡むノリノリのエレクトリックヴァイオリンが楽しい。また87年の「My Painful Heart」ではポーランドのZbigniew Namyslowskiがサックスで参加している。ただ正直、「Ultraviola」「Blue String」を持っていれば購入する必要はない。またベスト盤であるもののあくまでこのアルバムでは彼の音楽性の一面しかわからないという点も注意が必要。



Andor Kovacs・Gyula Kovacs/Guitar-Drums Battle

ハンガリーのジャズドラマーとギターリスト2人の関連作を集めたコンピレーションアルバムである本作だが、実はジャズヴァイオリニストCsaba Deseoのリーダー作を多く収録しており彼を聴く上での重要盤。まず60年代のハンガリージャズ勃興期においてハンガリーのジャズミュージシャンの録音を多く世に出したコンピレーションシリーズ「Hungarian Jazz Anthology」に収録されたCsaba Deseo Ensemble名義の2曲「Behind The Cstari Mountains」「Song For My Father」。おそらく彼にとっても初の公式リーダーレコーディングと思われるこの2曲、後のソロ作ではジャズロック作が多い彼だがここでは2曲ともにもろモダンジャズの演奏で、ヴィオラでのささくれ翻るソロがかっこいい。それから80年代後半に録音された「HOT CLUB BUDAPEST」名義での作品が8曲収録。こちらは所謂ジプシースイング系の演奏、クリアな音質と軽めな演奏はとりあえずジプシースイングをやってみました程度のもので、正直あまり魅力は感じなかった。本作の意義はあくまでLPでは入手の難しい前者2曲を聴くためのCDと考えるべきだろう。


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