アルバムガイド ジャズヴァイオリニスト−Christian Howes篇

1972年アメリカのコロンバス生まれのジャズヴァイオリニストChristian Howes、日本ではあまり知名度のない彼ですが、ハードバップなジャズを演奏するヴァイオリニストとしては若手ではトップクラスではないかと思います。クラシックをベースにした正確なピッチと確かなテクニックをベースにしつつサックスと見まがうようなダイナミズムとグルーブ感を持っています。2000年にDD Jackson のバンドで来日した時に間近で演奏を見ましたが、大柄な体から繰り出されるダイナミックで伸びのある演奏は本当にすばらしかったです。ぜひ多くの人に知ってほしいプレイヤーです。
お薦めはエレクトリックヴァイオリンでのモダンなハードバップサウンドなら「Ten Yard」、アコースティックなら「Jazz For Sale」「Heartfelt」、ジャズロックなら「DD Jackson/Anthem」あたりでしょうか。(2011年5月14日新設)


Christian Howes/Confluence(1997年)

1972年生まれのジャズヴァイオリニストChristian Howesのデビュー作。19歳のときに麻薬売買の罪で刑務所に入った彼はそこでジャズに開眼したといい、本作は、ジャズバンドでのライブ録音に、そんな刑務所内バンドでの演奏、クラシック演奏やカントリー風ポップスのバック演奏などをコラージュした内容になっている。どういう意図でそういう構成になったのかよくわからないし、結果としてアルバムとしては非常に散漫な印象になっているが、個々の楽曲の演奏のクオリティは高い。特にジャズ曲「Bye Bye Blackbird」「Summertime」は見事なハードバップを繰り広げている。エレクトリックヴァイオリンによる粘り気のあるモダンでアグレッシブなソロは本当にすばらしい。それだけにそういった演奏で全編通してほしかった。

Christian Howes/Ten Yard(1998年)

1972年生まれのジャズヴァイオリニストの2枚目のソロ作。前作が、ジャンル混在、スタジオ録音とライブとの混在という番外編的内容だったのに対し、本作は全編スタジオ録音でピアノ・ギター・ベース・ドラムという固定バンドによるハードバップを展開。粘っこくも切れのある演奏が全編で繰り広げられる秀作となった。楽曲はほとんどHowesの作曲、もしくはメンバーとの共作曲。タンゴをちゃかしたようなコミカルなナンバーであったり、トリッキーなナンバーをはさみつつもメインとしてはハードバップ的なかっこいい曲が並び、曲作りのセンスも感じさせる。ヴァイオリンはエレクトリックでUrbaniakに通じる粘り気のある音色でかつ、Urbaniak以上の演奏テクニック、アグレッシブで変化に富んだフレージングは本当にすばらしい。彼の作品を聴くならまずは本作がお薦め。

Christian Howes/Plays Yamaha Silent Electric Violin

DD Jacksonバンドでの来日時に会場でCDRとして発売されていたのが本作。おそらく正式なプレス作品としてはリリースされていない本作(現在彼のサイトでダウンロードのみで販売されている)、当時、モニター契約していたYamahaのSilent Violinのプロモートを目的としたものと思われるが、内容は「TenYard」参加メンバーによるライブを収録した好作品。オープニングはアップテンポな「On The Green Dolphine Street」で、早速エレクトリックの粘り気のある音色全快でバピッシュな演奏を炸裂させる。その後数曲はMonkっぽいモダンでひねくれたナンバーでねじくれたソロを聞かせるが、後半はHoneysuckle Rose」「Skylark」などスイングよりのナンバーでリリカルで繊細な演奏を展開。Grappelliよりのスタイルでも非常にすばらしい表現力に満ちた演奏をしている。結果Silent Violinの能力と彼の多彩な能力をともに感じさせる内容。正式な形で発表されていないのが残念だ。

Christian Howes/Jazz on Sale(2003年)

DD.Jacksonのバンドにも参加していたChristian Howesの3作目のソロアルバム。編成は彼のヴァイオリンにピアノとベースというトリオ編成。今までのアルバムでは基本的にエレクトリックヴァイオリンを弾いていたHowesだが、本作ではアコースティックヴァイオリンを使用。1曲目「Blue Monk」冒頭から弦に弓をこすりつけたような引きつった音色が飛び出し驚かされるが、これはSAXなど管楽器の音色、スイング感をヴァイオリンで再現しようということだろう。他にも「Child is Born」「Blue in Green」などゆったりとした流れるような曲の少ない音数の中で、ヴァイオリンで様々なニュアンスを出そうとする彼の表現力への挑戦が様々に聴かれ、彼のモダンジャズへの憧憬、愛情が感じられる。ドラムレスということもあり、全体的にミディムテンポで落ち着いた感じの演奏で、若干地味ではあるがいいアルバムだ。

Christian Howes/Song For My Daughter(2004年)

こちらは2004年当時、本人のサイトからのみ購入できたCDR作品。内容は全編新作でライブ録音、スタジオセッションに、自らのストリングスとギターをオーバーダビングしたもの。当時生まれた娘にインスパイアされて制作された作品ということで、ほとんどの楽曲が彼のオリジナル。「Ten Yard」「Jazz For Sale」などに比べるとポップス、フュージョンに寄った内容で、曲によってはMark O'Conorの80年代作のようなカントリー、ブルーグラス系のテイストのあるニューエイジ風のものや、David Ragsdaleのようなアメリカンジャズロックな内容のものも。全体の印象としては悪くないのだが、散漫でかつ決定打に欠ける感じもするのも確か。そのあたりもあってメジャーからの発表がなかったのかもしれない。個々の楽曲の出来は決して悪くないのだが・・・。2011年4月現在、本人のサイトでもこの作品については購入することはできない。

Christian Howes/Heartfelt(2008年)

レコード会社を移籍し5年ぶりにメジャーから発表されたHowesの新作は、50年代から活躍するジャズピアノの重鎮であるRoger Kellawayをピアニスト兼アレンジャーとして招聘しての作品集。ストリングスを配しアコースティックヴァイオリンによりクラシカルに歌い上げるゴージャスなBGMといった趣の曲と、アコースティックコンボによる上質なハードバップなバーとが交互に半分ずつ収録されている。BGM系のものは正直、ちょっと甘ったるい印象があるが、アコースティックコンボでの演奏はすばらしい。ベースに名プレイヤーのBob Magnussonにより刻まれるすばらしいリズムにのって、Howesもアコースティックヴァイオリンで非常に切れと繊細さをあわせもつすばらしい演奏をしている。RogerとのDuo「Opus Half」での軽快なコンビネーションも見事。今までハードバップ系の演奏でのHowesはエレクトリックヴァイオリンを使用していたが、アコースティックでも同様以上の演奏ができることがわかる。個人的には全編コンボでの演奏を収録してほしかった。

D.D Jackson/ANTHEM(2000年)

アメリカの新鋭Jazz Pianist DD JacksonがE-Violin、b,drというカルテット編成で録音したFusionアルバムが本作。Fusionと言ってもファンク色やラテン的な色彩は乏しく、そのSpeed感はJazz Rock。DD JacksonはPiano以外にキーボードも多用するが、そのオルガン的な音色もその雰囲気を強くしている。メンバーはドラムにJack DeJohnette, saxに James Carter, bassにRichard Bonaという凄腕ぞろいだが、その中でも注目はPianoの対となるメロディ楽器Christian HowesによるE-violinだ。エレクトリックの太く粘り気のある音色によるSpeed感と歌心あふれるソロは全く見事で全編でそのすばらしいプレイを聴くことができる。楽曲自体の美しさ、かっこよさもあるが、このヴァイオリンなしにはこのアルバムは語れないと言っていい。 ギターレスの編成とは思えないアグレッシブな演奏が素晴らしい。特に1曲目の「Spring Song」はヴァイオリン入りジャズロックが好きな人は必聴の名曲。


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